【プロジェクト最前線】都市と秩父の自然に溶け込むデザインに 西武鉄道新型特急「ラビュー」

 
「ラビュー」プロジェクトチームメンバーの(左から)賀田課長補佐、大山さん、饗庭主任、牛塚主任
西武鉄道の新型特急列車「ラビュー」
「ラビュー」の車内は、足元まで大きく空いた窓と黄色のシートが特徴
1969年10月の西武秩父線開業式の様子(西武鉄道提供)

 西武鉄道が今年3月から運行を始めた新型特急「Laview(ラビュー)」は、今年のゴールデンウイークでは乗客数が前年の同時刻列車と比べ、6割増になるなど、上々の滑り出しをみせ、人気を集めている。2020東京五輪・パラリンピックや埼玉県秩父方面に向けた観光需要と、通勤や帰宅の際の有料着席サービスといったビジネス需要の、両方をカバーする同社の「フラッグシップトレイン」として、期待を集めている。

 若手チームで車両を企画

 ラビューのプロジェクトは、12年の西武鉄道100周年のタイミングでスタートした。西武の主力特急列車「レッドアロー10000系」は新造から25年を経過。老朽化している中で、新型への切り替えが必要だった。そこで西武鉄道だけでなく、西武ホールディングスやグループ各社から、鉄道事業以外も担当する若手社員らを集めたプロジェクトチームを発足させた。通常なら車両部が新型車両の企画を決めていくが、一般の利用者と同じ目線、意見を取り入れるため、こういったチームとして議論を始めた。

 「せっかくつくるなら次の100年に向けたものにすべきだ。今までに見たことのない特急にしたい」

 メンバーの計画管理部管理課の賀田(よした)修一課長補佐は、チームの思いをこう振り返った。その中で出てきたのが、ビジネスを意識した際の都市、そして秩父への観光を意識した自然、その両方にも、柔らかく風景に溶け込む車両デザインと、くつろげるような車内空間の実現だった。それがこれまでの列車にはほとんどないラビューの丸形の車両デザインと、自宅のリビングを意識した大きな窓などのコンセプトが固まっていった。

 先頭部分の球面デザインについて、メンバーで車両部車両課の牛塚勝也主任は「球体デザインは構造上難しいと、車両メーカーから相当敬遠された」と話す。それでも形状デザインを何度もやり直し、構造や強度の面での課題をクリアさせ、曲面ガラスを特注することで、メーカーを説得できたという。また、雨や夜間に視界がぼやけたり、二重に映ったりするのではないかと、視認性についての懸念もあった。これに対し、運転席からの視認性を入念に検討するため、実寸大のモックアップサンプルをつくり、時間や環境を変えて、何度も検証し、問題がないことを確認した。牛塚主任は「そうやって、やっと、球面ガラスを使ってのデザインが決定した」と語る。

 車内空間も苦心があった。メンバーの計画管理部管理課の大山早紀さんは「外の光や景色が入り込んでくるので、車内にいながら、あたかも森の中を、走っている感覚になっている」と、足元近くまで大きく空いた窓の効果をアピールする。しかし、窓を大きくするということはアルミボディーに大きな穴を開けることになり、ボディーの強度を弱めることにつながる。そこで、重ねるアルミ層を増やすことで、安全性を確保した。

 車内空間にも苦心

 客室は外の光を多く取り入れたことで明るく、そこに暖かな黄色を基調にした座席シートが並ぶ。鉄道用としてはこれまでにない、体を優しく包み込むようなソファを意識した。

 ただ、プロジェクトチームでは、シートは複数の色を採用しようかということも話し合われた。だが、その後のメンテナンスなどを考慮して、その案はボツになったという。

 こういった形で、車体、車内が決まっていった。メンバーの西武ホールディングス経理部の饗庭淳矩(あいば・あつのり)主任は「メンバーの中で、西武鉄道のイメージを体現するものができたと認識は一致した」と語る。西武線は都市と観光地の両方を走るもので「現実と非現実の両方を兼ね備えるものでなくてはならないし、その中では、快適性を重視する必要がある」からで、その思いを詰めた車両が完成に近づいた。

 最後に残った課題は、ネーミングだった。既存のレッドアローは、秩父駅近辺では特急列車に乗ることを「レッドに乗る」と表現するほどのブランド。饗庭主任によれば、「50年の歴史を持つレッドアローのブランドをゼロにはしたくないという社内の意見が多かった」という。それでもラグジュアリーなリビングの「L」、アローの「a」、そして大きな窓からのビューの「view」を組み合わせた「ラビュー」のネーミングは、読みやすさもあって沿線の利用者からも好評で、メンバーとしても安堵(あんど)した。

 西武鉄道では、ラビューは運行開始段階では西武池袋線だけの運用計画だった。しかし、具体的な決定はないが、西武新宿線での利用の観測が出始めるなど、同社のフラッグシップ列車として存在感を高めようとしている。(平尾孝)

 ≪焦点≫「コト消費」意識、50周年キャンペーン

 西武鉄道では、西武秩父線開通50周年を記念してのキャンペーンを展開中だ。西武池袋線からつながる吾野駅(埼玉県飯能市)-西武秩父駅(同秩父市)の秩父線は1969年10月14日に開通。同時に、特急レッドアローも登場した。

 当時、私鉄では最長とされた全長4.8キロの正丸トンネルで山を貫いた秩父線では、それまで、鉄道を使えば、東京からは約3時間かかるとされていた秩父を、特急で83分(当時)で結び、東京都心から手軽に行けるようになった。

 西武鉄道では、秩父を東京に近い箱根や日光に続く新しい行楽地にしたいと考えている。そのため、開通直後から各種の観光施設を積極的につくってきた。91年には、埼玉県と共同開発の「秩父ミューズパーク」が開園し、テニスコートやアイススケート場がオープンした。だが、バブル経済崩壊によって、経営は苦しく、2006年に施設を秩父市に無償譲渡するなど、大型レジャー施設のプロジェクトは軌道には乗らなかった。

 現在は、かつての箱もの優先から、秩父の祭りや、四季を通じたハイキングや各種アクティビティーなど「コト消費」を意識した取り組みを進めている。人気女優を起用したテレビCMなどの効果もあり、若い女性が多く訪れる観光地として、売り出していく。

 秩父線キャンペーンは来年3月まで。10月には記念セレモニーなどを予定している。

 ■西武鉄道

 【本社】埼玉県所沢市くすのき台1-11-1

 【設立】1912年5月7日

 【資本金】216億円

 【従業員数】2万3677人(連結、2019年3月期末時点)

 【営業収益】5659億円(同)

 【旅客営業キロ】176.6キロ

 【1日平均輸送人員】182万2000人