【試乗スケッチ】レース活動からEV開発へ軸足 ボルボの「ポールスター」を知ってる?

 
「Polestar Engineered」のプログラムが組み込まれたXC40
右端に輝く「Polestar Engineered」のエンブレム
元気に駆け回りたいときは「Polestar Engineered」にアジャスト
計器内に光り輝く「Polestar Engineered」のロゴ
ボルボのコンパクトSUV「XC40」
ボルボのコンパクトSUV「XC40」

 「ポールスターレーシング」はこれまで数々の栄光を手にしてきた。ボルボのモータースポーツ活動をワークスとして担ってきたことで、常勝集団を続けてきたのだ。日本ではまだメジャーではないが、スウェーデンはもちろんのこと、欧州ではたびたびその名を耳にする。近年では、WTCC世界ツーリングカー選手権王者の印象が深い。

 ただ、このところの活動は様変わりしている。レース参戦がメインではなく、EVやハイブリッドモデルの開発に軸足を移しているのだ。ボルボのレース部隊という油臭さを払拭し、次世代の先進的な戦略を担う。

 その端的な具象が、市販車のドライビングモードに組み込まれている「Polestar Engineered」だ。

 コンパクトSUVの「XC40」には、ドライバーが任意に、好みのドライビングモードが選択できるよう、いくつかの設定が可能だ。

 「Eco」は経済性を高めてくれる。燃費を節約するためにエンジン回転を下げる、スロットルの開度も控え目である。「OffRoad」はもちろん未舗装路踏破用だ。不要な変速を拒否するし、低回転域のトルクも強化される。「Individual」は、それらを任意に細かいアジャストが可能である。そして真打ちの「Polestar Engineered」は、かつてのポールスターのモータースポーツでの活躍から連想するように、いわばスポーツモードだ。

 ドライブモードを使い分ける

 「今日は家族と優雅にドライブしたいんだ」

 そんな日には、ノーマルモードでクルージングすれば良い。

 「通勤だから経済的に走りたい」

 そう希望するのならば「エコ」モードが最適だろう。

 「今日はひとりだから、ワインディングを元気に駆け回りたい」

 そんな気持ちになったら「Polestar Engineered」にアジャストするのをお勧めする。計器内に「Polestar」の文字が点灯すると同時に、世界が明るく開けてくるような錯覚に陥る。ひと汗かきたくなった。

 XC40で「Polestar」の走りは、躍動感が嵩上げされた感覚である。スロットルレスポンスが鋭くなり、ギアシフトスピードが小気味良くなった。安易に高めのギアを選ばない。そのためにコーナリングも楽しい。コーナーを脱出する際の加速も気持ち良いのである。そもそもエンジンパフォーマンスが高い。直列4気筒2リッターターボエンジンの過給圧が引き上げられた感覚である。

 とはいうものの、モータースポーツのイメージから想像するような、過激な走り味ではまったくない。最大馬力はノーマルが252psから255psにしか高まっていない。その差は3ps。体感できない数字である。

 だが、なぜ躍動感を意識できたかは、そのトルク特性にある。ピークの出力は3psしか違いがなくても、ハーフスロットルでのミドルレンジトルクは350Nmから400Nmに高まっているのだ。アクセルペダルを床まで踏みこみ、エンジンに鞭を打って走らせれば3psの違いでしかないのだが、床踏みせずユルユルと加速させるとグイグイと来る。アクセル全開ではなく、ハーフスロットルで力強い。それが「Polestar Engineered」の個性なのだ。

 ちなみに、「Polestar Engineered」は新車購入時だけでなく、新車納車後に取り入れる事も可能だ。数年ドライブして、そろそろ別の走り味が欲しい…。そんなときからでも設定可能なのだ。いわばアップデートである。ディーラーでの作業時間は約10分。18.8万円の追加投資ですむという。

 かつてのレース部門がEV戦略に組み込まれるのはどこか淋しくもある。華やかな最前線で活躍してほしいとも思う。だが、レースで培った高度な技術が、これからのEV戦略に必要とされる事もまたどこか嬉しくもあるのだ。

 「Polestar Engineered」となって光り輝く計器内のロゴをながめながら、かつての「Polestar Racing」の活躍に思いをはせた。

【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。