高論卓説

世界で広まる燃費規制 次世代車の姿、国内大手に決断迫る

 世界最大のフランクフルト国際モーターショーの地盤沈下が話題に上がっている。20以上のブランドが参加を回避、展示物も大幅に減少し、日本勢はホンダ1社のみ参加という寂しさであった。(中西孝樹)

 モーターショーは大きく3つの役割がある。まずは、世界に向けた情報発信だ。これは近年、テクノロジーショーに場を奪われている。次に、消費者への製品訴求だが、インターネットに役割を奪われてきている。最後に、B2Bの商談の場でもある。ここは活況で、サプライヤーの展示物には、電動化に不可欠な駆動源となるモーター、インバーター、ギアを一体化したe-Axleや電動車向けソリューションで埋め尽くされていた。

 パリ協定を推進する欧州の環境規制の厳しさは驚きに絶えない。2021年までに1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)排出量(企業平均燃費)を95グラムに削減しなければならず、未達は1グラム当たり1台95ユーロの罰金が課せられる、そこから30年に向けてさらに37.5%の削減が求められ、その結果は欧州自動車メーカーの命運を左右するといわれる。この実現には、電気を主動力とするe-Mobility(EVとプラグインハイブリッド)の販売構成比を引き上げなければならない。

 欧州のバーンスタイン証券の試算に基づけば、成り行きで21年には250億ユーロ(約3兆円)のペナルティーを支払うことになる。一方、CO2規制をクリアするには130億ユーロのコストを電動化に向けなければならない。どっちに向かっても、欧州市場を中核とする自動車メーカーには厳しい道のりが控えている。

 モーターショーの中で、欧州メーカーは20、21年の数量増加、電動車の構成比上昇に期待し、収益改善と燃費規制準拠の両立が可能だと比較的楽観的な見通しを発している。しかし、これはいかにも空元気に映った。

 努力を重ね開発してきたe-Mobilityの市場投入時期を迎えたことは事実であるし、評価できるところはある。しかし、販売台数を楽観することは難しい上、そもそも採算性は低く収益への悪影響は甚大だ。

 台数圧迫、規制対応コスト上昇、企業平均燃費未達のペナルティー、業績低迷という厳しい業況が欧州勢には避けられそうもない。全体収益のバランスを考慮すれば、e-Mobilityだけに頼るのではなく、欧州勢にも効率の高い高電圧ハイブリッドシステムは手の内に加えたい技術ではないか。

 ただ、ライバルのトヨタ自動車の技術を導入することへ抵抗は強かった。そのハイブリッド技術をオープンに提供しようというのが、アイシン精機とデンソーが設立したBluE Nexus(ブルーイーネクサス)だ。

 トヨタの誇る2モーターのトヨタハイブリッドシステム、アイシン製の1モーターハイブリッドとe-AxleをブルーイーネクサスはIAAで大きく展示した。その裏側ではB2Bの交渉は盛り上がったようだ。トヨタハイブリッドシステムは中国のみならず、欧州にも発展できる可能性があるだろう。

 ハイブリッドで先行し、欧州市場への依存度が相対的に低い日本メーカーは欧州勢ほどにはお尻に火がついているわけではないが、安穏とできるわけではない。国土交通省が求める30年の燃費規制は16年比較で32%減の25.4キロが示された。

 全モデルをストロングハイブリッドにするか、さもなければ、総販売台数の20~30%をe-Mobilityに転換する覚悟が必要だ。中国は25年、インドは23年にも、インドネシアも近くに厳しい燃費規制が実行される。日本、アジア市場に適した国内自動車メーカーが目指す次世代のe-Mobilityとは何か、今の欧州の苦悩を目前にして、答えを見いだすことに多くの時間は残されていない。

【プロフィル】中西孝樹

 なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「CASE革命」など。