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変貌する「駅ナカ」事情 新聞や雑誌が細る一方で、新たな売れ筋が

 鉄道業界の流通事業が拡大している。例えば、JR東日本の最新の有価証券報告書(2018年度)によると、グループ全体での流通・サービス事業の売上高は前期比1.8%増の5937億円となり、営業利益は前期比0.6%増の392億円となった。この中で駅ナカの売り上げは相当なものになると見られる。

 駅の中をよく見ると、さまざまなお店がある。旧来の売店や駅そば店だけではなく、カフェ・薬局・コンビニなど、便利な店が多くそろっている。

 大きな駅の駅ナカには、手土産に便利なお菓子や、新幹線や特急の中で食べるのに楽しみなお弁当など、魅力ある食べ物であふれている。一方で、旧来型の駅売店は規模が縮小し、コンビニ化もしくは閉鎖に追い込まれている。

 JR東日本各駅の売店の多くが「Kiosk」から「NewDays」になって、どのような変化があったのか。以前は商品を手にとって、その場で会計するところが多かったが、いまはレジに行って会計するようになった。また商品のバラエティが増えたことによって、「どれにしようかな」と迷ったことがある人も多いのではないだろうか。

 それ自体はいいことだ。だがその一方で、扱いが悪くなったものもある。20年ほど前、駅売店には新聞がうず高く積まれ、朝の時間帯には『日本経済新聞』が、夕方の時間帯には『夕刊フジ』『日刊ゲンダイ』『東京スポーツ』などが、手に取るのも困難なくらい高く売店の店先に刺さっていた。その時代には『内外タイムス』という新聞もあった。

 しかもそのころ、都心では昼ごろに早版を並べ、夕方には最終版を並べる体制をとっていた。しかしいまでは、新聞の扱いは少なくなり、特に夕刊紙の扱いは激減、早版と最終版を2回運ぶこともなくなった。

 自社系列の売店から、コンビニ業者に運営を任せるようになると、もっと新聞の扱いは悪くなる。例えば、小田急電鉄新宿駅の売店では、セブン-イレブンが運営に携わることで、英国の新聞『Financial Times』の日本印刷版や産業専門紙などが扱われなくなり、新聞のバラエティは減った。新宿西口地下に3カ所あった売店で新聞を扱っていたものの、セブン-イレブンになってから1店舗だけになり、その他のお店は別のものを扱うようになった。

 スマートフォンの普及により、駅売店の“華”だった新聞は添え物となり、代わりに飲食物に力を入れ、むしろそちらのほうが利益を上げているのでは、という現実を感じさせられる。

 関東圏の鉄道各社はコンビニ化を進めている社も多く、駅売店のスタイルも変わり、場所によっては客単価も増えているのではないだろうか。

 「必要なもの」が駅の中に

 駅の中には「必要なもの」を扱うための場所が、どんどん設置されている。例えば、JR東日本や東京メトロの駅ナカには、ドラッグストアが設置されるケースが増えている。JR東日本では子会社のJR東日本リテールネットが「くすりSTATION」を運営し、東京メトロでは「コクミンドラッグ」などに店舗を出店させている。「くすりSTATION」は7駅に、東京メトロの駅ナカのドラッグストアは6駅にある。

 駅の中のドラッグストアには、意外と「必要なもの」があふれている。急に頭が痛くなったり、胃の調子が悪くなったり、疲れて高めの栄養ドリンクを飲みたいこともある。こうした急な需要に応えるのが、駅ナカ薬局の使命である。バラエティを確保するよりも、必要ゆえに存在していて、もっと増やしてほしいとさえ感じる。

 革靴で歩いていると、急に靴の調子が悪くなることがある。その場合には、「ミスターミニット」などに行くとよい。汚い靴をみがいてくれたり、修理などをしてくれたりする。JR東日本では5駅に、東京メトロでは23駅にある。

 「現金」に関しても、駅ナカにATMが設置されることが多くなり、キャッシュレスがさかんになった現代でも急に現金が必要になったときには、いつでも引き出せる。ビューカードのATMは銀行のATMとしても使用できる。加えて、セブン銀行や一般の銀行のATMも駅に設置されている。

 「必要なもの」を扱うビジネスも、増えてきているのだ。

 最近は、駅ナカに「ユニクロ」や書店などがある。長距離の特急や新幹線などに乗る前に、行った先(特にその地が寒い場合)のことを考えて衣類を買ったり、長距離鉄道の中で読む本を買ったりすることができるようになった。こうした充実ぶりも、最近の駅ナカを語る上では欠かせない。JR東日本の駅で「ユニクロ」があるのは14駅となっている。

 もちろん弁当も、その駅の駅弁だけではなく、各地の駅弁をそろえたお店もあり、多くの人でにぎわっている。そういった弁当店は、東京駅や新宿駅などにある。「必要なもの」だけでも、バラエティ豊かになっているのだ。

 「売りたいもの」があふれる駅ナカ

 東京駅のような大きな駅になると、駅ナカにはスイーツ、総菜、弁当などがたくさん並んでいる。JR東日本は駅ナカ事業に力を入れており、その一環として、単なる必要性を超えた、「売りたい」という意志を反映した商品に力を入れている。

 考えてみると、スイーツや総菜などは本来なら「なくてもいい」ものである。しかし、駅ナカでの消費を活性化させ、企業としての利益を追求するために、こういったものが設置されるようになったのである。「必要なもの」から「売りたいもの」への移行が、駅ナカ施設内では起こっている。

 そういった「売りたいもの」が、駅ナカの魅力をさらに高め、多くの人が駅に集まるようになっている。

 駅ナカの飲食店といえば、かつては駅そばが中心だった。その後、駅の中にコーヒーショップができ、そこで軽食も食べられるようになった。このほかにも、さまざまな飲食店が駅の中にはある。

 歴史も長く有名なところだと、京王電鉄のカレー「C&C」がある。京王には「高幡そば」があるが、こちらを扱っている駅は2駅と少なく、カレー店のほうが多い。そのうえ、京王エリア以外の東京メトロ駅などにも店舗網を拡大している。駅の食べ物として、京王はカレーに力を入れ、新宿の本店ではいつも多くの人でにぎわうほど繁盛している。また、パンとコーヒーを出すカフェ「ルパ」も増えている。

 変わる駅ナカの飲食店事情

 小田急電鉄の駅には、「おだむすび」というおむすびのお店がある。和食党にはうれしいお店だ。もちろん店内で食べることができ、みそ汁やおかずなどとのセットも販売されている。

 また旧来の駅そばも、味が大幅に改善されており、新メニューにも力を入れ、どの店でもお客でいっぱいである。

 「食べる」のは、人間が生きていく上で必要なことである。その意味では、飲食店の充実は必要なことだ。こういったことには各鉄道会社とも力を入れていただきたい。

 おいしいものを食べるひとときが、都市住民の鉄道ライフを充実させる。それゆえに沿線住民や利用者も鉄道会社に満足し、鉄道そのものへの愛着も増すだろう。

 駅ナカの隆盛は、鉄道そのものの魅力を高め、駅をより人の集まる場所とするだけでなく、利用者の「困ったこと」をサポートすることにもなる。それが、鉄道会社への支持につながっていくだろう。(ITmedia)