関空25年、国際ハブ化道半ば 訪日客増追い風も“関西圏三位一体”進まず
関西国際空港は4日、1994年の開港から25年を迎えた。かつて巨額の赤字にあえいだ経営状態は好転し、近年は訪日外国人客の増加で利用者は右肩上がりで増えている。西日本の玄関口として存在感を示す一方、アジア中心の訪日客や格安航空会社(LCC)の就航拡大に依存する現状は、悪化する日韓関係など国際情勢に大きく左右される危うさもはらむ。開港以来の目標である国際ハブ(拠点)空港への道のりはいまだ遠い。
政治情勢が左右
関空の運営は2016年、国が全額出資する新関西国際空港会社から、オリックスやフランスの空港運営会社バンシ・エアポートなどが出資する関西エアポートが引き継いだ。総額2兆2000億円の運営権売却で、約1兆2000億円の負債は一掃。昨年度は台風21号で一時閉鎖する被害を受けたが、利用客数は過去最多の2940万人に達した。
好調を支えるのが、アジアに近い地理特性を生かしたLCC路線拡大による訪日客の増加だ。本年度の夏期ダイヤでは週1548便(8月ピーク時)の国際線就航便のうち約4割をLCC路線が占め、この大半が中国や韓国を結ぶ便となっている。ただ、こうした状況は国際情勢など外的要因に影響を受けやすい側面が指摘されてきた。
日韓関係の悪化を受け夏の繁忙期(8月9~18日)に観光などの短期滞在で入国した韓国人は、前年から約6割減った。
ANAホールディングス(HD)傘下のLCC、ピーチ・アビエーションは韓国人の訪日旅行需要減を受け、日本と韓国を結ぶ3路線の運休を決めた。札幌(新千歳)-ソウル(仁川)線を10月28日から、関西-釜山線を来年1月7日からそれぞれ運休。那覇-ソウル(仁川)線は来年1月28日~2月22日の期間限定で運休する。いずれも現在、運航は1日1往復だ。札幌-ソウル線は今年4月25日に就航したばかりだった。また、関西-ソウル線は今年11月11日から12月8日まで1日4往復の運航を1日3往復に減らす。
香港で起きたデモでは大幅な遅延や欠航も発生するなど、懸念は現実味を帯びつつある。不安定な東アジア情勢に、関西エアの西尾裕専務執行役員は「経営に大きく影響するものではないが、具体的な対策はなく、状況を注視する他ない」と苦しい胸の内を明かす。
パイ奪い合いの発想
関西圏の訪日客を関空だけで受け入れている現状を見直し、大阪(伊丹)、神戸を加えた3空港一体で拠点空港としての地位を高めたいとの構想もあるが、動きは鈍い。3空港の在り方を官民で議論する「関西3空港懇談会」は今年5月、神戸空港の国際化を25年ごろまでの検討課題とし、大阪空港の国際便就航の議論は当面見送ることを決めた。
大阪府南部の自治体は関空の利用客を奪われることを心配し、大阪空港周辺自治体は騒音問題を懸念しているためだ。財界関係者は「気付いたら他地域の空港に大きく差をつけられていたとなれば、元も子もない」と不安を口にした。3空港に詳しい関西学院大の野村宗訓教授(公益企業論)は「(利害関係者が)パイの奪い合いの発想から抜け出せていない。それぞれの特性を活用できないまま、他の国際ハブ空港を利する形になっている」と指摘。3空港を運営する関西エアの山谷佳之社長は「3つの空港が近距離にそろっているのが関西の強み。特徴を伸ばし、全体として成長させていきたい」としている。
◇
【用語解説】国際ハブ空港
国際航空路線網の中で、乗り継ぎの拠点となる空港。旅客や物流の活性化で大きな経済効果が見込める。多くの航空会社が使うための複数滑走路の整備や、航空会社が支払う着陸料の安さなどが必要とされる。アジアではシンガポールのチャンギ国際空港や韓国の仁川空港が知られ、国内では国際線発着枠を拡大した羽田空港でハブ(拠点)機能強化が進むほか、中部国際空港(愛知県常滑市)や福岡空港(福岡市)でも滑走路増設の動きが広がっている。