スタートアップの過大評価 ウーバーやウィーに企業としての存在意義あるのか
米シェアオフィスのスタートアップ、ウィーワークが9月に予定していた株式公開(IPO)の延期に追い込まれた。ソフトバンクはこれまで1兆2900億円を投資し、29%の株式を所有する大株主だが、1月に増資に応じた際は時価総額が5兆円と算定されていた。これが9月のIPOを控え時価総額を再度算定したところ、1.5兆円に急減してしまった。(JPリサーチ&コンサルティング顧問・杉山仁)
ウィーワークは証券アナリストから、ビジネスモデルに安定性が欠ける、オフィス用不動産を平均15年間長期賃借してこれを平均2年間短期で賃貸するため、不況時にリスクが高まる、ITを駆使している事業ではなく、IT企業とはいえない、などの指摘が多い。さらに創業者の利益相反行為も発覚し、この結果時価総額が8カ月で7割以上減少してしまった。
ウィーワークだけでなく、米ウーバー・テクノロジーズ、米リフトといったライドシェア(相乗り)企業も今年上場を果たしたものの、創業以来一度として黒字を達成したことはない。ウーバーの現状の株価は上場時の株価を2割、リフトは4割以上も下回っている。
米IT大手、オラクルの創業者会長、ラリー・エリソン氏は先月中旬、ウィーワークとウーバーは、企業価値がほとんどないと発言している。エリソン氏は、ユーザーがどこまでウーバーを利用し続けるか分からないのに、マーケットシェアを獲得するために巨額の損失を続けているウーバーの経営判断は、ばかげており、またウィーワークは不動産賃貸業にすぎないのにIT企業だと自称するのはおかしいとコメントしている。
日本でもIPOを果たしたスタートアップが、赤字の垂れ流しを続け、株価が上場時の半分近く下落し、黒時転換の時期を明示できていないケースがある。投資家によるスタートアップの過大評価は、世界的な金余りの結果である。金余りの規模は、世界のベンチャー企業の資金調達額が2018年に2700億ドル(現在のレートで約28兆9000億円)と10年の6倍弱に膨らんでいることからも明らかである。
赤字企業が市場を独占するために、巨額の資金調達をすることは、一部の起業家や投資家を利するかもしれないが、資本市場や労働市場をゆがめ、競争原理をもゆがめることになる。赤字のスタートアップが株式を上場し、黒字転換の見通しを示さないまま、赤字を続けることを許容することは、資本主義の自殺行為である。投資家も欲に目がくらみ、資本主義の大原則を破壊している。
金余りが長く続き、投資家の楽観的態度、というよりは強欲度が拡大したままで、これが企業価値評価を過大にしている側面がある。金融市場は常に均衡点を求めているので、強欲に基づいたスタートアップの過大評価は今後日本でもアメリカでも修正されることになろう。大手投資銀行もスタートアップのIPO手数料が調達額の7%と収益性の高い業務であるので、IPOによる株式投資を楽観論に基づき投資家に対しセールスしている背景がある。
投資家は、個人も機関投資家も強欲のあまり、IT、AI(人工知能)、EV(電気自動車)、フィンテックやディスラプト(破壊)というレッテルに踊らされて、目が曇り、対象企業の中身と市場の成長性と黒字転換時期をよく検討して判断するという投資の基本動作を忘れてしまったのではないか。
黒字転換がいつまでたっても実現できないということは、その企業の経済社会における存在意義がないということを、投資家は再度資本主義の大原則として認識する必要がある。
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【プロフィル】杉山仁
すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大卒、旧三菱銀行入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。著書『日本一わかりやすい海外M&A入門』他、M&Aと買収後経営に関する論文執筆と講演多数。昨年3月に発表された経済産業省による『我が国企業の海外M&A研究会報告書』作成にも参加している。東京都出身。