過疎地の買い物難民を救え ドローンが地域の新しいインフラに
高齢化、過疎化が進む岡山県山間部の和気町で10月から、無人航空機のドローンを使った生活物資の配送実験が行われている。配送先は、自動車でたどり着くには一本道しかない集落など。住人は高齢者が多い。買い物支援の一つとして期待されるが、土砂崩れなど災害時には孤立の恐れがあり、地域の新しいインフラとしても注目される。
住人44人の集落
「今日は調子良く飛んどるわ」
ブオーンと音を立ててプロペラを回し、山あいへ去っていく大型ドローン(幅1.6メートル、高さ90センチ)を見上げ、松石富子さん(82)がつぶやいた。手にはファミリーマートのすし、岡山のスーパー「天満屋ハピーズ」のちくわが入ったポリ袋。ドローンが運んできた松石さんと愛猫の昼ご飯だ。
松石さんの住む和気町・津瀬地区は、吉井川沿いの急(きゅう)峻(しゅん)な山の麓にあり、17世帯44人が住む。最寄りのスーパーまでの距離は約13キロだが、高齢化が進んでおり車を運転できない人は多い。地区に向かうのは県道の一本道のみ。川から近く、災害時には孤立しやすい場所でもある。
松石さんは集落の坂の上の家で1人で暮らす。「ドローンは本当にありがたいです。ちくわは猫にあげようと思って。1人で寂しいからかわいいんです」と目を細めた。
「消滅可能性都市」
実験は和気町、地元のドローンスクール、コニカミノルタ、NTTドコモ、物資を提供するファミリーマートなどの共同事業。
同町では昨年12月にも国土交通省、環境省と連携してドローンによる配送実験を実施したが、今回は通信技術の発展を目指す総務省と組み、2度目となる。期間は来年1月31日までの4カ月。
ドローンによる配送は火、木、金の週3回。荷物を積んだドローンは、午前11時に同町平野部の益原地区にある「和気ドーム」駐車場を出発し、北方の山間部に広がる田土、津瀬、南山方の3地区をまわる。
3地区には計65世帯146人が住み、すべて回れば飛行距離は30キロ、飛行時間は90分に達する。現在の機種とは別に、エンジンを上部に取り付け運搬できる量を増やした改良型も開発しており、期間中に運行する予定だ。
同町がドローン運用に本腰を入れるのは、過疎、高齢化が深刻なためだ。
町の人口(今年10月1日時点)は約1万4100人で過去10年間で2千人減った。令和27年(2045年)には8500人にまで減る見通し。高齢化も進んでおり4割が65歳以上のお年寄りだ。地域運営、自治体運営が行き詰まる「消滅可能性都市」の懸念がある地域の典型とされる。
法の壁、薬は買えず
期待のかかる実験だが課題も見えつつある。
注文は配達日当日の午前9時まで受け付けている。だが、津瀬地区の2人からのみ注文があった際、到着時刻がその分早まったのだが、2人は知らずにいた。
和気町で実験を担当する、まち経営課の海野均課長補佐(47)は「スマートフォンでドローンの位置を確認するサービスも考えられるが、お年寄りは持っていない人が多い」と述べ、周知方法を模索する。
また、「薬が欲しいという声があるが、法律が次の壁になっている」とも。松石さんは月に一度、近所の人に車に乗せてもらって病院に行き、必要な薬を受け取っているという。医薬品医療機器法(旧薬事法)上、医師の処方箋が必要な種類の薬でドローンでの配送には法改正が必要となるためだ。
このほか実験では、水稲の生育状況の診断、有害獣の調査や山林の測量といったものも実施。ドローンは新しいインフラとしての期待も高まっており、各方面で実用化への試行錯誤が続いている。
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