論風

オープン&クローズ時代の終焉 “ジオテク”軸に戦略見直しを

 オープン&クローズ戦略とは、自社の経営資源を2分割して、一方はオープン、つまりは自社技術などを他社に提供することで市場を形成し、一方はクローズ、つまりは知財権などを自社のみが利用できるという条件を整えることで収益化を図るといった戦略を指す。グローバル企業はしばしばオープン側の戦略展開地域に新興国を選んだ。例えば米半導体大手インテルやクアルコムは、台湾や中国などの企業に技術をオープンに提供したことで新たな市場を獲得することに成功した。(東京大学未来ビジョン研究センター教授・渡部俊也)

 新興国企業を技術の担い手として位置づけるこの戦略は「いかなる地域といかなる技術でも自由に移転できる環境」を前提としている。しかしこれは過去いつでも可能であったわけではなく、ここ数十年がむしろまれな時期であったといえる。

 さかのぼること、東西冷戦の時代は、それぞれの陣営において別個に発展してきた科学技術に関する知識は、その境界を超えることなく厳格に管理されてきた。冷戦終結後このような枠組みは見直され、機微技術を管理する体系がつくられたが、一方、技術の流通の経済圏は世界の隅々に広がりフラット化していく。その結果「世界中の多くの技術に自由にアクセスできる環境」が現実のものとなった。欧米企業は新たなその環境を最大限利用し、新興国企業をパートナーとする「オープン&クローズ戦略」を展開し、その成功によって巨額の利益を得た。

 米国の規制で潮目が変化

 しかし今、そのような技術に新たな規制が課されようとしている。2018年に成立した米国の国防権限法によって、人工知能(AI)技術、量子コンピューター、ドローンや先端機能材料など幅広い新興技術が新たな規制対象とされた。現在米国政府において具体的な規制内容が検討されているが、すでに通信機器に関しては一歩先んじて規制が発動されている。

 具体的には、国防権限法によって、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する取引禁止が発動されたことから、同社の海外向けスマートフォン機種はグーグルの無償公開の基本ソフト(OS)以外のソフトが使えなくなる。

 今後は通信だけでなく、新興技術に関する規制が行われることで、幅広い技術領域で「世界中の技術に自由にアクセスできる環境」は、終わりを迎えることになるだろう。

 ワシントンで米中関係をテーマとした米国のセミナーでは「デカップリング」という言葉が盛んに使われるようになった。「切り離し」という意味である。まさに、技術においてもデカップリングが余儀なくされつつあるのだ。このことはグローバル企業の技術戦略に大きな影響を与える。少なくとも欧米企業が得意とした新興国を巻き込んだオープン&クローズ戦略は難しくなることは明らかである。

 企業の命運を左右

 では代わりにどのような施策が有効になるのだろうか。オープン&クローズ戦略は新技術の市場形成においては極めて有効な方法であった。今後も、すべての技術がアクセスできなくなるわけではないし、新興技術を用いた製品やサービスも、多くは世界に供給可能であると予想されることからオープン領域に位置すべき技術を慎重に選ぶことで、戦略策定が可能になる。ややこしいことかもしれないが、地政学的な観点を入れた技術戦略(ジオテクノロジー戦略)と、オープン&クローズの要素が組み合わされた戦略が、今後台頭することが予想されるのである。

 ここ数年で技術を取り巻く国際的な経営環境は間違いなく劇的に変化する。それによって生まれる新たな環境に、いかにして適合していけるのかが企業の命運を決める。日本企業は世界で起きているこれらの「地政学的激変による技術戦略への避けがたい影響」という現実を直視し、早急に自社の技術戦略を見直していく必要がある。

【プロフィル】渡部俊也

 わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。59歳。東京都出身。