【終活の経済学】お寺のトリセツ(2)古くから教育・文化の発信基地

 
普段は客間となっている部屋をヨガ教室に使用。若い女性にも大人気だ(勝覚寺)
一文字一文字、丁寧に写経していくことで心が洗われる(普賢院)
これぞ「寺子屋」。上手に書けるかな?

 身近な「カルチャーセンター」

 駅前や繁華街など人の集まるところで見かける「カルチャーセンター」。でも、寺はそんなものができるズーッと前から、教育や文化の発信基地としての役割を担ってきたのだ。それも多くの場合が無料だ。

 教室1 ヨガ

 寺のカルチャー教室として、最近人気なのが「ヨガ教室」。ヨガは、古代インド発祥の心身を鍛錬する修行の一種で、仏教とも深い結びつきがある。お寺の静かで宗教的な雰囲気のなかでするヨガは、参加者はもちろん教師のインストラクターからも好評のようだ。

 「寺でヨガ教室を開くと人が集まる」。そう気がつく住職も多いようで、各地のお寺で教室が開かれている。特に真言宗系のお寺が開催に熱心なようだ。

 千葉県山武市にある真言宗智山派勝覚寺では、月に2、3回「お寺でヨガ@勝覚寺」を開催。参加費は1回、1500円。さらに、月に一度、満月の夜に「密教座禅道場」と題して「阿字観(密教の瞑想法)」教室も開いている。

 小杉秀文住職は「『お寺でヨガ』は、始めて3年くらい経つ。法話のあと参加者と智山勤行式をお勤めしてから始める。1回約100分ほどで、毎回の参加者は10人程度。一見さんの参加も受け付けている」と話す。

 教室2 坐禅

 寺の修行体験として、古くから行われているのが坐禅教室だ。坐禅と聞くと、お坊さんに警策(修行者の肩や背中を打つ棒)でビシッと叩かれる厳しい修行のイメージもあるが、気軽に参加できる会もある。例えば、大阪市天王寺区の曹洞宗吉祥寺では、チベットやタイの瞑想法にも詳しい村山雅雄住職により、月に2回、坐禅会が開催されている。

 「毎回10人前後、檀家さん以外の一般の方が参加する。なぜか男性ばかり。興味があれば誰でも参加できる。仏教的な問いがあればなんでも答えるが、会自体は堅苦しくなく、形式にもとらわれず、自由に坐ってもらうことから始めている」と、村山住職。

 坐禅教室は、曹洞宗や臨済宗系の寺で開かれていることが多い。料金は無料のところもある。寺の方針によって、入門編のような会から本格的な修行の一環として開いているところもある。

 教室3 写経

 坐禅会と同様、仏教体験の一つとして多くの寺院で開催されている写経教室。青森県八戸市の真言宗豊山派普賢院では、2カ月に1度、2時間ほど「般若心経」の写経会を開いている。

 「初めにお経の意味を伝える法話をして、参加者と一緒に読経をする。写経に入る前に、みんなで数息観(気持ちを整えるための深呼吸)をして、書き始める。参加者は毎回20人ほど。檀家さん以外の方ばかりで、女性の参加者が圧倒的に多い。写経のあとには、フェアトレードのコーヒーをご用意して写経カフェも開いている。会費の一部はNGOに寄付し、そこで自利利他の心も学んでもらいたいと思う」(品田泰峻副住職)

 写経教室は、坐禅をしない宗派の寺でも開かれているので、開催寺院を見つけやすい。

 いくらパソコンやスマホが普及しようとも、美文字は大人のたしなみ。背筋を正し、墨をすって毛筆で難解なお経を写経すれば、自然と文字も上手く書けるようになる。また、宗派によって写経するお経が異なるので、色々なお寺を回ってお経をマスターするのもいい。

 教室4 法話会

 仏教の教えに一歩踏み込んで、気づきや学び、悩みを解決したいと思ったら法話会に参加してはどうだろう。法話会とは、僧侶が仏道の教えを説く講演会のようなもの。法話の内容はお話しするお坊さん次第。仏教の真髄を説くこともあるが、多くの場合、身近なエピソードを交えて仏教の教えを分かりやすく解説してくれる。

 毎月3日の法話会に50名以上の参加者が集うのが、千葉県柏市にある浄土真宗本願寺派の西方寺。

 「参加者は門徒中心ですが、誰でも参加できる。法話の内容は『阿弥陀如来の願い』をテーマに、講師の方に任せている。友人を誘って来る人も多い。必ず来てよかったと思ってもらえる法話会だ。そのために、講師陣は全国の同派の僧侶から厳選している」(西原祐治住職)

 西方寺では、法話会に際して新柏駅からマイクロバスを使った送迎もしている。また、不定期で、財務や相続、介護など専門家が講師となる「終活」に特化した会も開催中。

 仏の教えを直接お坊さんから聞ける機会は中々ない。日頃の疑問を聞いてみてもいい。各地の各宗派の寺院で定期的に開かれているので、気軽に訪れてみよう。

 教室5 終活相談会

 エンディングに関わる相談事に乗ってくれるお寺も多い。兵庫県尼崎市の日蓮宗妙昌寺では、檀家向けの「終活セミナー」以外に、誰でも参加可能な「終活カフェ」を開催。同寺の村尾雄志住職は終活相談窓口として一般社団法人「道しるべ」も立ち上げた。こちらの窓口では365日いつでも誰でも相談に応じてくれる。

 村尾住職は「高齢者のケアや高齢単身者の手伝いができれば、との思いで『道しるべ』を立ち上げた。相談者の状況や悩みを聞き、一人一人に合った専門家につなぐ窓口だ。『終活カフェ』は、祈りから始め、終活の話の後、気軽にご相談いただける場として茶会を開いている」と話す。

 終活相談会を開くお寺は、全国で増えつつある。終活だけでなく仏事の悩みにも対応してくれるので、一挙両得。お寺にしてみても「葬式仏教」の本領発揮だ。

 教室6 伝統行事体験

 お釈迦様の生誕を祝う「花祭り(灌仏会)」。旧暦の4月8日前後に、宗派を問わず全国各地の多くの寺院で開かれる仏教行事だ。東京都新宿区にある日蓮宗瑞光寺の「シャカシャカ祭り」には、今年600人余りの来場があった。

 「今年で3回目だが、年々参加者が増えている。仏教界では『寺離れ』が叫ばれているが、一般の方がお寺から離れているのではなく、寺側がハードルを高くしていると思う。お寺を知ってもらう一環として、誰でもこれるフリーのイベントにしている。近所の飲食店に協力してもらい、出店あり、餅つき体験ありと賑やかだ。お香袋づくり体験などのワークショップも開いている。今年は、有名演出家が脚本した、観客巻き込み型の舞台の上演も行った」(星野顯聡住職)

 「花祭り」は、お寺側が門戸を開く意味も込めて主催している。法話会や坐禅会はハードルが高いと思われる方は、年に1度、家族連れで花祭りに参加してみよう。寺の印象が変わるかもしれない。「お盆」「彼岸」「涅槃会(釈迦の命日、2月15日)」…、先人が大切にしてきた行事が、寺にはまだ生きている。

 教室7 寺子屋宿泊

 江戸時代、お寺は読み書きそろばんを学ぶ学問施設「寺子屋」としての役割も担っていた。現代では、学校にその役目を取って代わられたが、夏休みなどにお寺に宿泊し、仏教を学べる宿泊型の寺子屋を開いているお寺もたくさんある。

 子供向けのものが多いが、子供を預けた保護者が子供を通じて仏教に感化されるきっかけを得ることもあるようだ。

 熊本県玉名市の真言律宗蓮華院誕生寺では、毎夏3泊4日の「一休さん修行会」を開催。参加資格は小学4年生から中学3年生まで。毎年60人余りが参加する。

 「親御さんやおじいさんやおばあさんからは、『いただきます、ごちそうさまの意味を理解し、きちんとできるようになった』『般若心経を読めるようになった』『仏壇でお勤めをするようになった』と驚きの声をよく聞く。帰宅後、親御さんが子供からお経を学ぶ逆転現象も起きていて、面白い」(川原光祐宗務長)

 お子さんやお孫さんをお寺に預けてみると、思わぬかたちで立派になって帰ってくるかも?(『終活読本ソナエ』2019年夏号から、随時掲載)