【高論卓説】銀行が模索する口座維持・管理手数料の導入 マイナス金利で経営に余裕なし
日本銀行が1日に発表した企業短期経済観測調査(短観)は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス5と、前回6月調査から2ポイント悪化した。依然プラス圏は維持しているものの3四半期連続の悪化で、2013年6月調査(プラス4)以来の低水準となった。環境は違えど、日銀が異次元緩和に踏み切った直前の状態に逆戻りした格好である。
この短観を受け、市場では次回の日銀・金融政策決定会合(30~31日)で追加緩和の可能性も指摘され始めている。その際、選択肢として浮上しているのが「マイナス金利の深掘り」だ。黒田東彦総裁も追加緩和策のオプションの一つとして「マイナス金利の深掘り」を挙げ、9月19日の記者会見では、「10月末の次回会合で経済・物価動向を改めて点検していく。前回の会合よりも(追加緩和に)前向きになっているかといわれればその通りだ」と答えている。
この「マイナス金利の深掘り」をことのほか警戒しているのが金融界だ。「預金金利はマイナスにできないためほぼゼロ%に張り付く一方、貸出金利は低下し続けており、利ざやは限りなく圧迫されている」(メガバンク幹部)ためだ。さらにマイナス金利が深掘りされると一層の収益低下は避けられない。
そこで対策の一つとして検討されているのが口座維持・管理手数料の導入だ。既に欧米では口座維持・管理手数料を個人顧客から徴求することは一般化している。
日銀審議委員で三菱UFJ銀行出身の鈴木人司氏は、8月29日の講演で、追加緩和で金利がさらに下がった場合は「金融機関が預金に手数料を賦課することも考えられる」と言及した。また、三井住友信託銀行の橋本勝社長は口座維持・管理手数料の導入について「銀行業界全体で考えていく話」と検討を示唆している。日本でもいつ導入されてもおかしくない。
しかし、そのタイミングは難題だ。それでなくとも銀行預金の金利はすずめの涙で、日銀が超低金利政策を敷いて以降、個人・家計が失った“得べかりし利益”(逸失利益)は膨大である。導入を焦れば預金者の反発は必至であり、「銀行のエゴ」と批判を浴びかねない。
全国銀行協会の高島誠会長も「お客さまに対して付加価値の高いサービスを提供し、ご理解をいただいた上で、必要な手数料を頂戴していくということが、引き続き基本的な考え」とした上で、「マイナス金利の導入が従来の銀行の手数料体系見直しの契機になったということはあるかもしれないが、本来これらは別物である」と答えている。
また、全国地方銀行協会の笹島律夫会長も、「(口座維持・管理手数料は)必ずしも金融政策とひもつきで論じるものではない」としている。
だが、この言葉を裏読みすれば、「日銀の政策いかんにかかわらず、必要な段階には粛々と口座維持・管理手数料を導入させていただきます」ということであろう。
確かに、セキュリティー対策やキャッシュレスの高度化などで口座維持・管理コストは年々増加している。そのコストに見合う手数料を徴求するのは正論であろう。しかし、本音でいえば、銀行がこれまでのように無料でサービスを提供する余裕がなくなってきているということではなかろうか。
【プロフィル】森岡英樹(もりおか・ひでき)
ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。福岡県出身。
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