高論卓説

森林浴に見る地方の可能性 健康効果で誘客、創出される産業・雇用

 先日、「森林浴による健康増進等に関する調査研究-森林浴による内分泌系への影響」という実験に被験者として参加した。この実験は、日本医科大学の李卿先生らが行ったもので、3日間にわたって、長野・木曽の赤沢自然休養林と伊那市の街を散策し、森林が人体に与える影響を測定した。

 実験では、2班に分かれ、午前と午後に2時間ずつ2つの自然と都市部の異なった環境の中で、五感を使いながらゆっくり歩き、その前後で採血やPOMSテストなどストレスに対する調査が行われた。

 日本では2004年から実質的な森林浴健康効果の研究が始まったが、李先生は、その世界的な権威で、これまでさまざまの実験を行い、森林浴が人体に与える健康効果を実証してきた。研究成果をまとめた著書「Shinrin-Yoku」は、世界25言語に翻訳され、30以上の国・地域で出版(19年6月現在)。一般的にも広く世界中で話題となっている。

 これまで李先生らの実験結果によると、森林浴により、がんなどに対する免疫細胞であるNK細胞(ナチュラル・キラー細胞)の増加や活性が認められて、それが約1カ月も持続するという驚くべき結果が出ている。分かりやすく言うと、森をゆっくり楽しむように半日歩くと、がんに対する免疫力が高まり、その効果は1カ月間続くというものである。

 今回の実験では、森林浴の脳内ホルモンへの影響を探り、ストレスや抑鬱などの精神的な改善効果を検証するとのことで、森林が人体に与える影響力をさらに深く探っていくことになる。この森林浴という新しい森の活用法は、これからの日本にさまざまな可能性を与える。

 第1に、現代人最大の問題であるストレスの軽減に森が活用できるということ。特に都市部にいる現代人はストレスにあふれた生活をおくっている。そのストレスから起こるとされるがんに対する免疫力が森により高まるということは、日本だけに関わらず世界的にも朗報だ。

 第2に、森を日本は豊富に持っているという事実。森林浴が世界的に広がっていけば、素晴らしい森を持っていて、森林浴発祥の地でもある日本の存在意義はクローズアップされていくことになる。インバウンドの格好の材料だ。

 第3に、森に注目が集まることは、都会に集約する財の地方分散に寄与する。アクティブ・シニアが森林ガイドをしたり、全国に64ある森林セラピー基地やそれに準じる施設が広がったりすると、地方での産業や雇用の創出にもつながり、森による地域活性が具体化する。

 このように、日本発の森林浴の可能性は多様で大きい。このことは、日本の未来にとって重要な戦略への示唆を与えてくれる。それは、他の国にない日本の素晴らしさを大切にすることこそが、日本が向かうべき方向だということだ。

 日本には、世界に誇るべきものがたくさんある。それらの多くは日本が自然と共生することで培ってきた知恵の結晶が多い。森もそうであるが、自然の豊かさと恩恵、類を見ない木や紙の自然素材の建造物、自然が育んだ食文化、自然を恐れて折り合いをつけていく賢さ、さらには、唯一無二で各地に散らばる伝統文化や伝統技術などだ。

 それら誇るべきものの多くは地方にある。地方こそ、日本の宝と言える。この宝を今、全力で強みに変えていかなければ、日本の未来はあり得ない。

【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。