【スポーツbiz】台風損害を補填「キャンセル保険」 ラグビー組織委も救われる

 
ナミビア-カナダの試合が中止となった岩手・釜石鵜住居復興スタジアム(奥)。キックオフとなるはずだった時間には、大漁旗を手にしたファンや関係者らが集まった =13日

 先週末の日本を襲った台風19号の被害は、日を追うごとに拡大している。昨今の自然災害の広域化、被害の大きさは想像を絶する。一日も早い復旧を願わずにはいられない。「台風によって被災した方々にラグビーで元気を取り戻していただきたい。そんな気持ちを持って試合に取り組みました」。ラグビーワールドカップ(W杯)で日本が史上初めてベスト8進出を決めたスコットランド戦の終了直後、立役者の一人、プロップ・稲垣啓太選手はそう語った。台風19号が東日本に多大な被害を出した翌13日のことである。12日実施予定だった2試合が中止され、この日も岩手県釜石市でのナミビア-カナダ戦が中止となった。日本-スコットランド戦も実施が危ぶまれていた。それだけに、台風での犠牲者に黙祷(もくとう)をささげて始まった試合は特別の思いがあったと思う。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 ラグビー組織委救う

 それにしてもラグビー界最高峰の戦いが3試合も中止になったことは残念でならない。

 東日本大震災からの復興の思いを込めて釜石開催の先頭に立ってきた釜石市のワールドカップ推進本部事務局主幹の増田久士さんは悔しさをかみしめながら、「いつかメモリアルマッチのナミビア-カナダ戦をやりたい」という。実現に向けて関係者の尽力をお願いしたい。

 組織委員会は3試合の中止により、チケット代金を払い戻さなければならない。その損失額は20億円以上に上るともいわれる。大会予算約630億円の半分以上をチケット収入に頼る組織委員会にとって、台風襲来はまさに一大事だったが、実は損失額の大半は興行中止保険、別名キャンセル保険によって補填(ほてん)される仕組みとなっていた。

 保険金や契約内容は明らかにされていないが、通常こうした大会の損失補填額は80%とも90%とも言われる。保険金額も高額だと考えてよい。ただ、大会開催には必要な支出であり、今回、図らずもそれが窮地を救ったことは間違いない。

 実はこの種の保険はこれまでもスポーツイベントの中止、延期など多くの損害に際し、収入を補填してきている。例えば、西側諸国がボイコットした1980年モスクワオリンピックや2001年「9.11」同時多発テロ直後に米国で開催が予定されながら中止、延期されたNFL(米ナショナル・プロフットボールリーグ)やゴルフの試合などでは効果を十二分に発揮した。

 ラグビーW杯でも11年ニュージーランド大会で“活躍”。その年に起きたカンタベリー地震の影響でクライストチャーチの試合会場の変更が余儀なくされ、他会場に試合を移した収入減を補填したことがあった。

 大イベントに必須

 大規模イベントでは通常、天候不順、自然災害、テロや交通機関の運航停止、停電などに備えて保険に加入している。

 20年東京五輪大会のゴールドスポンサー、損害保険大手の東京海上日動火災保険のホームページには1964年東京大会当時、同社が関わった損害保険の内容の記載がある。「ヨットレース巡視艇の船舶保険」「組織委員会借り上げ乗用車の自動車保険」や「マラソン選手の傷害保険」「選手村の食中毒の賠償責任保険」など内容は多岐にわたる。

 今、大イベントに興行中止保険は必須といわれる。2012年ロンドン大会は保険金額が13億4600万ドル(現在のレートで約1400億円)だった。昨今のリスクの多さから金額は大幅に上昇した。自然災害が少なくない20年東京大会はどうなのか。台風が損害保険とスポーツイベントとの関係の深さを思い出させてくれた。

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【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。