【プロジェクト最前線】アエラホーム「クラージュDプラス」 「北海道基準」高断熱、同一価格で実現

 
「コストを抑えながら、断熱性能を上げてほしい」という難しい課題に挑戦したプロジェクトチームのメンバー
大宮北店ショールームの店内観イメージ

 戸建て住宅メーカーのアエラホームは、自社の最上位モデル「クラージュ」の販売価格をそのままに、屋根と壁の断熱材の厚さを約2倍にした新商品「クラージュDプラス(ディープラス)」を投入した。断熱性を高めるようと住宅メーカーがしのぎを削る中、クラージュは建物全体をアルミ箔面材付断熱材ですっぽりと覆った上、屋根・壁・床の内側にも断熱材を加えた“ダブル断熱工法”と強い日射を受ける屋根と壁の遮熱性能で他社との差別化を図った。さらに、断熱材の厚さを増したクラージュDプラスは、国内最高の断熱基準である“北海道基準”をクリアし、寒暖の厳しい季節も快適に過ごせるという。

 屋根材料の厚さ倍増

 2005年7月に発売されたクラージュは、外張りダブル断熱の家として、国が定める13年の省エネルギー基準を大幅にクリアした高気密・高断熱・高遮熱住宅だ。ただ、競合メーカーも断熱性能を高めるための技術開発に余念がない。販売現場からも、「コストを抑えながら、断熱性能を上げてほしい」という期待が高まっていた。こうして今年5月、各部署から精鋭が集まったプロジェクトチームが結成された。

 10月には消費税率引き上げを控えており、現場からは少しでも早い商品の発売が求められていた。チームの一人、設計監理課の有馬良行課長によると、「うちの強みである高性能の断熱材、キューワンボードを最大限に生かそう」と考えた。屋根と壁の断熱材の厚さを約2倍にするアイデアが生まれ、結成からわずか2カ月余りの7月に発売にこぎ着けた。

 競合他社は、断熱性能を高める研究開発に力を注いでいる。断熱性能を上げるために構造体の外側と内側に断熱材を重ねるダブル断熱を採り入れるメーカーも増えてきたが、その多くは壁だけをダブル断熱としている。屋根・壁・床のダブル断熱を採用するのはアエラホームだけだ。

 この特長をさらに伸ばそうと、クラージュDプラスでは、屋根の断熱材の厚さを40ミリメートルから101ミリメートルと約2.5倍にする、という他社との差別化に挑んだ。

 理論上、断熱性能を高めるだけなら、断熱材を厚くすれば良い。しかし、厚くしすぎれば、コスト高になるだけでなく、作業に手間が掛かるなど、施工の効率が損なわれる。顧客の価格に対する満足度が得られるよう、バランスのとれた厚さにする工夫が課題だった。

 ここで、ベンチマークとなったのが、建築物省エネ法で定められた北海道(1~2地域)における外皮平均熱貫流率(UA値)。住宅の内部から床、外壁、屋根などを通過して外部へ逃げる熱量を、外皮(住宅の外周)全体で平均した値のことだ。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネ性能が高いことを示す。チームは、クラージュDプラスの基準UA値を0.35に設定し、北海道基準の0.4~0.46を超える目標を立てた。

 従来商品と同じ断熱材の2倍の量を使いながらも、コストを抑えるという命題には、購買積算部の山田一隆部長が担当した。山田氏は素材メーカーとの良好な関係を最大限に生かし、良質で安価な断熱材を仕入れることに成功した。山田氏は「高気密、高断熱をどこまで“とんがらせる”かが課題だった」と話し、素材の品質に自信を見せた。

 小屋根裏も室内と同環境

 コストの壁を乗り越えた後には、建築現場における施工のしやすさや建築基準をクリアするという課題も浮上した。クラージュDプラスでは、屋根の内側に断熱材を貼らなければならない。多くのメーカーが行っているように平らな天井裏に断熱材を敷き詰めるのなら容易だが、勾配のある屋根の内側での作業は通常よりも手間と時間がかかる。

 有馬氏は、現場関係者と何度も顔を突き合わせ、断熱材を所定の位置に据え付ける際に混乱が起きないよう、作業工程などを丁寧に説明した。同時に、屋根の断熱材の据え付け作業が法的に認められるのか、の確認にも追われた。インテリアコーディネーターの資格を持つ設計監理課の川嶋美鈴主任も、有馬氏をサポートした。

 商品開発を担当した山口ゆかりさんは、クラージュDプラスの2つのメリットに自信を持っている。一つは、断熱性と気密性が高まって快適となった小屋根裏空間の活用だ。蒸し暑い夏に小屋根裏に上がるのは大変だが、クラージュDプラスなら屋根で断熱しているため、天井で断熱している住宅と違い、他の室内空間とほぼ同じ環境なので活用しやすいというわけだ。山口さんは「一般の方は冬に断熱性能が必要だと考えているが、実は夏にこそ大切」と訴える。

 もう一つは、国から補助金が支給される省エネ住宅「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」(ZEH、ゼッチ)の認定を受ける際に有利になることだ。ZEHは、太陽光発電などの再生可能エネルギーの設備が必要で、ここで創り出すエネルギーが消費エネルギーを上回らなくてはならない。断熱仕様で冷暖房費を抑えられれば、再生可能エネルギー設備の容量を少なくできる。山口さんは「都内近郊の狭小地の戸建て住宅で、認定を受けやすい面もある」と話した。

 国の普及策もあってZEH基準の住宅は増えつつあり、メーカー間の競争は激しくなるばかりだ。今後の展開について、有馬氏は「お客さまに健康で快適に暮らしてもらえる家を、適切な価格で提供していきたい」と話している。(鈴木正行)

 ≪焦点≫接点大切にする「体感型ショールーム」

 「環境設計の家」を掲げて、注文住宅の販売、リフォーム事業などを展開するアエラホーム。ショールームと消費者との接点を大切にしている。

 14日に埼玉県上尾市にオープンしたばかりの「大宮北店ショールーム」は、来場者への新しいアプローチ手法を備えた「体感型ショールーム」だ。

 同ショールームは、アエラホームの特徴である「高気密・高断熱・高遮熱」の住宅性能を、来場者が実際に体感できる「体感ルーム」や、55インチ9面の4K大型ディスプレイを使って会社の沿革や商品の特徴、ラインナップなどをわかりやすく映像で説明している。

 ショールームの建物は、コンビニエンスストアで使用されていたものを改装して出店した。アエラホームとしては初めての試みとなる。従来のように事務所棟とモデルハウスを建築して開業するのではなく、使用していた建物を生かして改装・出店するため、低コストで短期間に出店できるというメリットがある。また、今後の出店戦略の中で、直営店のほかフランチャイズ事業を拡大していく上でも、短期間で営業拠点を拡大できるプロトタイプモデルという役割も担っている。

 ■アエラホーム

 【本社】東京都千代田区九段南2-3-1

 【設立】1984年12月

 【資本金】1億円

 【従業員数】310人 (2018年4月現在)

 【事業内容】戸建て住宅の設計・販売、不動産事業、リフォーム事業、フランチャイズ本部運営