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埼玉発「ぎょうざの満洲」 消費増税に負けない“独自すぎる”ビジネスモデル

 近頃、何かと話題の埼玉県。その埼玉県から飛翔して、東京だけでなく関西にも進出しているのが「ぎょうざの満洲」だ。埼玉県所沢市発祥だが、1月には川越市に新工場を竣工して、坂戸市から本社を移転したばかりである。(長浜淳之介,ITmedia)

 ぎょうざの満洲は町中華から発展している。創業から50年を超えており、ギョーザを中心とした中華食堂チェーンの業態だ。店舗数は92店(6月末現在)。ギョーザ界の王者「餃子の王将」と「大阪王将」の牙城である大阪にもひるまず出店。東京では、埼玉県内最大の都市・さいたま市大宮区出身の日高屋という強力な低価格チェーンと競合しながらも、確固たる地位を築いている。

 物販と宅配で売り上げの4割を稼ぐ

 冷凍ギョーザなどの物販と宅配で売り上げの4割を稼ぎ、店内飲食の割合が6割というのが大きな特徴だ。飲食店でありながら小売りの比重が大きく、消費税が10%に上がっても、軽減税率が適用されて8%に据え置かれるので、テークアウトで稼げる強みがある。客単価は875円となっている。

 年商は約81億3000万円(18年6月期)。店舗は10年前の56店から36店増えた。1年に3~4店のペースで着実に増加している。02年より16年連続で年商が伸びており、当時は33店で年商22億6000万円だったが、今では店舗数が約2.8倍、年商は約3.6倍に伸びた。

 ぎょうざの満洲はドミナントで出店しており、東武線と西武線の沿線に店舗が多い。中央線や京王線、京浜東北線などでもじわりと増えてきた。首都圏でも、東京都心部や城東、城南などには進出しておらず、千葉県と神奈川県にもまだ店舗がない。関西も大阪府北部と兵庫県東部に10店があるのみなので、発展の余地を残している。

 埼玉県内の坂戸市と鶴ヶ島市に約4万平方メートルの自社農場を構え、新鮮な野菜を栽培している。埼玉ですくすく育った安心・安全な野菜を、県民のみならず東京の人にも食べてもらって喜ばれている。

 今回は、“3割うまい!!”という不思議なキャッチフレーズで躍進する、ぎょうざの満洲のユニークなビジネスモデルにフォーカスする。

 ユニークなキャラクターと「3割うまい」

 ぎょうざの満洲のお店に行くと、いや応なしに目に入るのが、赤字に白の看板に描かれたイメージキャラクターの「ランちゃん」と、“3割うまい!!”という謎のキャッチフレーズだ。ランちゃんは、不二家のペコちゃんに微妙に似ているような似てないような印象を受ける。

 ランちゃんは、ラーメンの「ラ」と、チャーハンの「ン」から取ったとのことだが、ラーメンだけでも縮めればランになると突っ込んではいけないことになっている。 チャイナドレスを着て、髪の毛をお団子にし、料理人の帽子を被り、右手で3本の指を立てて「3割うまい」を示し、左手にはギョーザを盛り付けたお皿を持っている。モデルは、11歳の頃の池野谷ひろみ社長なのだそうだ。

 当初、キャラクターには名前がなかったが、社内公募で決まった。ちょうど1970年代で、キャンディーズが流行していたことが背景にある。

 98年に社長に就任した2代目の池野谷氏は、創業者・金子梅吉氏(現・会長)の長女。短大を卒業して4年ほど会社勤めをしていたが、結婚を機に退職。経理の面などで父を手伝っているうちに仕事が面白くなり、そのまま入社して10年後に社長になった。入社してからは、会社員時代に得た知識を生かして業務改善に取り組んだ。当時、手書きで行っていた経理業務に、表計算などのソフトを導入。さらには、レシピの材料をグラム単位でマニュアル化するなど、合理化を進めていった。

 「3割うまい」が意味するものは、池野谷社長によれば「原材料費を3割しっかりかける」ということだ。これは、飲食店経営の基本を意味しているという。つまり、基本に忠実な会社といった理念が表出された言葉だ。

 チェーンが大きくなり仕入れにスケールメリットが出てくると、原材料を安く仕入れられるようになるが、そこでもうけをため込むのではなくて、原材料をより良いものに見直し、さらに3割のコストをかけていく。そうした改善のサイクルを繰り返して、日々進歩。リピーターを離さず、新しい顧客を開拓してきた。そのため、ぎょうざの満洲では、3世代で来店するファンが多い。

 しかし、創業時はギョーザの安売りで人気を博しており、「他店の3割安い」または「同じ値段でも3割増しの満足感が得られる」が原点であったらしい。当時から、新聞の取材が来るほどの評判だった。

 ほぼ全員が注文する焼きギョーザ

 ぎょうざの満洲に来店した客のほぼ全員が注文するという焼きギョーザの値段は220円(税抜き、以下同)と安く、ボリュームもある。創業時は地域住民があっと驚く価格破壊を実践していた。

 「父はギョーザを包むのが下手で、仕方なく1店舗目からギョーザを自動的に包む機械を入れたのです。この機械は当時では珍しかったものでした。そうしたら、時間がかからずにどんどんできてしまって。たくさんつくれるので世間よりずっと安く売ったから、繁盛したのです」(池野谷社長)。

 金子氏は脱サラした当初、牛乳販売店を営んでいたが、町中華の流行に刺激されて3年ほどで中華料理店に商売替えをした。最初は調理ができなかったので、中華のコックを雇った。

 1964年に開業した「満洲里」という創業店は、新所沢の駅から歩いて20分ほどかかる場所にあった。住宅街というよりも畑や原野に囲まれたのどかな場所にあり、出前を取らなければ経営が成り立たなかった。

 出前に行く時間をなんとか削減できないかと考えていたが、ギョーザが売れるようになると、出前を止めてもやっていけるようになった。生ギョーザのテークアウトもその頃から多かった。所沢界わいが武蔵野うどんの産地で、小麦や粉もんを食べる文化に親しんでいたのも、成功要因に挙げられるだろう。埼玉のローカルチェーンとして著名な山田うどんも、所沢市が発祥である。

 「生ギョーザの持ち帰りはウチが流行らせたのではないか」と、池野谷社長ははにかみつつも自慢げに語る。ギョーザが大ヒットしたため、店の屋号も「ぎょうざの満洲」に変更してしまった。

 郊外立地で集客に苦労したため、以降は集客が見込めない限り、駅前を優先して直営で出店を重ねている。

 テークアウトを増やすための秘策

 現在、店舗の出入口付近にはギョーザなどを販売する縦長のリーチイン・ショーケースが設置されている。これは、コンビニで缶ビールなどのドリンクを売る際に使われているものだ。以前は、コンビニで弁当を売るショーケースをそのまま使っていたが、保冷効率を改善するために変更した。

 最初は対面販売でなければ持ち帰りギョーザは売れなかったのだが、「コンビニに慣れたからショーケースで売れるようになったのではないか」と池野谷社長は分析している。売り上げの40%を占めるテークアウトのうち、7%の宅配を除く33%がこのショーケースから生み出されている。

 ショーケースに入っている商品の売れ筋は、ギョーザが圧倒的で8割を占める。冷凍と冷蔵の比率は7:3で冷凍のほうが売れる。この他、生麺、焼豚などの商品を販売している。

 テークアウトのギョーザをより多く売るため、家でもお店と同等なおいしさに焼けるよう、PR活動を熱心に行っている。例えば、ギョーザのパックに一番おいしくなる焼き方を掲載している。また、店内に置かれた広報紙「満洲通信」で焼き方をレクチャーしたり、Instagramで「おうちでぎょうざの満洲」なるフォトコンテストを実施したりと、積極的に販売促進を行っている。このようなPRの効果が出て売れている面もある。

 店で出す焼きギョーザ、水ギョーザ、テークアウトの冷凍・冷蔵ギョーザは、同じ商品を形を変えて販売している。関東は坂戸工場、関西は大阪府吹田市の江坂工場から、1~2時間で配送できる範囲に出店。鮮度にこだわり、その日に販売する分を午前中に製造してお店に配送している。

 素材の改良はどのようにしているのか。ギョーザに使う豚肉は以前から国産を使っていたが、現在はさらに産地を指定している。池野谷社長が実際に足を運んで選んだ、食肉加工場を有する青森県産の「美保野ポーク」を中心に使用。同工場の衛生管理は日本一だと池野谷社長考えている。挽肉は赤身を3割増やし、脂肪分を減らして、カロリーを低減している。

 キャベツはもちろん国産だが、自社農園で栽培したものが3割ほど含まれている。皮に使う小麦は香りの高い北海道産を使い、加水率を50%と高めて、もっちり感を表現している。

 これによって、もっちりジューシーでありながら胃もたれしない、ヘルシーなギョーザができ上がった。

 ラーメンのスープに秘密あり

 半年前に稼働した川越の新本社工場では、ラーメンに使うスープを製造している。以前は鶴ヶ島に工場があったが、店舗が拡大したために手狭となったので移転した。

 川越工場では、これまでのずんどう鍋ではなく、圧力釜を新しく採用した。その導入効果として、従来なら8~10時間かかっていたスープを炊く時間が3分の1くらいにまで短縮。しかも、スープが透き通るようになり、濃厚になった。同じ素材を使って、2倍の分量のスープが取れるようになったので、コストの削減にもつながっている。

 このような圧力釜の効果で、ラーメンのスープは以前にもましてブレがなくなり、注文が増えているという。

 豚骨、豚足、鶏がら、煮干し、昆布、鰹、にんにく、しょうが、各種野菜といった素材からスープを取っている。圧力釜を使ったスープの劇的な変革に同社は自信を深めている。

 ぎょうざの満洲では、チャーハン、レバニラ炒め、肉野菜炒めなどといったあらゆる料理のタレに、ラーメン用のスープをだしとして使用している。スープの品質向上は、ラーメンのみならず、ほぼ全ての料理の味の改良に直結するからである。

 ぎょうざの満洲は、町中華の伝統を引き継いでレシピを守りつつも、化学調味料に頼らず、自社工場での製造、自社農園の野菜づくり、顔が見える生産者からの仕入れ、店舗での手づくりの料理にこだわり、食の安全・安心を追求している。また、高齢者でも飽きずに食べられるような、さっぱり感のあるヘルシーな現代風の料理に進化してきている。だから、“おひとり様”も含めた女性客が多い。男性客との比率が半々くらいになっている店も多いという。

 一部を除き、ご飯を玄米(金芽ロウカット玄米)に変えられるサービスを導入している。また、チャーハンは白米・玄米をそれぞれ半分ずつ使って提供するなど、中華にもかかわらず、ヘルシー色を強めているのも“ぶっ翔んで”いるところだ。

 また、ちょい飲みができるメニューも開発しており、キムチ、冷奴、メンマ、ザーサイは150円(ハーフサイズで80円)で提供している。焼きギョーザもハーフサイズがあり、3個150円である。お酒は紹興酒がグラスで260円、スーパーチューハイとグラスビールが320円となっている。

 持ち帰りギョーザは店によって異なるが、週に2回特売日があり、320円の冷凍・冷蔵ギョーザが255円になる。このように消費者の財布にやさしいサービスも、ぎょうざの満洲の魅力の1つだ。

 池野谷社長は毎日、お店で提供しているのと同じギョーザやラーメンを食べているそうだ。中華料理を毎日食べて、肥満にならず健康で長生きするのが、人生最大の課題という。