台風15号大停電 電力マンの過酷ミッション
台風15号の影響で千葉県を中心に発生した大規模な停電被害。全面的な復旧には長期間を要したが、現場では全国9電力会社から駆けつけた電力マンが昼夜を問わず、復旧作業に当たっていた。北陸電力から派遣された社員2人が取材に応じ「現場は倒木で道がふさがれ、状況把握もままならなかった」と振り返った。
真っ暗闇に倒木
台風15号が千葉県に上陸してから3日後の9月12日夕、北陸電力からの派遣要員二十数人を乗せたバスは、暗くなり始めた道の先に明かりを見つけた。「ここまでは復旧できているようだ」。北陸電力などが駐車場に拠点を置いた「イオンモール木更津」(千葉県木更津市)だった。営業を再開したのは復旧の一つの証し。北陸電力福井送配電支社(福井市)配電工事課副課長の吉村信典さん(54)は少し安堵(あんど)した。
前任者たちとの引き継ぎを終えた後、発電機車を取り外す作業のため千葉県鴨川市の高齢者施設に向かったが、その道中、強風による被害の大きさを実感させられた。
山越えの道が多かったが、停電で街灯は一つもつかず真っ暗闇。そこかしこで木が倒れ、枝が転がっていた。家屋はトタン屋根が飛び、窓ガラスが割れていた。
その後、同市内の病院に設置した発電機車の燃料を補給し、拠点に戻れたのは13日午前2時半だった。
状況把握ままならず
夜が明け、発電機車の要請を受け、袖ケ浦市の福祉施設に向かったが、作業は手探りを余儀なくされた。
施設には給水ポンプがあり、電流の波形が違う送電線3本に正しく接続しなければならない。「三相(さんそう)」と呼ばれる効率的な送電方式だが、誤ってつなげばポンプは最悪、故障する。その確認に手間取り、作業は倍以上かかった。同支社配電計画課副課長の西田豊三さん(44)は「倒木で道がふさがれ、事前の状況把握もままならなかった」と打ち明ける。
発電機車をめぐっては、ほかにも苦労はあった。「フル稼働すると3時間で燃料が切れる。また、消費量が発電量を超えてしまわないよう警戒しないといけない。1時間おきに確認が必要だった」と吉村さん。担当者は昼夜を問わず交代で燃料残量などの監視を続けた。
発電機車を取り付けた後は倒木の撤去を中心に行うため各地を回った。電柱が被害にあっている場所が多く、「倒木や大型の飛来物が電線や電柱に引っかかり、重みと風の負荷で倒れたようだ。ほかの災害と比べても圧倒的に倒木が目立った」(西田さん)。
木更津市の現場では、ナシ農家からの要望が切実だった。収穫期を迎え、選別や集荷に機器が欠かせないのに、電柱が倒れて停電し機器は使えず、作業が行えないのだという。
現場の電柱を調べ、撤去しても当面の復旧には影響しないと判断、応急的に電線をつなぎ直す臨機応変な対応も取った。
「ありがとう」励みに
イオンモールに設けた拠点にはテントがいくつか張られたが人数分のスペースは確保できない。テントで寝られるのは良い方だったといい、吉村さんと西田さんは車中か屋外のブルーシート上で寝袋を使い、睡眠を取った。
こうした過酷な状況の中、励みとなったのは地元住民からの「ありがとう」との感謝の言葉だった。
発電機車を取り付けた福祉施設では、調理場が使えるようになって施設側から食事が振る舞われた。非常用のレトルト食品を用意してはいたが、吉村副課長は「温かい食事は疲れた体にありがたかった」と振り返った。
2人は15日まで作業。北陸電力は、送電設備が復旧した24日まで、社員、協力会社含め延べ528人を派遣した。今回の出動を通じ、吉村さんは「一刻も早く復旧させるという熱い気持ち、安全を肝に銘じることを後進に伝えていきたい」、西田さんは「困っている人たちに早く電気を送れる配電マンを育てていきたい」と話している。
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