「悪代官的システム」消費税率アップ 保守主義は経世済民思想に回帰を
千葉商科大学の吉田寛教授の近著、「市場と会計」(春秋社刊)によると、フランス・ルイ14世の財務大臣だったコルベールは徴税の極意を、生きているガチョウを騒がせずに、その羽をできるだけ多くむしり採ることだ、と断じた。騒ぐとやっかいな貴族や僧職には課税せず、宮廷に出入りすることのない平民を徴税の対象とした。(産経新聞特別記者 田村秀男)
コルベールの極意は同国が1953年、世界に先駆けた消費税となって再現した。日本でも消費税が89年に導入されて以来、政府は何かとうるさい財界には法人税率を引き下げる一方、収入をむしりとられてもおとなしい家計に対しては消費税率アップで臨む。安倍晋三政権は消費税率を2014年度にそれまでの5%から8%に引き上げたばかりか、10月には10%とする。安倍政権は消費税増税にもほとんど影響されずに安定した世論の支持率を保っている。
が、ちょっと待て。景気を下支えしてきた外需は米中貿易戦争のあおりをまともに受けている。中国経済減速は加速し、米経済でも先行き不安が高まっている。欧州では中国市場に依存するドイツが打撃を受ける一方、英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)騒ぎに伴う混乱が続く。日本国内には1997年度の消費税増税以降、慢性デフレ病がこびりつき、家計がやせ細り続けている。その中での消費税率10%は経済に永続的な災厄をもたらす。
景気悪化の際には、景気対策には公共投資の追加など大型補正すれば済むではないか、とは安易すぎる。確かにこれまではそれが定石とされてきたが、実のところは不毛な結果しか生んでいない。経済への波及効果は一過性で、持続的成長をもたらさない。財政面では税収増につながらず、政府債務を膨らます。地方では建設業界に人手が足りず、公共事業を消化できない。業界は、政府のその場しのぎの公共投資計画を冷静に見る。受注が増えても一時的で、翌年度には一転してカットされるのが常だから、人員補充に消極的だ。
消費税は導入以来、日本の経済成長を大きく左右してきた。消費税増税は国内総生産(GDP)の6割を占める家計消費を痛めつける。このシンプルで不都合な真実について、財務官僚の言いなりになりがちな政官財、さらにメディアもエコノミストも目を向けてこなかった。
景気はもっぱら外需頼みで持ち直すが、脆弱(ぜいじゃく)だ。日本の経済成長率は主要国中、最悪、最低の水準で推移してきた。1997年度と2018年度を比べると、家計消費(持ち家のみなし家賃を除く正味ベース)は8.5兆円増えたが消費税収増加額8.3兆円で、消費税負担を勘案すれば家計消費は実質的にはほとんど増えていない。景気を反映する税収合計額は6.4兆円増えたのみで、消費税収増分を下回る。細る家計からむしりとるだけの国家財政とは、かのコルベールもあきれるだろう。
幕藩体制の日本の為政者の経済思想はコルベールに代表される絶対王制の西欧とは対極にある。
冒頭の吉田教授の著書によれば、江戸時代の農政家、二宮尊徳は「暗君は取ることを先にし、国衰え、民は窮乏し、やがて国家は滅亡する」「聖人の政は取ることを先にせず、これにより国は栄える」と為政者を諭したという。次世代を育み、高齢者を養わなければならない現役世代から税を巻き上げて困窮させる悪代官的システムが消費税である。
かくなるうえは、経世済民という日本の伝統思想、つまり保守主義の原点に立ち返るしかない。安倍首相に限らず、少なくとも保守陣営の政治家にそれが欲しい。