トヨタ、五輪に“究極のエコカー”提供 FCV、大会運営向け500台
トヨタ自動車が、二酸化炭素(CO2)の排出量ゼロで“究極のエコカー”とされる、水素を燃料とした燃料電池車(FCV)の普及について、来年の東京五輪・パラリンピックをてこに進めようとしている。
水素社会を実現へ
トヨタは、世界初の量産FCV「MIRAI(ミライ)」を大会運営において大量に提供し、東京五輪後に残すべきレガシー(遺産)に「水素社会実現」を掲げた。その取り組みは日本にとどまらない。
今年6月には、ミライを国際オリンピック委員会(IOC)に納車した。2024年までの「ワールドワイドパートナー」である立場も生かし、世界規模で進めている。
「トヨタは東京五輪で、水素社会の実現を核としたモビリティー・ソリューションの提供を目標にしている」
6月4日、スイス・ローザンヌ。IOCの新設本部ビル「オリンピックハウス」で行われたIOCへミライ8台を納車する式典。IOCのマリー・サロ氏が「サステナビリティー(持続可能性)はオリンピックムーブメントの核だ」と歓迎すると、トヨタ・モーター・ヨーロッパ(TME)のマット・ハリソン上級副社長はこう述べ、トヨタにとって意義が大きいことを強調した。
8月23日には東京五輪でトヨタが提供する車両約3700台のうち、約500台はミライをはじめとしたFCVが占めることが公表された。FCバス「SORA(ソラ)」なども投入する予定だ。
水素と酸素の反応でモーターを動かし、水しか排出しないゼロエミッションが特徴のFC車。トヨタは、東京五輪において、全車両をガソリン車・ディーゼル車で調達するのに比べて、「CO2排出量を半減できる」と試算する。
FCVを500台提供する効果は、単なる台数増にとどまらない。計画中を含めてまだ150カ所に満たない水素ステーションの整備促進のほか、ガソリンエンジン車に近い感覚で短時間での燃料補給や長距離走行が可能といったメリットを多くの人に体感してもらう機会でもある。
戦略は実は長期的で、世界を見据えている。トヨタは「モビリティー分野」で17~24年の8年間にわたって、五輪の「ワールドワイドパートナー」に就いており、22年冬季の北京大会、24年夏季のパリ大会まで、独占的に車両提供が行えることになっている。トヨタ関係者は「五輪のパートナーとなるメリットはただの宣伝ではない。企業理念に基づくレガシー構築まで手掛けられることが最大のポイントだ」と語る。
どこでも生産・供給
世界の自動車業界をめぐっては、バッテリーに充電し、モーターで動く電気自動車(EV)開発が主流だが、トヨタは「最終的に目指すべき姿は電気と水素を活用した多様なエネルギーから成り立っている社会」(寺師茂樹副社長)との姿勢。EVとFCVが並行して選択肢となるシステムを見据えている。
燃料の採取・製造から走行までを含めたCO2排出量で、FCVは現段階ではEVに劣ると指摘されているものの、ガソリンと違って水素は機器があればどこでも生産・供給できる。資源が少ない日本にとって、この点はエネルギー問題の大きな解決手段になる。
水素社会実現は、トヨタだけでなく日本を挙げた目標でもある。政府は17年12月に「水素基本戦略」を決定し、30年までにFCVを80万台、水素ステーションを900カ所とする計画。企業側も、トヨタのほかFCV「クラリティフューエルセル」を持つホンダ、日産自動車、石油・ガス会社など20社以上で「日本水素ステーションネットワーク合同会社」を設立。水素社会拡大に欠かせない水素ステーション普及に取り組んでいる。
課題の一つである高い車両価格については、25年までにハイブリッド車(HV)との価格差を現在の300万円ほどから70万円まで圧縮する計画で、経済産業省などは部品開発とともに台数拡大によって解決できるとの見通しを示している。
五輪を契機とした普及は、こうした計画の一助としても期待されている。「実際に街でFCVが走ることで、水素でも大丈夫なんだという実感を日本だけでなく、海外にも広げていきたい」。トヨタ関係者はこう語っている。(今村義丈)
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