働くママの早期復帰を支援、「搾乳室」設置オフィス拡大
働くママの早期復帰を支援 冷凍保存も
0歳児など授乳期の子供を育てる女性社員を支援しようと、母乳を搾るための「搾乳室」を企業が設ける動きが広がりつつある。「仕事中も母乳を出さないと胸が痛む」「冷凍保存して子供にあげたい」。早期に職場復帰した後、こうした悩みを抱え、トイレなどで搾乳しているケースが多いからだ。母子の健康面への配慮だけでなく、子育て支援の幅を広げることで、企業にも人材確保などのメリットがありそうだ。
育児の不便減らす
東京都内のシンクタンク、三菱総合研究所。社員の健康経営を掲げる同社には女性専用の仮眠室内に鍵の掛かる搾乳室が2010年に設置された。今年4月、生後4カ月の子供を保育園に預け復職した女性(31)は、昼休みなどを使い、ほぼ毎日利用してきた。
空気圧で母乳を吸引する搾乳器で、約20分かけて約100~200ミリリットルを搾り、保存袋と目隠し用の袋に入れ共用の冷凍庫へ。帰宅時に持ち帰り、保育園で解凍して与えてもらう。「子供が粉ミルクを飲めなかったので、搾乳室はありがたい」
同社には子供が3歳まで取得できる育休制度があるが「キャリアを考えて早く復帰したい人もおり、幅広い選択肢で支援したい。育児の不便を減らすことで良い仕事につながれば」と人事担当者。
搾乳器などを販売するメデラ(東京都)が実施した調査では、産後1年半未満で復職した515人のうち、職場での搾乳経験がある人は15%で、場所(複数回答)は「トイレ」が58%で最多、「搾乳室」は5%にとどまった。「搾った母乳を保存したい」人は半数を超えたが、多くがトイレで捨てざるを得ない実態が浮かび上がった。
米では義務付け
日本助産師会の稲田千晴助産師(看護学)によると、母乳には子供の病気のリスクを抑えるなどの効果があり、世界保健機関(WHO)は与える年齢を2歳かそれ以上までと推奨する。
母体にとっても、長時間母乳を出さないと乳房が張り、乳腺炎の要因になったり、手術が必要になったりする場合がある。出さないと母乳がつくられにくくなることも分かっており、米国では、授乳や搾乳のための時間やスペースを確保することは一定の規模以上の企業に義務付けられている。
日本でも、搾乳への理解は少しずつ広がってきた。ネット通販大手アマゾンジャパンが昨年9月、都内の新オフィスに搾乳室を設置。百五銀行(津市)も15年、本店などに搾乳・授乳に使える小部屋や鍵付き冷蔵庫などのある保健室を設けた。
稲田助産師は「母乳育児を支えることは、子供の病気による親の欠勤を減らし、有能な人材を確保することにもつながるはず。仕事のために母乳を諦める選択が減ってほしい」と話した。