日韓関係 人材交流・投資滞り企業警戒 “官製運動”の見方も

 
韓国のソウルで開幕した日韓経済人会議=24日

 日韓の経済界が関係改善を模索する一方、日本の経済界は韓国における日本製品の不買運動に代表される反日運動に警戒感を強めている。韓国での不買運動は過去にも起きたが、運動の拡大の様相がこれまでとは異なり、日本側の問題意識は深刻だ。日韓の経済界が進めてきた人材面での関係強化が滞っているほか、日本から韓国への投資にも陰りが出ている。背景には「韓国製造業の空洞化」があるとの指摘もあり、日韓関係強化のためには新たな手段が必要だとの声も出ている。

 “官製運動”の見方も

 「今回は様相が違う」

 日韓経済人会議に参加した日本側の関係者たちは、一様に現在の日韓関係の悪化に不安を強めている。

 韓国では、日本産ビールの販売量が8月に約10年ぶりに首位から転落し、13位に落ち込んだ。8月の日本車の新車販売台数も前年同月比で57%減少し、各社は生産を絞り込む。

 若者で賑わうソウル繁華街の明洞のカジュアル衣料品「ユニクロ」の店内は閑散さが目立つ。食品などが卸の段階での返品されたり、コンビニエンスストアの本部の意向が各店に反映されているという。

 韓国での日本製品の不買運動は過去にもあった。日本の歴史教科書問題をめぐって韓国が反発した2001年などが代表例だ。しかし、今回は会員制交流サイト(SNS)で情報をやりとりする若者らが反日に敏感に反応し、文在寅政権の支持基盤である労働組合が暗躍し、いわば「官製不買運動」との見方もある。ある財界首脳も「専門家によると反日デモに毎回同じ面々が参加しているとの指摘がある」と話し、組織的な動きを問題視する。

 9月6日には、ソウルと釜山市議会が一定の日本企業の製品の購入を制限する条例を可決。全国への広がりが懸念されたほどだ。実際には「さすがに国益に反するとの自治体内部の意見もあり、ソウルも含め収束しつつある」(政府関係者)と最悪の事態は回避されたが、政治面での関係改善が見通せない中、経済界は懸念を拭いきれずにいる。

 日韓関係の悪化は、不買運動以外にも波紋を広げている。昨年の日韓経済人会議では、「国内の人手不足が課題の日本と大卒の就職難を抱える韓国は協業できる」と日韓の官民が一致。韓国政府は自ら日本企業への就職仲介に一役買ってきたが、政府は今月開催予定だった就職フェアを延期した。現地の関係者は「今は若者も日本企業に就職を決めるムードではなく、日系企業の採用活動にも影響がでそう」と憂慮する。また、日本から韓国への直接投資(申告ベース)は12年からピークアウトし、18年は3分の1以下の13億104万ドルにとどまる。今年の上半期(1~6月)も前年同期比38.5%減に落ち込んだ。

 経済の空洞化要因

 こうした動きの背景について、日本政府関係者は「韓国経済の空洞化」もあると説明する。日本企業は従来、韓国の液晶テレビの生産増に伴い、韓国での現地生産シフトを進めてきた。しかし、韓国企業はベトナムへの進出を加速させるなど国内での投資を控えており、日本企業が韓国に投資する必要性が薄れてきている。

 ただ、日本にとって韓国は中国、米国に次ぐ貿易相手国で、半導体材料を韓国に輸出して、半製品を輸入する部品供給網(サプライチェーン)を構築してきた。日本総合研究所の向山英彦上席主任研究員は「ベトナムは日本企業の進出も多く、韓国企業とベトナムでの部品供給で協業できる」と、新たな商機の可能性を指摘している。(ソウル 上原すみ子)