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M&Aは事業承継の有力な選択肢 「出口」としての存在感

 現社長の後継者が見つからない場合、M&A(企業の合併・買収)による第三者承継は事業存続のための有力な選択肢だ。M&Aを念頭に置くことで、広い視野で多角的に、余裕を持って判断することが可能となる。最近は、規模の小さいM&A案件が増加し、買収先を探している買い手候補者も増えている。社長が引退する「出口」としての存在感が増している。(堂野法律事務所 所長弁護士・堂野達之)

 M&Aにはさまざまなメリットがある。まず、事業を残すことができる意義は大きい。自ら手塩にかけて育てた事業を他人へ引き渡すことへの抵抗感があるかもしれないが、長年苦楽を共にした社員の雇用や、取引関係、築いてきたブランドや信用を守ることができる。各種のノウハウなどの貴重な知的資産も失われない。

 社長を引退すれば、経営の重圧から解放される。さらにM&Aであれば事業を残して社員や取引先への責任も果たせるし、交渉次第とはいえ、社長退任後に譲渡後の会社に顧問として残り、経験や能力を生かして事業に引き続き関与できる可能性もある。

 会社が資産超過で収益力があれば、オーナー社長は株式譲渡で譲渡対価も得られるし、役員退職金を受け取ることも可能だ。自らが長年苦労して働いた成果を目に見える形で得られ、今後の生活の糧や新たなキャリアのための原資になるだろう。

 会社が債務超過であっても、事業に収益力(継続的に一定の利益を上げる力)があれば、適正な対価で事業譲渡して、残った会社を清算する(第二会社方式)という方途もある。金融機関に対する連帯保証債務も「経営者保証に関するガイドライン」を活用して、一定の資産を残して免除を受ける道もある。

 M&A市場は活況となりつつある状況下で、アドバイザー、会計士、弁護士といった売り手側を支援する専門家も増えてきており、適切なアドバイスやサポートを受けやすくなっている。

 少子高齢化による人口減少、市場や消費者ニーズの多様化などにより、経営環境が厳しくなっている昨今、経営の意欲、覚悟と適性のある後継者を得ることが難しくなっていることは否めない。会社を継ぐ意欲や能力がある親族がいたとしても、本人と事業存続のために、社長に適しているかどうかをシビアに見極めることは必要だ。「適材適所」という言葉もある。最近では、オーナー社長が親族を自社の社員として受け入れながら、社長職を継がせずに、第三者に経営権を譲渡する事例を耳にすることが多い。

【プロフィル】堂野達之

 どうの・たつゆき 東大法卒。2000年4月弁護士登録(東京弁護士会所属)。17年1月から現職。企業経営の総合支援を柱に据え、企業の誕生・成長・発展・再生・承継・終焉・第二創業のライフサイクルに密に関わり、特に事業再生と事業承継の案件に数多く取り組む。著書は「特定調停手続の新運用の実務」(共著)など。47歳。神奈川県出身。