【スポーツi.】スポーツビジネス 地域に根差した「クラブ」発展が鍵
夏のアメリカスポーツビジネス視察から帰国したが、わが国では、平日にもかかわらず日本代表の国際試合の真っ盛りであった。日本テレビではサッカー日本代表のミャンマー戦、翌日のフジテレビではFIBAバスケットボールのアメリカ戦。その翌日には日本テレビでラグビー日本代表が南アフリカとワールドカップ前の最後のテストマッチ、さらにその翌日にはテレビ朝日がU-18野球ワールドカップをそれぞれ生中継で放映するといった具合だ。(帝京大学教授・川上祐司)
次はバレーボールのようで恒例のごとくフジテレビのバラエティー番組には代表選手たちが番組宣伝のように出演する。そろそろこの演出も終わりにしませんか、と言いたくなる。果たしてわが国のスポーツはメディアが生命線なのか。どの試合も点差以上に差があるように感じるが、本質的な原因はスポーツ文化そのものにあるのではないか。ある代表選手の「代表として最低の試合をした。恥ずかしい」とのコメントがスポーツ先進国になりきれないこの国を象徴したかのように感じる。
行政が施設提供
今回の視察先の一つのボストン。ダウンタウンから車で30分ほどの距離にニュートンという街がある。ボストンカレッジが所在する緑の豊かな住宅地である。その街の真ん中に、野球場2面、サッカーコート4面、バスケットコート2面、テニスコート5面が完備されたニュートンセンタープレーグラウンドがある。設立は1890年で行政が管理・運営している。
テニスコートは、この街の住民であれば185ドルで年間を通して使用できる。朝方には犬を連れた親子連れが散歩する。日中には多くの住民がスポーツを楽しむ姿が目につく。そしてニュートンからボストン・レッドソックスの本拠地であるフェンウェイパークに向かう電車の車窓からは同じようなグラウンドが点在して多くの子供たちがスポーツを楽しむ風景を何度も目にする。
地元レッドソックスのナイトゲームには多くのファンたちがボールパークを取り囲む。公道も試合当日は両端にチケットゲートが設置され、さながらボールパークとなり、さまざまなファンサービスが行われている。スポーツがこの街になくてはならない環境を行政が当たり前のように協力し提供している。
ドイツではフェライン、イングランドではサポーターズトラスト、スペインではソシオのように地域住民たちがスポーツの基盤を創出し後押しする。日本代表に勝利したこれら国々にはスポーツが文化として、大衆化と高度化をつかさどるインフラが整備されている。スポーツ先進国の証しである。単に4年タームにとらわれた強化策ではなく、振興と普及を目的とした半永久的なビジョンの具体的な推進がわが国には必要ではないか。そのためには企業理論にとらわれないNPO法人による総合型地域スポーツクラブの発展が改めて不可欠なのである。
八王子に見る萌芽
さて、東京都八王子市の北西部に「はちきたSC」というNPO法人地域総合型スポーツクラブがある。ドイツ型スポーツクラブの理念を掲げて今年で創設15周年を迎えて現在の会員数は1200人。サッカーのトップチーム「アローレ八王子」は、都リーグ1部に所属しており、NPO法人で初となるJ1参入を目指している。
先日行われた「ホームカミングデー」では多くの地域住民やチーム関係者とOBたちがクラブハウスに集まった。このクラブへの期待と機能を感じる。東京郊外の人口約58万人の八王子市にはサッカー専用スタジアムはない。アメリカやドイツには人口10万人の街に世界的プロスポーツチームや近代的スタジアムが街に欠かせない公共財として存在している。残念ながらその機能をわが国の行政が理解しているとは言い難い。
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【プロフィル】川上祐司
かわかみ・ゆうじ 日体大卒。筑波大大学院修士課程スポーツシステム・健康マネジメント専攻修了。元アメリカンフットボール選手でオンワード時代に日本選手権(ライスボウル)優勝。富士通、筑波大大学院非常勤講師などを経て、2015年から帝京大経済学部でスポーツマネジメントに関する教鞭を執っている。著書に『アメリカのスポーツ現場に学ぶマーケティング戦略-ファン・チーム・行政が生み出すスポーツ文化とビジネス』(晃洋書房)など。54歳。大阪府出身。
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