独身女性の消費が世界経済を牽引する 「SHEconomy」がスゴイ
さて、今回ご紹介するエンターテインメントは米国社会で起きている注目すべき変化についてのお話です。
少子高齢化が進む日本ですが、その要因のひとつとして、結婚しない人が増えていることが挙げられます。
内閣府が6月に公表した令和元年版の少子化社会対策白書によると、婚姻の件数は、第1次ベビーブーム世代が25歳前後の年齢を迎えた昭和45年から49年にかけて、年間100万組を超えていましたが、平成23年以降は年間60万組台で推移。29年には60万6866組と過去最低を記録。婚姻率(人口1千人当たりの婚姻件数)も4.9と過去最低となりました。
未婚率(平成27年)を見ると、男性の場合、25~29歳が72.7%、30~34歳が47.1%、35~39歳が35.0%。女性だと25~29歳が61.3%、30~34歳が34.6%、35~39歳が23.9%で、上昇傾向が続いています。さらに50歳までに一度も結婚したことがない人の割合(配偶者との離婚や死別は含まない)は、1985年までは男女とも5%未満でしたが、2015年には男性が23.4%、女性が14.1%で、2010年の前回調査に比べて、男女とも上昇していました。
各年代で結婚しない人が年々、増えている状況では少子化が進むのは当たり前なのですが、日本とよく似た状況にある米国では、これが全く別の意味で大注目されているのです。
8月22付の米経済誌フォーブスや同月29日付の米CNN、同月31日付の英紙ガーディアン(いずれも電子版)などが報じているのですが、米国ではなんと2030年には、25~44歳の働く女性の45%が独身であるという調査結果が明らかになったのです。
調査したのは米大手投資銀行モルガン・スタンレーのアナリストたちで、米国国勢調査局のデータを元に、35ページの報告書「Rise of the SHEconomy(シコノミーの台頭)」にまとめたのでした。
「SHEconomy」とは、読んで字の如く、女性が買い物などに費やす消費のことを指しており、平たく言えば「女性の消費が動かす経済」といった意味を持つ造語です。
8月22日に公表されたこの報告書によると、米国の独身女性の人口はこれから、米国全体の人口(昨年時点で約3億2700万人)の増加率が年0.8%なのに対し、それを上回る年率平均1.2%のペースで増え続け、2030年には7750万人に。そして2030年には、15歳以上の女性のうち、独身の割合は既婚女性の割合を上回り、昨年より3ポイント増えて52%と半数を超えるといい、女性の中で最も急成長しているセグメント(集団)は独身女性であると明言します…。
とはいえ、この報告書は「結婚しない女性が増えて、えらいこっちゃ」とは書いていません。「SHEconomy」という造語を使っていることでも分かるように、独身女性、とりわけ働く独身女性の増加によって、米国の経済が大きく潤うと結論づけているのです。報告書によると、働く女性は現在、米国経済に約7兆ドル(約7500兆円)もの貢献をしているといい、2030年にはこの貢献度がさらに高まると予想。とりわけ、アパレル(衣服)、靴、パーソナルケア、食料品、高級車、電気自動車などは、今後、ますます増える独身女性の消費が売り上げ増を後押しすると指摘。とりわけ自動車は将来、独身・既婚者に関わらず、多くの女性が購入に走るとみています。
また、女性でも男性でも、独身の人は既婚者よりもかなり多くの時間を運動に費やす傾向があるため、ナイキ(米運動靴メーカー)やルルレモン(カナダのスポーツアパレル)といったスポーツ関連企業が恩恵を被るとも。
そして独身女性は既婚者よりも身だしなみや体型維持といったパーソナルケアに力を入れるため、仏のLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下で、化粧品や香水の専門店チェーン、セフォラや、米国最大手の化粧品店チェーン、アルタビューティーが利益をより上げると予測しています。
「そんなに大したもん、買ってへんやん」となどと言うなかれ。CNNは<仕事を持つ独身女性は口紅や自動車、ヨガパンツを買うだけではない>と前置きし、ブルッキングス研究所の経済学研究員、ローレン・バウアー氏の「働く女性が家計を支える大黒柱となっている可能性が高い低所得世帯は、収入の82%を住宅や食べ物、交通、医療、衣服といった生活の基本となる商品やサービスに費やしている」との分析を紹介し、彼女たちの消費が高額商品を含め多岐にわたるとの考えを示しました。
それだけではありません。学士号を取ってから結婚し、出産も後回しにする女性の増加に伴い、独身女性も増加するとみられ、バウアー氏はCNNに「25歳から54歳の独身女性の約80%が現在、働いているか、仕事を探している」と述べました。
確かに「SHEconomy」の力はあなどれません。米国だけでなく、世界規模で見れば、女性の個人消費の総額は年20兆ドル(約2100兆円)にのぼり、その数字は今後5年間で28兆ドル(約3000兆円)に達する可能性があるといい、中国とインドを合わせた市場よりも巨大な市場に成長すると見られているのです。
英経済誌エコノミストは2006年に「間違いなく、女性は今、世界経済の成長における最も強力なエンジンである」と評し「SHEconomy」の時代の到来を予言しました。
とはいえ、ガーディアン紙は、こうした状況にもかかわらず、企業のマーケティング担当者は長い間、独身女性を無視してきたと指摘。実際、昨年の調査で、独身女性の48%が、独身女性は広告に登場しないと答えたと明かし、独身女性は依然として社会に恥ずべき存在で、汚名を着せられていると断罪。さらに既婚者より多くの税金を課せられる場合が多く、お金もかかる存在であるなどと説明しました。
そのうえで<未婚の女性は非常に長い間無視され、励まされ、同情されてきたが、今回のモルガン・スタンレーの調査報告書が示すように、すべての独身女性が今や、こうした偏見を乗り越えている>と結んでいます。
日本でもこれから「SHEconomy」という言葉がもてはやされそうな気配です。 (岡田敏一)
【岡田敏一のロック講座】永遠のハード・ロック「KISS」(アンコール企画)
1973年の結成以来、歌舞伎の隈取(くまどり)のようなメイクと派手なライヴでロック音楽界の最前線を走ってきた米国のバンド、KISS(キッス)が12月、最後の日本公演を行います。
74年にデビューアルバム「地獄からの使者」を発売。「ストラッター」や「デュース」、「ブラック・ダイアモンド」といった、今もライヴの定番曲となっているシンプルで親しみやすいハードロックと、ジーン・シモンズ(ベース兼ボーカル担当)が火を吹いたり、エース・フレーリー(ギター担当)のエレキギターが燃え上がったりする、かつて誰もやったことがない斬新なステージが話題に。
米デトロイトでのステージを収めたライヴ盤「アライヴ~地獄の狂獣」(75年)で人気が大爆発。「地獄の軍団」(76年)や「ラヴ・ガン」(77年)といったアルバムが売れに売れ、77年に初来日。日本でも社会現象を巻き起こします。
メンバー間の不仲もあり、80年代初頭には人気が失速。数々のメンバー交代をはじめ、不遇な時代も経験しましたが、オリジナルメンバーの4人が復活した96年の世界ツアーで人気が復活。2000年には解散の話が出るが、その危機を乗り越え、現在まで息の長い活動を続けています。
2014年には、ついにロックの殿堂入りも果たし、ロック界を代表する存在に。日本でもX-JAPANといったヴィジュアル系のロックバンドのブームの源流となるなど、多大な影響を与えています。
いまや米国文化のアイコン(象徴)のひとつといわれる彼らが46年間の活動に幕を降ろすことから、昨2018年3月の「岡田敏一のロック講座」の“アンコール企画”として、再度、このバンドの真の功績などについて振り返ります。
講師は、音楽誌「レコード・コレクターズ」( http://musicmagazine.jp/rc/ )の常連執筆者で、メンバーらにインタビューした経験もある産経新聞文化部の岡田敏一編集委員(元米ロサンゼルス支局長)。
ロス時代、米国の映画・音楽業界を重点的に取材した経験を活かし、バンドの歩みを振り返るとともに、日米の音楽文化に与えた影響や業界の裏話も交え、このバンドの真の功績などについて解説します。
■時と場所 10月19日(土)午後2時~3時半、サンケイカンファレンス大阪梅田桜橋(大阪市北区)
■参加費 2800円
問い合わせ・応募はウェーブ産経事務局(電06・6633・9087)。受け付けは平日のみ、午前10時~午後5時。
産経iDのサイト( https://id.sankei.jp )からも、お申し込みできます(産経iDは登録が必要です。入会金・年会費は無料)。
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【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家、産経ニュース( https://www.sankei.com/ )で【芸能考察】【エンタメよもやま話】など連載中。京都市在住。