【クルマ三昧】ホンダF1の13年ぶりVは技術力の証明 名門と決別しレッドブルで快挙

 
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターからシャンパンを浴びせられ笑顔のフェルスタッペン
優勝したレッドブルのエースドライバー、マックス・フェルスタッペン。ホンダは13年ぶりのF1優勝となった
チームオーナーのホーナー氏と抱き合うホンダの山本雅史F1マネージングディレクター
表彰台でホンダのロゴを指さすマックス・フェルスタッペン
ゴールの瞬間、13年ぶりの勝利に歓喜するレッドブルホンダのピットクルー
オランダから駆け付けた大応援団の前を駆け抜けるフェルスタッペン。後方にはレッドブルの巨大オブジェが見える
オーストリアGPで優勝したマックス・フェルスタッペン
レッドブルホンダが酷暑のレースを制した
スタンド前を駆け抜けるフェルスタッペン

 ホンダF1エンジンを搭載するレッドブルホンダが、13年ぶりの勝利を手にした。先のF1第9戦オーストラリアGPでの快挙である。

 名門マクラーレンと決別

 ホンダはF1の世界で黄金期を経験している。本田宗一郎のかじ取りにより1964年から参戦を開始した黎明の第1期。セナ・プロが世界を席巻した黄金の第2期。エンジンをレーシングチームに供給するだけではなく、自らシャシーコンストラクターとしても活動を開始した飛躍の第3期。そして2006年、当時のエースドライバーであったジェンソン・バトンが手にしたハンガリーGPでの勝利は、苦悩の第4期の象徴的な出来ごとだった。それを最後にホンダは長い低迷期を過していたのだ。

 特に深刻だったのは、2013年のしばらくの活動休止後の戦跡である。ジョイントしたチームが名門マクラーレンだったことで、不振の原因がホンダ製エンジンにあるとされた。実際に当時のドライバーが、「エンジンパワーが不足していてレースにならない」、そう口にするなど、ホンダの評判は地に落ちていた。そんな中、マクラーレンと決別し、パートナーチームを有力レッドブルに変更すると、いきなり速さを披露。不調の原因がホンダ製エンジンではなかった事を証明したのである。

 特に今回は快心のレースだったと言えよう。というのも、今年のオーストリアGPは例年にも勝る酷暑に襲われたからだ。体感気温は40℃オーバー、路面温度は触れれば熱く感じるほどの51℃に達した。レーシングマシンは熱に弱い。特に、空気を取り入れてガソリンと混合させる内燃機関は、空気の密度が低くなる高温ではパワーダウンが顕著に表れる。もちろんラジエターでの冷却にも限りがある。ハイブリッドであるF1ではモーターも異常過熱する心配もある。熱源を抱えるF1マシンにとって、冷却の妨げになる酷暑は、もっとも戦闘力がもがれる環境なのである。

 だが、そこでホンダF1は勝った。そこだからこそホンダF1は勝利した。それはすなわち、技術力の証明に他ならない。

 凱旋レースで勝利

 開発リーダーの山本雅史F1マネージングディレクターは、オーストリアGPに挑むにあたって期するものがあったと言う。メインスポンサーでありチームオーナーであるレッドブルは、オーストリアの企業である。いわば凱旋レースである。そこで勝つために開発を徹底したというのだ。

 エースドライバーであるM・フェルスタッペン(オランダ)のドライビングも、酷暑のサーキットで冴え渡った。というのも、レーシングマシンの冷却は走行風に頼る。だから、ライバルの背後で走行を続けたくない。フレッシュエアが得られないからだ。そんな状況下では、ライバルをロックオンしたら躊躇せずに挑みかかる攻撃的なM・フェルスタッペンのドライビングスタイルは好都合だった。ライバルの背後で、モタモタと熱風を浴びないからである。

 フェラーリを抜き去り優勝

 実際にはレースでは、予選3番手からスタートしたM・フェルスタッペンがライバルを駆逐、途中で何度か後退する場面もあったが、最終的にはポールポジションからスタートしたフェラーリを抜き去り、13年ぶりの勝利を奪い取ったのだ。

 トップからスタートしたことで常にフレッシュエアを得ながら有利に戦うフェラーリを、背後から抜き去ったことが、ホンダF1エンジンが過酷な環境でも性能低下がなかったことを証明しているように思えた。

 最近の本田技研工業へ入社する新卒社員の多くは、ホンダF1の活躍には興味がないという。かつての栄光を知らない層も少なくない。ホンダブランドも迷走している。進路が見えないホンダにとって、今回のF1GP13年ぶりの優勝が、何かの起爆剤になるかも知れない。

【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】こちらからどうぞ。