焦点ぼやけた東京モーターショー なりふり構わぬ集客、展示のあり方にも疑問
■日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎
4日まで12日間にわたり開かれている「第46回東京モーターショー2019」。今年は特殊であったといえるであろう。
まず、従来の会場である東京ビッグサイトが、来年開催の東京五輪のため一部が使用できず、有明エリアと青海エリアに会場が分かれてしまった。移動は無料シャトルバスもしくは電車の活用である。両エリアをつなぐ一本道「OPEN ROAD」を設け、超小型モビリティーや電動キックボードなども体験できるなど工夫が凝らされた。
サービス分野の乏しさ
近年、各国で開催されるモーターショーは、年々入場者が減少し、直近9月に開催されたフランクフルトモーターショーでも、2017年の81万人から56万人へと大幅減少した。そのためか、今年の東京モーターショーでは、前回の77万人から減少をくい止めようと、開催期間を10日間から12日間へと延長して対策を講じていた。今回訪れた印象として、2つの“気付き事項”を挙げたい。
ここ数年の自動車業界は16年のパリモーターショーで当時ダイムラー会長だったツェッチェ氏が提唱した「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、エレクトリック)」という概念がはやり言葉となり、今回のモーターショーでもその多くが展示されていた。
一方、16年頃からフィンランドが発祥となって、公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどを組み合わせ、人の移動をシームレスに予約と決済ができるサービスが広がってきた。いわゆる「MaaS(Mobility as a Service)」である。18年にコペンハーゲンで開催されたITS世界会議でも、MaaSに関連する発表が相次ぎ、世界規模で大きな潮流となってきた。
日本でも、19年は「日本版MaaS元年」と呼ばれ、鉄道会社、地下鉄、カーシェア企業、自治体なども活動を推し進める動きが活発化してきた。
しかしながら、今回の東京モーターショーでは、車もしくは部品に重点が置かれ、サービス分野であるMaaS関連は極めて少なかった。モノづくり中心といえるかもしれない。
これは主催が日本自動車工業会ということもあるのかもしれないが、電気・電子部品メーカーも多数出展しており、分野は違えど連携さえすれば可能であったのではと思われる。クルマは、購入から利活用へとユーザーの考え方が変化しつつあり、MaaSなどのモビリティーサービス分野も今後、避けて通れないのではないだろうか。
入場者数の偏重
もう一つの気付き事項は、展示のあり方についてである。今回は海外メーカーからの出展も激減し、日系自動車メーカーもブース・展示車両とも予算を絞りぎみであることから入場者数が減少することが予想された。そのためか事務局では反転すべく、100万人の入場者を目指したようである。しかし、筆者からすれば人を呼ぶためならば、なりふり構わぬ点があるように見受けた。
例えば、e-Sportsや、通常は別の時期に開催している「Tokyo Auto Salon」とのコラボである。アミューズメントや、これまでとは別の観点から開催してきたことを混ぜてしまうと、このモーターショーで何を主張したかったのか分からなくなってしまうのではないだろうか。
今回の展示を例えると、おもちゃ箱をひっくり返したような展示のように思われ、何のショーだったのか焦点がぼやけたように見受けた。
筆者が考えるに、今後、東京モーターショーに求められているのは、日本の基幹産業である自動車および周辺が今後どのような方向に進もうとしているのか、また未来はどのように変わり、ユーザーの意識としてもどう変わらなければならないのかを、きちんと論理立ててアピールすることではないかと考える。
その意味からCASEのみならず、MaaS分野や、MaaSを基盤とするインフラ分野、電気・電子・通信業界が一緒になって、将来のあり方を考え提示していくことが大切に思える。結果的に自動車メーカーの比重は下がるかもしれないが、新しいモビリティーやサービスのあり方、インフラの将来像を見せるよう企画することで、参加企業や参加入場者も盛り返すように思われる。
【プロフィル】和田憲一郎
わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。