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分子性物質の超伝導発現機構、理論的解明/転写開始点の標準データセット構築

 理化学研究所開拓研究本部 柚木計算物性物理研究室 協力研究員・渡部洋

 分子性物質の超伝導発現機構を理論的に解明

 近年、有機分子を主な構成要素とする「有機超伝導体」が広く研究されており、これまでは難しかった1分子あたりの電子数の制御も実験的に可能になってきた。しかし、理論的な超伝導発現機構の詳細はほとんど明らかになっていない。有機超伝導体の一つであるカッパー(κ)型分子性物質のκ-(BEDT-TTF)2Xは、三角格子が変形した複雑な結晶構造を持ち、「幾何学的フラストレーション(三すくみの状態)」と呼ばれる複数のパターンがエネルギー的に拮抗し、不安定に揺らいだ状態が存在する。この物質での超伝導は、銅酸化物高温超伝導体と同様の発現機構によると長く信じられてきたが、近年ではそれと整合しない実験・理論も数多く報告され、解決すべき問題となっている。

渡部洋氏
≪図 電子数制御による超伝導タイプの変化とクーパー対形成の概念図≫ 下のグラフの横軸は電子数、縦軸は圧力変化に対応するクーロン相互作用の強さを表す。本研究により、元の物質から電子数を減らすとdxy波(青の部分)、増やすと拡張s+dx2-y2波(オレンジの部分)と呼ばれる超伝導が現われることが分かった。上の図は、超伝導発現による電子ペア(クーパー対と呼ばれる)の形成を模したもので、白丸の位置にBEDT-TTF分子の対が存在し、三角格子状の結晶を構成している。dxy波では斜め方向でのみクーパー対を形成するが、拡張s+dx2-y2波ではさらに縦・横方向でもクーパー対を形成する。縦・横・斜め方向でのペアの組みやすさが拮抗しているため、電子数制御によってクーパー対の組み換えが起こり、超伝導の性質も変わる。
粕川雄也氏
≪図 転写開始点の標準セット構築の流れ≫ まず、CAGE法などのRNAの転写開始側の端読み配列を網羅的に配列決定する実験手法の結果を公共データベースから収集した。さらに、EPD(Eukaryotic Promoter Database)、dbTSSといったデータベースや、FANTOMプロジェクトで取得・公開されたデータから、大規模な転写開始点・プロモーター領域情報も収集した。次に、これらのデータを最新のヒトゲノムないしマウスゲノムに再マッピングし、転写開始点の位置を最新のゲノム配列上で再探索した。そして、再探索した転写開始点を統合し、最終的な転写開始点セットを決定した。

 今回、理研の研究チームは、κ-(BEDT-TTF)2Xの電子状態について、変分モンテカルロ法を用いた数値シミュレーションを行った。その結果、元の物質から電子数を減らした場合には、従来の銅酸化物高温超伝導体と同じタイプの超伝導が現れ、電子数を増やした場合には、幾何学的フラストレーションの効果により、三角格子に特有な新奇な超伝導が現れることを見いだした。

 本研究成果は、長年未解明だった超伝導発現機構の解明に加え、超伝導転移温度の向上や新たな有機超伝導体の理論的予言を可能にし、有機エレクトロニクスのさらなる発展に貢献すると期待できる。

【プロフィル】渡部洋

 わたなべ・ひろし 2008年東京大学理学系研究科博士課程修了、博士(理学)。理化学研究所特別研究員、早稲田大学高等研究所講師などを経て、19年4月から現職。強相関電子系における超伝導と関連する現象のメカニズムを研究している。

 ■コメント=超伝導に対する普遍的な理解を深め、新たな超伝導物質の予言にもつなげていきたい。

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 理化学研究所生命医科学研究センター 大容量データ管理技術開発ユニット ユニットリーダー・粕川雄也

 転写開始点の標準データセットを構築 

 生物では、ゲノム中に書かれた遺伝子のDNA配列情報を鋳型にRNAが「転写」される。RNAは、肝臓や皮膚などの臓器、神経細胞や幹細胞などの細胞、臓器形成期や成人期などの時期に応じて、必要なものが転写されるよう正確に制御されており、転写の異常により病気が引き起こされることもある。

 転写は、さまざまな要素が複合的に組み合わさって制御されているが、全ての転写制御に関わる要素や転写されるRNAは、「転写開始点(TSS)」と結びつけられる。そのため、ゲノム中の全てのTSSの場所が分かれば、これを基準に全ての転写制御に関するデータや転写されるRNAの情報をまとめられることになる。

 今回、理研の研究チームは、公共データベースなどで公開されているRNAの転写開始側の配列が含まれた実験結果を収集して再解析し統合することで、ヒトやマウスのゲノムに存在する標準データセット「refTSS」を構築した。refTSSデータセットには、約22.4万個のヒトTSSと約17.3万個のマウスTSSの情報が、ゲノム上での位置やさまざまな付加情報とともにまとめられている。さらに、インターネット上で公開されており、制限なしで利用できる。

 本研究成果は、転写制御研究のための基本ツールとして利用することで、生命現象や疾患のメカニズムを転写レベルで理解するための研究の効率化に貢献すると期待できる。

【プロフィル】粕川雄也

 かすかわ・たけや 大阪大学大学院基礎工学研究科、NTTソフトウェア株式会社、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター、同ライフサイエンス技術基盤研究センターを経て、2018年から現職。

 ■コメント=生命科学分野の多様かつ大量のデータの山から、まだ見ぬ大発見を探し出したい。

 ■9月14日に静岡市で「科学講演会」を開催

 理化学研究所は9月14日に静岡市内で高校生・大学生を含む一般向けに科学講演会を開催する。赤ちゃんはどのように言語を獲得していくかをはじめ、地球環境や資源に関わる内容について講演する。また、理化学研究所に関する展示や科学の面白さをお伝えする「科学道100冊」「科学道100冊ジュニア」の展示も行う。参加費無料。事前申込制。

 イベント名:理化学研究所 科学講演会in静岡

 日時:2019年9月14日(土) 

 講演会 13:00~15:30(12:00開場)

 展示  12:00~16:00

 場所:静岡県男女共同参画センターあざれあ

    静岡県静岡市駿河区馬渕1丁目17-1

 詳細プログラム、申込フォームは下記URLを参照

 http://www.riken.jp/pr/events/events/20190914/

 主催:国立研究開発法人理化学研究所

 問い合わせ:理化学研究所 広報室 

 Tel:048・467・9443

 E-mail:event-koho@riken.jp