【リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く】技術力武器に世界需要を取り込む Jパワー・渡部肇史社長

 
5月に営業運転を開始した山葵沢地熱発電所=秋田県湯沢市
渡部肇史社長
鶴田東洋彦・日本工業新聞社社長
日本工業新聞社の鶴田東洋彦社長と対談するJパワー(電源開発)の渡部肇史社長(左)

 技術力武器に世界需要取り込む 石炭火力改革で低炭素化を推進

 Jパワー(電源開発)は脱炭素社会の実現に向け、設立以来の水力発電や地熱、風力など再生可能エネルギーの積極開発に取り組むとともに、石炭火力のリーディングカンパニーとして技術力を武器にゼロエミッション化に挑む。大間原子力発電所(青森県)も建設中だ。渡部肇史社長は「発電事業者としてトータルのものを持つと自負している」と強調。技術力を武器に電力需要の伸びが見込める海外展開にも力を注ぐ。

 23年ぶりに地熱稼働

 --事業環境についての認識は

 「2016年6月の社長就任前の15年7月、25年度をターゲットとする10カ年の中期計画を策定し、18年4月にそれまでの取り組み状況のレビューと今後3カ年の新たな見通しを公表した。電力システム改革による自由化・市場競争の進展、15年12月のパリ協定締結など経営環境の変化が激しい。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などデジタル技術の進展により産業構造の革新も見込まれる。入社して約40年たつが、入社後の三十数年と、ここ数年でスピードが違うと実感する。電力事業は長い視点で物事を考えるが、ターゲットを入れ替えながら長いサイクルと短いものを織り交ぜていくのがふさわしい。将来予測は難しい時代だが、何が起きても柔軟に対応して電力供給に不安を残さないようにするのがわれわれの使命だ」

 --再生エネの取り組みについては

 「水力(総出力857.5万キロワット)でスタートし、風力(44.3万キロワット)、地熱(4.6万キロワット)も積極的に開発してきた。風力は経験を蓄え、技術的知見もたまった。今後のプロジェクトに生きるはずだ。地熱は5月に国内4位の規模となる山葵沢(わさびざわ)地熱(秋田県、4.6万キロワット)が運転を開始した。1万キロワットを超す大規模地熱の稼働は国内で23年ぶりだ。風力、地熱とも取り組んできて可能性を感じる。伸びる余地は大きいので、前向きに取り組んでいる。再生エネは25年度までに新規開発100万キロワットが目標だ」

 世界最高の熱効率へ

 --石炭火力は

 「地球温暖化防止に逆行すると逆風が吹くが、低炭素化の推進に向けて技術で改革する。老朽化した石炭火力発電所は設備をリプレースして高効率化を図る。新規開発プロジェクトとしては、竹原火力(広島県)は最新鋭の発電技術である超々臨界圧ボイラーを採用して来年6月に運転開始を予定している。鹿島火力(茨城県)2号機も同じく7月に運転を始める予定だ。超々臨界圧の導入で世界最高水準の熱効率を達成するとともに、二酸化炭素(CO2)排出量を削減できる。CO2排出量の削減に向けて、さらなる取り組みも始めている」

 バイオマスにも注力

 「中国電力と共同で設立した大崎クールジェン(広島県)では『石炭ガス化複合発電(IGCC)』、IGCCに燃料電池を組み込んだ『石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)』といった次世代技術に挑んでいる。将来的には燃料電池を組み込んでCO2を出さずに水素をつくる脱炭素技術の実証実験にも乗り出す。石炭火力の概念を大きく変えることになる」

 --バイオマス燃料の有効活用にも取り組む

 「バイオマスを石炭と混ぜて焼やすことで石炭消費量を減らし、相対的にCO2排出量を削減する。石炭火力への投融資に対し金融機関が消極的になったり、機関投資家が株式投資を引き揚げたりする動きもあるようだが、火力発電ができる努力も進めている。その一つがバイオマスの混焼でCO2発生量を削減することだ。将来をにらんだプロジェクトだけでなく、至近で対応可能なことにも地道に取り組んでいく」

 --海外展開は

 「昨年12月に米ウエストモアランドガス火力発電所(ペンシルベニア州、出力92.5万キロワット)が運転を始めた。今年6月に、22年の運転開始を目指して米ジャクソンガス火力発電所(イリノイ州、120万キロワット)の建設に着工した。25年をターゲットとする中期計画には入っていなかったプロジェクトだが、計画を温めてきた米現地法人が手続きを踏んで所要の対応を行い、自社開発案件として建設が決まった。実現できるプロジェクトは今後も中期計画に入れていく」

 「インドネシア中部ジャワ州でもセントラルジャワ石炭火力(200万キロワット)の建設を進めている。海外ではガス火力が主力だが、インドネシアは石炭火力。われわれが培った技術への信頼度の高さでライバルに勝った。20年の運転開始時には同国の民間発電事業で最大規模となるだけでなく、超々臨界圧の導入や適切な環境対策技術により環境親和型高効率発電のモデルケースになる。このほか、英国で洋上風力(86万キロワット)に参画している。海外の持分出力は690万キロワット(出力2178万キロワット)だが、25年度には1000万キロワットを目指す」

 海外人財と交流も

 --大間原発の進捗(しんちょく)状況は

 「原発事故を受けて策定された新規制基準に対応して、原子力規制委員会の安全審査を受けている。ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を全炉心に使うことができる大間原発は、原子燃料サイクルを推進する日本のエネルギー政策において重要な役割を担う。難しい仕事だが、日本の原発の将来に向けても必要と考えている。一日でも早く審査の合格を目指し、本格工事の再開に取り組みたい。サステナブル(持続可能)な電源構成に原発は必要であると考える」

 --Jパワーの将来像をどう描く

 「得意とする発電事業の技術力を生かして将来を創り上げていく。世界的な電力市場の自由化は、われわれのような卸売り事業者には追い風で、市場は拡大していく。国内市場は省エネや競争環境が進展し飽和・成熟しており、海外のウエートを高めていくことになる。電力需要は経済成長と比例するので、今後も新興国を中心に新しいプロジェクトは出てくる。言語や法制度の違いなど仕事の仕方は相手国によって異なるが、海外の成長果実を確実に日本に還元したい」

 「“人財”も国境がなくなり、国内でも海外でも仕事ができる人財づくりが重要になってくる。人財の海外シフトもある程度意識しており、業務にとどまらず研修や留学などを通じて海外の人財と交流できる機会を用意しておく必要も出てくる」

 気分転換は映画、人生の縮図を見ることができる

 --国際人材の育成を課題に挙げた。社長自身も海外経験を持つ

 「1988年から2年間、米マサチューセッツ工科大エネルギー政策研究センターに客員研究員として駐在した。発電事業の規制緩和が起きていた時期で、独立系の発電事業者(IPP)が誕生した。日本でも発電部門から規制が緩和されると予想し議論していたので、米国の有識者らにインタビューしたり、関連する書籍を読んだりした。IPPは自ら保有する発電設備でつくった電力を電力会社に売る卸売り事業者で、われわれと変わらない。私なりにイメージが固まり、帰国後のIPP論議に役立ったことを覚えている」

 --趣味は

 「土・日曜日のいずれかは妻と一緒に映画館に行く。最近は同世代の夫婦が映画鑑賞に来ていて混んでいる。映画は人生の縮図を見ることができるので面白い。好きな映画を1本挙げるとすれば、(キューバ革命の指導者、革命家)チェ・ゲバラの若き日を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』。裕福な医学生が同級生と2人で、バイクで南米大陸を縦断しながら、貧しい人たちの人生を目の当たりにして心が変わっていく。その同級生が監修して製作した作品で、みずみずしく魅力的だ」

 「映画館に行くたびに、見た映画のパンフレットを購入している。今では相当な冊数になっている。パンフレットを収納するキャビネット(3段)を2台持っているが、それでも入りきらないので数百冊は持っていると思う。80年代の映画のパンフレットで持っていなかったものは別途、買っている」

 --外出好きのようだ

 「家でじっとしているより外の空気を吸うほうが好きだ。横浜市のみなとみらい地区に出かけて、若いカップルが子供と一緒にいる景色を見ると『意外に子供の数が多い』と感じたり、売れ筋はどう、最近のファッションは何と考える。社会の変化を観察・分析したりするのが好きだ」

 --スムージーづくりに凝っている

 「既に4、5年続けている。妻が『健康にいい』といってレシピ本を買ってきたのが始まり。私が読んで『やりたい』となった。朝6時前に起きて、妻と2人分をたっぷりつくる。果物はリンゴ、梨、キウイなどで、野菜はホウレンソウに小松菜にゴーヤなど旬のものも入れる。今では生活の一部になっており、毎朝飲まないと気持ちが悪いくらい。食欲がないときでも飲めるのでいい。スムージーをつくるミキサーは通信販売で買っているが、既に3代目だ」

【プロフィル】渡部肇史

 わたなべ・としふみ 東大法卒。1977年電源開発入社。2006年取締役、常務、副社長を経て16年社長。64歳。大分県出身。1988年から2年間、米マサチューセッツ工科大客員研究員として駐在。