【経済インサイド】東南アジア最大の配車サービス「グラブ」 その実力を現地で体験

 
緑のヘルメットが目立つグラブのバイクタクシー=ベトナム・ホーチミン

 東南アジアで圧倒的なシェアを誇る配車サービス「Grab(グラブ)」。シンガポールを拠点に、ソフトバンクグループ(SBG)傘下のビジョンファンドの構成企業として、収益を支える存在でもある。9月末、ちょっと遅めの夏休みで東南アジアを旅した記者がその実力を体験した。

 カンボジアでアンコールワット遺跡群を観光した後、首都のプノンペンを経て、ベトナム・ホーチミンへ向かった。プノンペンからはバスに乗り、約6時間をかけてホーチミンに到着。市街地に向かう道路はひどく渋滞しており、車であふれ、バイクがその間を縫うように走っていた。

 長距離バスのターミナルからホテルまでは10キロ弱。ガイドブックなどによると、タクシーの相場は15万~20万ドン(約700~940円)となっていた。

 目の前にあったタクシーに乗り込んだところ、異常な早さで上がり続けるメーター。運転手はホテルの場所を知らなかったらしく、地図アプリで確認すると、目的地とは別の方向に進んでいる。ホテルまで徒歩圏内まで近づいたときに一旦車を停めさせた。すでにメーターは30万ドンを超えていた。

 車体に書いてあるタクシー会社の名前をグーグル検索すると、「通常の2~3倍の値段を請求してくるぼったくりタクシー」と出て来た。運転手と一悶着あったが、10ドルだけ払ってなんとか事なきを得た。

 翌日、ホテルから空港に移動する際にはグラブを使うことにした。アプリを立ち上げると、バイクか車のタクシーかを選択できる。GPS(衛星利用測位システム)で自分のいる場所が表示され、後は行き先を指定するだけ。目的地が決まると、自動的に料金も表示される。約30分程度の距離で12万ドンほどだった。

 配車を予約するとスマートフォンに、「約2分ほどで到着する」というメッセージが届いた。アプリの地図で、予約した車の位置情報が表示されているので、どの辺りを走行しているのかも一目瞭然。目的地に着いた後、はじめに示された料金を支払うだけだ。ちなみに、ぼったくりにあったバスセンターからホテルまでの道のりをグラブで試してみると、約13万ドンと表示された。

 カンボジアの滞在時には、グラブを利用することはなかった。現地ではバイクが荷台車を引っ張る「トゥクトゥク」が主な移動手段だった。至る所に運転手がいて、観光客にはひっきりなしに声をかけてくるため、アプリを立ち上げる必要がなかったのだ。

 グラブは、マレーシア発祥の配車アプリ。東南アジア8カ国でサービスを展開するユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)だ。食事の配達や荷物の宅配、電子マネー決裁などに相次いで進出。契約している運転手への貸し付けや保険など、金融サービスにまで事業領域を拡大している。2018年には、SBGが出資する米配車大手、ウーバーテクノロジーズの東南アジア事業を買収し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。配車だけではなく、生活全般に関わるサービスを提供する「プラットフォーマー」を目指す。

 7月に都内で開催したSBGのイベントで、孫正義会長兼社長は、グラブ創業者のアンソニー・タン最高経営責任者(CEO)を「AI時代の新しいスーパースター」と絶賛した。

 東南アジアでは競合の配車大手も成長しており、熾烈な競争が繰り広げられている。法規制などで日本では馴染みの薄い配車アプリだが、海を隔てた東南アジアでは、顧客と運転手の奪い合いが激化していた。(高木克聡)