BMWの小型電気自動車(EV)「i3」は、近似するモデルが思い当たらないほどに斬新なデザインが魅力だ。しかし、このクルマの価値はその先進的なスタイリングにとどまらない。プレミアムブランドが将来的に目指すべき道を誰よりも先に体現したモデルなのだ。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
EV走行で往復は可能か
今回試乗したi3は、ベースモデルに発電用の小型ガソリンエンジンを搭載した派生モデルだ。これはレンジ・エクステンダーと呼ばれる発電機で、外部から充電したバッテリーの残量がわずかになると“自力発電”によって電力を供給する仕組み。「航続距離」や「充電インフラ」など、EVの弱点を補完するようなシステムだ。さらに、今年2月の小改良で120Ahの新型バッテリーも投入。総電力量が33kWhから42kWhに増加し、一回の充電走行可能距離を466km(WLTCモード)まで引き延ばした。
実際にEVを運転すれば、不安や不便を感じることがよくある。バッテリー残量を示すメーターは想像以上の早さで減ることが多く、電欠への不安から次第に焦りが出てくる。充電設備を見つけてもポートの設置が1~2基しかなく、先客がいて待たされることが多々ある。これらが、EVが近距離移動向きと言われる所以だ。いざという時のことを考えると、バッテリーの改良とレンジ・エクステンダーの存在はかなり心強い。
i3のレンジ・エクステンダー装備車の仕組みはこうだ。
- 外部から充電したバッテリーで電気モーターを駆動してEV走行。
- バッテリー残量が6.5%を切ると自動でレンジ・エクステンダーが作動し、電力を賄う。
ちなみにバッテリー残量が75%を切った時点で、任意でレンジ・エクステンダーを作動させることもできる。レンジ・エクステンダーはあくまで発電機であり、駆動用エンジンとして一切機能しないのも特徴だ。
今回は東京-箱根間を往復した。合計約200 kmの道のりだ。東京の千代田区を出発するときにデジタルメーターで航続可能距離を確認すると、バッテリーゲージに「245 km」と表示されている。要はバッテリーに蓄えた電力だけで245 kmほど走行できるということだ。これなら東京-箱根間を往復しても、まだ45 kmほど走る余裕があるという計算になる。とはいえ、燃費ならぬ“電費”は交通状況や走り方、走行モードの選択状況で大きく変化する。さらに目的地の箱根ターンパイクは起伏に富んだ屈曲路であるため、実際に走らせた時の電力消費状況には大きな関心がある。はたして電気だけで走り切ることができるのか-。大きな疑問を抱きながら箱根路に向けて出発した。
ロードインプレッション
まずは無数のクルマが行き交う一般道を走ったが、低速から高トルクを発揮するモーター走行は軽快だ。全長4020mm×全幅1775mm×全高1550mmというコンパクトなボディサイズなら神経を使うこともない。最小回転半径4.6mという取り回しの良さも快適なシティドライブをもたらす。
アクセルペダル1本で加減速を行う「ワンペダル・ドライビング」も簡単に使いこなすことができる。ペダルを踏めば加速、足を離せば回生エネルギーを充電しながら減速、と操作は至って単純で、おのずとブレーキペダルを使う頻度も減る。
足回りはカチッと硬め。シートもコシがあるため、全体的にかなりソリッドなドライブフィールだ。フロントガラスはかなり大きく切り取ってあり開放的。ルーフが高く十分なヘッドクリアランスを確保しているため、フロントシート周りはゆったりとしていて快適だ。
高速道に合流後は、前走車を自動追従するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を試しながら走る。上りや下り坂でも一定速度で走ることができるのは、ACCのメリットの一つ。運転者が速度をコントロールする必要がないので、かなり重宝する。高速域でもモーター走行は力強く、車線変更時などグッと踏み込めばダイレクトに軽々加速する。
神奈川県伊勢原市を走行中にバッテリーゲージを見ると、航続可能距離は「194km」を表示している。この時点で走行距離は約60km。ちなみに“予備”のガソリンゲージは「143km」を示している。これは仮に電欠しても、レンジ・エクステンダーが介入することで143kmほど走行できるということだ。やはり発電機による航続距離の担保は心強い。
箱根の屈曲路を走る
やがてターンパイクのワインディングに舞台を移し、いざ走行性能を試す。これまでエコモードで走行してきたが、ここから先はコンフォートモードに切り替える。ちなみにi3はこれが最大パフォーマンスを発揮するモードとなる。スポーツモードのようなものはないのだ。
小田原料金所から入ると、いきなり長いアップヒルが待ち構える。ただし、全高1550mmのお洒落なコンパクトカーだからと侮るなかれ。アクセルを踏み込めば、最大出力125kW/170ps、最大トルク250Nmを誇るモーターユニットが驚きのパワーを見せつける。しかも、加速に伴い景色がビュンビュンと流れても、モーターは無音のまま。シングルスピード構造を採用したことで変速ショックもない。まるで宙に浮いたリニアモーターカーや、小型飛行機で路面すれすれを滑空しているかのような感覚だ。
ワインディングの走りも実に気持ちがいい。i3は駆動系システムをトランク直下に格納した「リアモーター・リアドライブ」のため、後輪駆動ならではのドライバビリティとハンドリングが楽しめるのだ。いわゆるRRの構造であり、軽量なノーズがグイグイとカーブに切り込んでいく。そもそも車重1440kgという軽量ボディを活かした抜群の俊敏性で、リズミカルな走りを味わえる。思い通りに操ることのできる爽快な走り味が、BMWらしさでもある。
軽量ボディの秘密は、上下に二分割された車体構造にある。アルミ合金製シャシーの上に、量産車として初めてCFRP(カーボン・ファイバー強化樹脂)を採用した軽量のキャビンを組み合わせており、優れたボディ剛性や弾性はもちろん、床下にバッテリーを並べることで低重心と50:50の前後重量配分も実現。強度に優れるカーボンを使用することでBピラーが不要となり、観音開きのコーチドアを採用していることには驚かされた。
環境負荷低減へのこだわり
実はこのCFRPは100%水力発電による電力で生産されており、i3が組み立てられているドイツ・ライプツィヒ工場で使用する電力は、100%風力発電で賄われている。インテリアには軽量なケナフ麻や、ペットボトルを再利用して作り出した素材を使用。ウッドパネルには成長の早いユーカリを使っている。i3に使用される素材の実に95%がリサイクル可能なのだという。i3とスポーツカーのi8をラインアップするBMWの「i」シリーズとは、「大都市における持続可能なモビリティ」を追求することを目的に誕生したBMWのサブブランドであり、2014年4月に日本市場へ投入されたi3は「設計から生産、販売に至るまで持続可能なモビリティを実現する」というコンセプトのもとに開発されたEVなのだ。そんな背景を聞いた上でi3のハンドルを握れば、環境に対するドライバーの意識もグッと高まりそうだ。
ターンパイクでクルマを降りて、目の前に広がる美しい景色をしばらく堪能すると、再びi3に乗り込んで帰路についた。BMW本社のある千代田区に戻りメーターに目をやると、往復で走った総走行距離は209キロ。バッテリーゲージの走行可能距離は、まだ「73km」も残っていた。箱根の山でそこそこアグレッシブに走った割に、かなり優れた“実電費”を披露したといえる。もちろん発電機に使用するガソリンは1滴も使っていない。東京-箱根間を何の不自由もなく、電気だけで走り切ることができたのだ。
徹底した環境への配慮と、ブランドのスローガンでもある「駆けぬける歓び」を見事に両立させたi3。「BMW i」が提案する価値創造は、これからのプレミアムカーが進むべき道を示しているようにも見える。
i3の欠点? それは、縦に長いiPhone Xs Maxがワイヤレス充電器に収まらないことぐらいだろうか…。ひょっとすると、次回のマイナーチェンジはここが改良ポイントになるかもしれない。
《ヒトコト言わせて!》
BMWグループ広報部・加地あみこさん「BMW i3は、心から寛げるほぼ無音の走り、そして驚くほど俊敏かつスムーズな走りにワンペダルドライビングが組み合わさることで、画期的なドライビング体験を実現します。進化したBMW i3の駆けぬける歓びをお愉しみください!」
■主なスペック(BMW i3 レンジ・エクステンダー装備車)
全長×全幅×全高:4020×1775×1550mm
ホイールベース:2570mm
車両重量:1440kg
電動モーター
最高出力:125kW(170ps)/5200rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/100-4800rpm
駆動方式:後輪駆動
タイヤサイズ:(前)155/70R19(後)175/60R19
定員:4名
ステアリング:右
車両本体価格:592万円(税込)
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら