配車アプリ「グラブ(Grab)」のタイでの快進撃が止まらない。2018年4月にトップシェアを誇っていた「ウーバー・テクノロジーズ」(米)が東南アジア市場から撤退し、事業をすべてグラブへ譲渡し統合したため業界トップへ躍り出た。
タイでは、タクシーのように利用できる配車サービスの他、昨年スタートさせたデリバリーサービス「グラブフード」、さらにホテル予約サービスをホテル予約サイト最大手「ブッキングドットコム」(米)と提携して始めるなどサービスを多角化させている。
グラブのメインサービスである配車サービスは、タクシーのサービスレベルが低く、いわゆるボッタクリで悪名が高いベトナムやフィリピン、インドネシアなどで特に重宝され利用者を増やしている。
タイでも日本人旅行者や出張者だけでなく、現地在住者の利用も増えている。
高いか?手頃か? 運賃に差
タイの首都バンコクでグラブを利用すると、一般のメータータクシーより運賃は総じて高い。たとえば国際空港からバンコクの市街まで(※)高速を使わずにメーターで230バーツ(約810円)ほどで行けるが、グラブだと316から436バーツ(約1120円~1540円)と表示された。車種などにより運賃に差があり、そこから利用したい車を選択する仕組みだ。(※スワンナプーム国際空港から高架鉄道のBTSアソーク駅まで移動した場合、直線距離約21km)
観光立国でありASEANを代表する大都市でもあるバンコクは、都市インフラが整っており、タクシー網も成熟している。そのため、タイでは悪徳タクシー天国のベトナムのような悪質なボッタクリは少ないが、最初からメーターを使わず言い値で乗車させるタクシーは少なくない。さらに、バンコクへの短期滞在者や在留邦人を悩ませるのは、バンコクは場所によって乗車拒否が常習化していることだ。
「グラブなら多少高くても乗車拒否されずに確実に乗ることができるので、乗車拒否が多い場所から移動するときにはグラブを使っています」(タイ在住17年の日本人男性)
渋滞時に便利な「グラブバイク」
さらにバンコクは、とんでもなく渋滞することでも知られているため、幹線路であるスクンビット通りのラッシュ時は、脇道から迂回するなど避けなければならない。こんな時に便利なのがグラブバイクとなる。バイクなので、車間をすり抜けて短時間で移動できるからだ。
タイは、バイクタクシーが各地にあり市民の足となっている。多くが、ソイと呼ばれる小道を移動するときに使われるミニタクシーなのだが、少し遠くへも行くこともできる。しかし、その際には交渉となり運賃が大幅に跳ね上がる。タイ語が不自由だったり相場を知らなかったら簡単にボッタクられてしまうのだ。そんな時に前もって料金が分かりクレジットカード払いのグラブが圧倒的に便利になってくる。
また、歓楽街から離れ、流しのタクシーが通らないような郊外でも、現状、グラブはすぐにブッキングできるのでタイではグラブは郊外こそ便利に使えるサービスと言える。
しかし、タイでのグラブの快進撃にともないトラブルも起こり始めている。
れっきとした警察組織「ツーリストポリス」
配車アプリについては、韓国で職が奪われているとしてタクシードライバーたちがデモを起こしたり、インドネシアのバリ島でもグラブを使用しないようにとの看板が登場するなど、既存のタクシードライバーたちからの反発が起こり始めている。
観光立国で、タクシー制度が整っているタイにおいても今後、社会問題になるのでは感じさせる出来事に遭遇した。
6月、タイ最大の歓楽街パタヤの著名な観光地からホテルまでグラブで帰ろうと探すと、いとも簡単に見つかった。すると、ドライバーから観光地から少し通りへ出てくれとメッセージが飛んできた。その指示に従い、通りへ出たところへブッキングしたトヨタ車が到着したので、ナンバープレートを確認して、乗り込もうとしたところ、1人の中年男性が怪訝そうな顔で駆け寄ってきた。
「ここは指定タクシー以外は禁止なので乗ってはいけない」
「あなたは誰だ?」と聞くと、観光地の関係者で「ツーリストポリス」だと言う。
ツーリストポリスは、タイ独自の観光客の安全を守るために一般警察とは別に組織されている観光・スポーツ省の監督下にあるれっきとした警察組織だ。
それを聞いたグラブのドライバーは反論することもなく著者を乗車させることを諦めた。警察手帳のようなものを確認したわけではないので、この男性が本物なのかは定かではない。
「地方の1観光地の独断でグラブ規制は難しいと思う。その場所の行政判断となるはず」(バンコク在住の日本人ジャーナリスト)
ということは、地元の既存タクシーに依頼されて事故などを防ぐ名目で強制力はない“呼びかけ程度”でやっているのかもしれない。
サービス沸騰で交通事故も増加
他にも起こりつつある問題として、ドライバーの交通事故がある。共同通信社系メディア「NNAアジア」によると、昨年から始まったグラブフードの今年の利用件数が、昨年比7倍の2000万件を超える見通しだと伝えるなど、中食市場が大きなタイで、フードデリバリーサービスが沸騰している。
配送するドライバーは、個人でも副業として気軽に始めることができる完全歩合制だ。そのため、少しでも稼ぐため1件でも多くこなしたいとなり、緑のユニフォームを着たグラブフードのドライバーの交通事故を見かけることが増え、渋滞を悪化させる要因になりつつある。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))