鹿島アントラーズ買収 メルカリJ1進出への期待
ほおっ、と思った。
フリーマーケット大手、メルカリによるサッカーJリーグ、鹿島アントラーズ買収である。メルカリは運営会社鹿島アントラーズ・エフ・シーの株式の約60%を日本製鉄などから約16億円で買い取り、経営権を手にした。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)
「ビジネス」の価値
鹿島は1942年創部の住友金属サッカー部を母体に、「オリジナル10」と呼ばれる93年、Jリーグ創設10クラブの一つ。J1最多19タイトルを誇る。地元密着度も高く、2018年度決算では73億3000万円の売り上げを計上し、神戸、浦和に続く。4億2600万円の最終利益、純資産21億6600万円はともにJ1で2位と経営状況は良好である。
なぜ今、“身売り”なのか。「BtoB」から「BtoC」へ、ビジネスとしてのスポーツの変化にあると考える。
鹿島の元の“親会社”住友金属も、新日鉄と合併し新日鉄住金から今春、名義変更した今の“親会社”の日本製鉄も直接、消費者を相手にする企業ではない。企業を取引対象とする「BtoB」の会社であり、特色である「重厚長大」は安定的に企業スポーツを支えてきた。一方で、クラブは自社グループ統合の象徴ともなっており、視線は内向きだったともいえよう。
昨今、プロスポーツはビジネス対象としての価値がクローズアップされており、企業としてのあり方が問われるようになって久しい。そこに登場してきたのがIT企業である。インターネットの普及によって、さまざまな分野で直接、消費者に訴えかける「BtoC」の手法が広く浸透し、スポーツの世界にも影響を与えるようになった。
メルカリに期待されるのも鹿島地域に限定的だったファン層の拡大、とりわけ女性層への浸透、さらに経営のスピード感とITを用いた新しいビジネス機会の創出である。それがメルカリの「鹿島の伝統ブランド」を生かしながら同社の「ブランド力を高める」(メルカリの小泉文明社長)狙いと合致した。
顧客ニーズに応える
近年、「ITとスポーツは親和性が高い」と指摘される。その先駆けが04年にプロ野球に参入したソフトバンクと楽天、そして11年のDeNAである。ITを駆使して消費者と向き合い、観客のニーズに応えて浸透。それぞれ福岡、仙台、横浜といった都市とも連携を強化してにぎわいを創出、人気球団となった。
Jリーグでは14年に楽天が川崎製鉄(現JFEスチール)水島サッカー部に端を発したヴィッセル神戸を完全子会社化。三木谷浩史オーナー(楽天会長兼社長)のポケットマネーで大物外国人選手を獲得するなど、これまでにない手法で活性化させてきた。
さらに、通信販売大手のジャパネットたかたがV・ファーレン長崎、サイバーエージェントがFC町田ゼルビアの経営権を保有し、ゲーム会社のアカツキも東京ヴェルディの経営権を取得、ミクシィはFC東京とスポンサー契約を結んだ。プロバスケットボールのBリーグでも、DeNAが川崎ブレイブサンダース、ミクシィが千葉ジェッツふなばしの経営権を獲得している。
まさに時代を反映した姿であり、プロ野球参入への壁は依然高いものの、Jリーグ、BリーグへのIT企業参画の動きは高まると思われる。問題はIT企業特有の見極めの速さ。スポーツ関連は人材育成、地元密着など長期的な視点が必要である。メルカリに限らず、今後の動きを注視したい。
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【プロフィル】佐野慎輔
さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。