【市場の未来~豊洲移転1年~(上)】外気に触れぬ閉鎖型で衛生面「抜群」も、交通アクセスに課題

 
威勢のいいかけ声とともに始まったマグロの競り=3日午前5時、江東区の豊洲市場(植木裕香子撮影)

 「よーんばん(4番)、よーんばん、よー」。午前5時半、豊洲市場(東京都江東区)の水産卸売場棟で威勢のいい掛け声とともにマグロの競りが始まった。次々と“大物”が競り落とされると、見学デッキに詰めかけた外国人観光客から「アメイジング(素晴らしい)」と、感嘆の声が漏れた。

 米シアトルから訪れたというIT関連会社員、ロブ・ランディスさん(38)は「大量のマグロが1カ所で競り落とされる様子を見るのは圧巻。会場の熱気に驚いている」と興奮気味だ。

 昨年10月に築地(東京都中央区)から市場を移転した豊洲が目指すのは、“見せる市場”。夏休みなど長期休暇期間中には小学生らも見学に訪れる。

 東京都都は今年1月から鮮魚や野菜の販売など食に関するイベントを開催。市場関係者は「想定以上に多くの人が来場している」と笑顔で語る。来年1月には、フードコートや海鮮バーベキューが楽しめる集客施設を暫定的にオープンする計画もあり、市場は、より多くの集客を見込む。

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 マグロを取り扱う仲卸「大作早山(はやま)商店」の早山豊社長(69)は、競りを終えて戻ってくると、従業員らと競り落としたマグロ10匹を冷凍庫へ入れる作業に没頭していた。従業員らは顧客の要望に応じて、マグロの量や部位を切り落とす。

 「衛生管理は豊洲の方が抜群にいい。外気に触れる築地と違って、マグロの鮮度もよりよくなったし、作業もしやすくなった。ネズミも出ないしね」。早山社長は満足げに話す。

 外壁が少なく、外気温と変わらぬ中で作業していた築地市場と違い、豊洲の水産仲卸売場棟は閉鎖型。施設内はエアコンによって温度管理されており、夏場でも19~25度に保たれる。

 天ぷらダネの魚を扱う仲卸「ナンバ水産」の難波昭信社長(58)も「築地の時のように、魚に温かい空気が触れてしまう悩みもなくなったし、魚の鮮度を落とさないために使う氷の量も大幅に減った」と強調する。

 ただ課題はある。最大の課題は、交通アクセスが築地市場に比べて悪く、駐車場も少ないことだ。

 豊洲には、地下鉄8号線(有楽町線)の延伸計画(住吉-豊洲)もあるが、進展はみられない。現時点で最寄り駅は、かつて“都会の秘境”と称された新交通システム「ゆりかもめ」の市場前駅のみ。付近に大江戸線や日比谷線が利用できる鉄道駅があり、有名飲食店などが並ぶ銀座(中央区)も徒歩圏内という抜群の立地だった築地市場とは大きく違う。

 大作早山商店の早山社長は「築地のころは銀座の小料理店のお客さんも、自転車でマグロを買いに来てくれたりした。豊洲に移ってからは、遠いし不便だからと、そういうお客さんが離れていった」と嘆く。

 交通が不便になった分、豊洲を利用する顧客は車を使用する機会が増えるのだが、駐車場は不足する傾向にある。時間帯によっては駐車場へ入るのを待つ車が見られることもあるという。

 「ナンバ水産」の難波社長は「買いに来てくれるお客さんのためにも駐車場の確保は必須だ」と求めている。

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 「日本の台所」と親しまれた築地市場が、豊洲へ移転して1年。豊洲の将来はどこへ向かうのか。築地はどうなるのか。市場の未来の姿を探った。((中)は明日10月15日に掲載します)