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難培養アーキアの分離培養に成功/「エネルギーがゼロ」の束縛状態を観測

 理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 開発研究員・加藤真悟

 難培養アーキア(古細菌)の分離培養に成功

 自然界には数百万種以上の微生物が存在すると推定されているが、その大半は培養できていないため、機能解析が進んでおらず、「微生物ダークマター」と呼ばれている。また、50℃を超える高温の温泉環境には、真核生物でもバクテリア(細菌)でもない「第三の生物」ともいえるアーキア(古細菌)が数多く生息している。これらの多くもまだ培養できておらず、その生理機能は不明であり、生態系の中での役割もよく分かっていない。

≪図 本研究で分離培養したConexivisphaera calidusの系統学的位置≫ アーキアに属する代表的な微生物のゲノム中の122個のマーカータンパク配列に基づいて作成した最尤(さいゆう)系統樹。黒で示した系統群は、培養種を含む系統群。赤で示した系統群は、まだ培養種が報告されておらず、培養に依存しない分子生物学的手法によりゲノム配列のみが報告されている系統群。アーキアの大部分の系統群は、まだ培養されていない系統群であることが分かる。本研究で分離培養したC. calidusは青で示してあり、Thaumarchaeota(タウムアーキオータ)門の根元に位置する。
≪図 STM/STSを用いたトンネルスペクトル測定とその結果≫(a)STMで量子渦におけるトンネルスペクトル測定の様子。(b)STMで観測された1テスラの磁場下における量子渦像。18個の明るいスポットが量子渦である。(c)(b)の量子渦-#1におけるトンネルスペクトル。赤点は実験結果、赤線は実験結果をマルチローレンツフィッティングした結果。青線は各ピークのフィッティング結果。赤矢印で示したピークは、印加電圧がゼロ、すなわちエネルギーがゼロの束縛状態である。(d)(b)の量子渦-#2におけるトンネルスペクトル。赤点、赤線、青線は(b)と同じ。エネルギーがゼロのピークは見られない。
理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 開発研究員・加藤真悟氏
理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チーム 研究員・町田理氏

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、微生物ダークマターの一部である難培養アーキアを、栃木県内の温泉地(57℃、pH2.2)から分離培養することに成功し、Conexivisphaera calidus(C. calidus)と名付けた。全ゲノム解析の結果、C. calidusはタウムアーキオータ(Thaumarchaeota)門と呼ばれる分類群に属し、同門の中でも進化的に早く分岐した系統であることが分かった。また、詳しい性状解析の結果、C. calidusはタンパク質や脂質をエネルギー源および炭素源として食べて生育し、さらには鉄や硫黄を還元する好熱好酸性の微生物であることが明らかになった。

 本研究成果は、ブラックボックスとなっている自然界の物質循環における微生物の役割の解明や、まだ謎の多いアーキアの進化の理解に大きく貢献すると期待できる。

【プロフィル】加藤真悟

 かとう・しんご 2009年東京薬科大学大学院生命科学研究科博士課程後期修了。博士(生命科学)。理化学研究所基礎科学特別研究員、デラウェア大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、海洋研究開発機構特任研究員などを経て、18年4月から現職。好熱性アーキアや鉄酸化細菌など、難培養微生物の生理・生態学研究を進めている。

 ■コメント=地球上に生息する全ての微生物種を分離培養して、その生態・進化を解き明かしたい。

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 理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チーム 研究員・町田理

 「エネルギーがゼロ」の束縛状態を観測

 通常、固体中に存在するホール(正孔)や電子といった粒子には、区別可能な反粒子が存在する。一方で、理論的には粒子と反粒子の区別がつかない粒子が存在可能であり、これを「マヨラナ粒子」と呼ぶ。マヨラナ粒子は、電荷を持たず、エネルギーが厳密にゼロの奇妙な粒子で、トポロジカル超伝導体の端部や超伝導電流の渦である「量子渦」に局在すると考えられている。

 マヨラナ粒子はノイズに強い次世代量子計算の基本要素として期待されており、マヨラナ粒子の実験的検証が試みられてきた。しかし、これまでの測定ではエネルギー分解能が不十分で、決定的な証拠が得られていなかった。

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、これまでにない高いエネルギー(20マイクロ電子ボルト)分解能を実現するために、100ミリケルビン以下の超低温で動作する走査型トンネル顕微鏡(STM)を新たに開発した。そして、トポロジカル超伝導体FeTe0.6Se0.4(Fe:鉄、Te:テルル、Se:セレン)の量子渦近傍の状態を詳しく調べた結果、エネルギーがゼロの束縛状態の観測に成功した。この状態は、通常の電子では説明することができず、量子渦に局在したマヨラナ粒子由来であることを強く示唆している。

 本研究成果は、次世代の量子コンピュータの実現に向けたマヨラナ粒子の検出と制御法の基盤になると期待できる。

【プロフィル】町田理

 まちだ・ただし 2009年東京理科大学理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。物質・材料研究機構超伝導材料センター特別研究員、東京理科大学理学部助教などを経て、14年から現職。

 ■コメント=走査型トンネル顕微鏡を用いて物質中で起きる新現象の発見とその解明を行いたい。

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 ■8月25日に「理研サイエンスレクチャー in 函館」開催

 理化学研究所は北海道函館市で開催する「はこだて国際科学祭」の会期中に、「サイエンスレクチャー」を開く。

 本レクチャーでは、理研の研究者が植物と微生物の共生現象の解明とその産業利用を目指した研究を分かりやすくご紹介。地球規模での持続可能な食料供給や環境負荷軽減について考える。

 開催日:2019年8月25日(日)

 時間:11:00~12:00(10時30分開場)

 対象:高校生・大学生・一般

 会場:函館市中央図書館 視聴覚ホール(函館市五稜郭町26番1号)

 定員:150人(先着順)事前申し込みはなし

 参加費:無料

 講演内容:微生物の力を利用して農業へ貢献する研究

 講演者:市橋泰範 チームリーダー

     理研 バイオリソース研究センター 植物-微生物共生研究開発チーム

 関連イベント:はこだて国際科学祭 https://www.sciencefestival.jp/festival/