さようなら、日本型雇用 「制度疲労超えて害」経済界トップ断言
「さようなら日本型雇用」-。そんな時代がいよいよ来たようだ。経済同友会は今年の夏季セミナーで「日本型雇用慣行からの脱却」を訴えた。経団連は「就活ルール」の廃止を打ち出して一石を投じた。企業は既に具体的に動きだしている。(ジャーナリスト・森一夫)
日本型雇用は、終身雇用、年功序列などを中心とする制度、慣行で、日本企業の強みを支えてきた。筆者はバブルが弾けた26年前に、『日本型人事は終わった』と題する本を書いた。だが成果主義賃金の導入などが一時流行したものの、部分的な修正にとどまった。
ところが今、全面的な見直し、否定が始まっている。経済界のリーダーが明言するようになったのが象徴的だ。
例えば、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は9月の日本記者クラブでの会見で、定年制について「他も含めて見直すべきだという点から、定年制は廃止されるべきだ」と述べている。「新卒一括採用、年功序列、定年制とかは、この30年間、日本経済の改革を阻害してきた。制度疲労を超えて害になっている」と、桜田氏は言い切る。日本自動車工業会の豊田章男会長は5月の会見で、このままでは「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ったのではないか」と語り、注目された。
新卒で採用した社員を定年まで雇用して、年功を基準に処遇するのは、グローバル化が進み、データ資本主義とも言われる今の時代にそぐわない。そんな認識が、経営者の間で半ば常識になりつつある。
経団連の中西宏明会長が昨年8月、「就活ルール」の廃止を提起したとき、当の経団連事務局も驚いた。しかし経済界にはほとんど抵抗はなく、既定路線として決着した。新卒一括採用は終身雇用の入り口であり、定年が出口になる。新入社員は入社式などで同期意識を刷り込まれ、一律の初任給でスタートを切り、処遇の差は徐々に開いていくのが、日本型の特徴である。
日本型雇用は従来、社員の帰属意識を高めて定着を図る上で効果的だった。しかし企業の競争は今や、例えて言えば綱引き型からサッカー型に変わった。一列に並んで力を合わせる綱引きなら、日本型で足りた。ところがサッカーは個人技の優劣も重要である。得点王にはそれに見合う報酬が必要だ。
実際に企業は高い能力を持つ人材を特別な条件で遇するようになった。NECはこのほど優秀な研究者には新卒でも1000万円以上の年収を支払う制度を設けた。世界的な人材獲得競争に負けないためである。
パナソニックの津賀一宏社長は「当社も言わないだけで、既に(多額報酬制度を)やっています。他から来る優秀な人には社内相場にとらわれず、特別枠で報います」と言う。一律初任給について日立製作所の東原敏昭社長はこう語る。「今処遇を職務に合わせて決めるジョブ型に変えようとしています。完全に切り替わるときには、無くなると思います」
昔は大手企業では補充程度だった中途採用も新卒採用と肩を並べつつある。いつ通年採用に移行しても不思議ではない。連合の神津里季生会長は「失業者へのセーフティーネットが整備されないと、不安を生む」と警告するが、もはや日本型雇用の終焉(しゅうえん)は時間の問題である。
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【プロフィル】森一夫
もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は『日本の経営』(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。