【高論卓説】計画実行力は反復演習で磨け 本発行に2年半もかかった経験から考える

 

 拙著『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』の中国語版『如何吸引客戸』が中国の出版社から発行された。翻訳の確認を終えてから発行されるまで、再校、最終稿、表紙の確認などに、実に2年半を要した。日本の出版社であれば通常どれほど長くても数カ月あれば進むプロセスだ。(モチベーションファクター代表取締役・山口博)

 このように申し上げると、その後、相当の修正をしたのではないかと思うのが普通だろうが、翻訳の確認を終えた後の修正は、ほんの数文字、数カ所だ。「今日、中国では外国語書籍の出版を制限している」という中国人ビジネスパーソンがいるが、中国の出版社の担当編集者本人に聞くと、個人的な事情だという。

 それは多分正直な見解で、書籍が発行されるまでの間「次の校正原稿が著者に送付されるのはいつか」「書籍が出版されるのはいつか」というように、私が次の工程の予定を聞くと、返答があったり、なかったりということが繰り返され、出版社の上位企業を巻き込むと返答が早まるが、返答があったとしても「来週」「来月」「連休後」「年明け」と次々と予定が遅れ、2年半もの間、いわば「そば屋の出前」のことわざ通りの状態が続いたのだ。

 今日、日本のそば屋ではありえないことで、あまり使われなくなったことわざだが「出前が遅い」とそば屋に催促の電話をすると、「いま出ました」「つくっています」という回答が返ってくるものの、まだ調理すらしていないこともあったことから、適当な返事をするという意味で使われる。

 書籍のオンライン販売のリンク先を翌週はじめに送るといわれて、送られてきたのが1カ月後であるのはまだましな方で、今週中に郵送すると言われている著者用の書籍は2カ月経過してまだ届いていない。

 長年、北京でビジネスを展開している商社出身の日本人ビジネスパーソンに言わせれば、こうした状況はめずらしくないことだと言う。おかげで、日本の出版社も著者も、何があっても心を荒立てない諦観の域に達する始末だ。

 この問題を、日本と中国のビジネス慣習の違いと一刀両断することはたやすいが、個人のレベルにまで分解していくと、私には計画実行力の度を越した欠落の問題だと思えてならない。自分が立てた計画を実行できるかどうかのスキルレベルが高いか低いかの問題だ。

 この計画実行力、自分は大丈夫だと高をくくっている人もいるかもしれないが、実は日本においても、ここまでのレベルではないかもしれないが、無視できない頻度で、計画実行力が発揮されない場面がある。

 それが、業績見込みの修正だ。記者会見される業績見込みの下方修正だけではない。日々のビジネス活動の中で、週、単位、3カ月などさまざまな単位で業績見込みを立てているが、その実績との差が大きければ大きいほど、計画実行力は低く、小さければ計画実行力は高いといえる。

 「業績はさまざまな要素に影響されるので、見込みは立てるが見込みどおりにいかないものだ」「コントロールできない要素があるから見込みと実績の差を小さくすることは難しい」と思われがちだが、実は、業績見込みと実績の差が小さい経営者には共通の特徴がある。会議や演習で発言したいと思った順番の計画と実際に発言した順番の差が小さいのだ。計画通りの順番で発言するスキルは反復演習で高めることができる。これにより計画実行力を高めることができるのだ。

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【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。