【試乗スケッチ】外観や室内の質感アップ、でも走り味は… メルセデスの新型Bクラス
ズングリムックリの、商用車的なイメージが強かったメルセデス・ベンツの「Bクラス」が、やや洗練されたように見えるのは僕だけだろうか。
小型ミニバンは群雄割拠
7年ぶりのフルモデルチェンジだというから、一般的なモデルサイクルである。僕の中のBクラスは没個性の象徴であり、街中でもあまり見かけることがなく(対象ではないから意識しないだけか…)、気がつけば7年もの月日が過ぎ去ったのかと、改めて時の流れの早さを突きつけられた思いがする。
この7年間で、この手のコンパクトミニバン的なカテゴリーは群雄割拠、強烈な個性を主張するライバルがうごめいている。デザイン的にハジけたモデルも少なくなく、ただメルセデスのブランド力だけでは生き残れない。
それでもBクラスには主張があった。コンパクトでありながらのスペースユーティリティの優位性が生命線だった。だがそれに割り切るがあまり、小さなミニバンを見ているような、天地に間延びしただけの印象が強く、メルセデスらしい高級感は薄く、力強さも感じない。商用車依然とした雰囲気であることによって、街に埋れてしまっていたというわけだ。それでも販売的に苦戦していただけではなかったのは、実用的な魅力が支持されていたからに他ならない。
そんな僕の中では没個性のBクラスも、新型になって存在感が増したように思う。デザイン的にはロー&ワイド。最近のメルセデス顔は、グリルが薄めでかつ、ライトまわりは切長だから、イケメン度は増したように感じる。視覚的には先代よりはトールボーイ感が抑えられた。スポーティーなデザインになったのである。
走行フィールに進化の痕跡
搭載するエンジンは2タイプ。「B180」には直列4気筒1.4リッターターボが与えられ、そこに7速DCTが組み合わされる。「B200d」には直列4気筒2リッターのディーゼルターボ、こちらは8速DCTとの組み合わせである。
今回の試乗車は「B180」のAMGライン。車両本体価格は384万円。オプションや保証プラスコミコミで約546万円となる。
乗り込んだ直後の印象は悪くはない。商用車的なものではなく、質感の高さが感じされる。やや横に広く感じたし、先代で感じた、無駄に頭上が広いものではなかった。窮屈ではないが、適度なタイト感がある。
走行フィールにも進化の痕跡が確認できる。エンジントルクは必要にして充分なレベルを確保している。これまでのような微低速ではアクセルの反応が薄く、遅れてトルクが嵩上げされる不自然さは薄らいでいる。1.4リッターターボという小排気量ガソリンターボの悪癖を取り除くことに力を注いだ形跡がある。
だが、低回転トルクの細さや、それを補おうとしたが余り低回転レスポンスの物足りなさはなくはない。小排気量ターボの哀しさは完璧には取り除かれてはいなかった。
絶対的なトルクに不足はないが、フル乗車でのストップ&ゴーでは、ストレスが募りそうである。ダウンサイジングのデメリットを補おうとした痕跡は認めるが、まだ充分ではなかったということ。
音や振動にも雑味がある。室内の質感はとても高いのに、走り出すとちょっとガッカリ…なところがなくはなかった。メルセデスの高級車は圧倒的に優れていながら、コンパクトモデルになると廉価版的な質感になるのは相変わらず残念に思えた。
ともあれ、スポーティーな印象が高まり、プレミアム度が増したことは朗報だ。アーバンライフを心地よく演出する良きパートナーとしての資質が高まったことは確かだろう。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。
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