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「ワールドマスターズゲームズ2021関西」はご存じですか?

 いよいよ20日に「ラグビーワールドカップ(W杯)2019」が開幕、全国12都市でアジア初の祝祭が始まる。「2020東京オリンピック・パラリンピック」の開幕まで1年を切り、準備状況や代表選手内定の報道に関心も高い。

 しかしその翌年、3年間にわたる『ゴールデン・スポーツ・イヤーズ』の第3弾、「ワールドマスターズゲームズ(WMG)2021関西」を知る人はまだ少ない。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 観光客の誘致目指す

 「あまり公表したくはないんですが、全国的な知名度は14.5%、開催地エリアでも20.9%です」

 大会組織委員会の中塚則男事務局長は声を落とす。

 WMGは30歳以上であれば、誰でも参加できる。参加登録さえすれば予選もなく、実績もいらず、障害の有無も関係なく、スポーツ経験さえいらない。雑駁(ざっぱく)といえなくもないが、海外から訪れる人たちとの交流も楽しめる「する」スポーツの頂点といってもいい。

 しかし、中塚さんが嘆くように、存在そのものが知られていない。とりわけ首都圏の認知度は低い。そんな中、この秋には参加要項が発表され、20年2月から参加申し込みの受け付けが始まる。

 「ちょっとスポーツは苦手という人も、仲間と一緒に楽しむという感じで参加していただければ…」と中塚さん。

 組織委員会では海外から2万人、国内3万人、合わせて過去最多5万人の参加を目標に掲げている。

 WMGは1985年、カナダのトロントで第1回大会を開催した。以後、4年に1度開かれており、前回2017年、ニュージーランドのオークランド大会には約100カ国・地域から2万8571選手が集まった。

 21年の関西大会は第10回記念大会。アジアでは初の開催。5月14日に京都・岡崎エリアで開幕し、同30日の大阪城ホールでの閉会式まで17日間の会期で35競技59種目が行われる。開催される区域は広い。福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、徳島の9府県に京都、大阪、堺、神戸の政令指定4都市。関西経済圏を挙げた開催である。

 大会を通じて、関西圏が誇る自然、文化、食などを発信し、魅力を伝えることによって国内外観光客の誘致を目指す。スポーツと観光を融合させたスポーツツーリズムによる地域の活性化が広域開催の底流にある。

 また、「する」スポーツの浸透による健康・スポーツ関連産業の振興も目標の一つだ。アシックス、ミズノ、デサントという国内の主要スポーツメーカーはいずれも関西発祥。これら企業の振興は関西経済圏の底上げへの貢献が期待される。また勢いを25年の大阪・関西万博への弾みとしたい。

 健康政策に貢献

 組織委員会では大会の経済波及効果を関西圏で913億円、全国規模では1461億円と見込む。ラグビーW杯の4200億円、3兆円のオリンピック・パラリンピックと比べると額は小さい。「みる」大会と「する」大会との違いといっていい。

 一方で組織委員会は、大会後8年間に及ぶ経済効果として1兆868億円(関西圏では3770億円)をはじく。

 中塚さんは「レガシーとなり得る」と話す。「するスポーツの浸透によってスポーツ実施率が高まり、域内だけではなく健康政策に大きく貢献できる」という。

 広域開催は今後のスポーツ大会実施のモデルともなり得る。成功に導くためには全国浸透が不可欠だ。関西だけの大会としない知恵が求められる。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。