マネジメント新時代

開発競争ヒートアップ なぜいまEVピックアップトラックなのか

 かねて噂のあった米テスラの電気自動車(EV)ピックアップ「サイバートラック」が11月21日に初公開された。外観は参加者が度肝を抜かれるような奇抜なデザインであり、マッチョ、そしてビッグとまさに北米のピックアップトラック愛好者が喜びそうなキーワード満載のクルマとなっている。(日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎)

 間髪を入れず、米ゼネラル・モーターズ(GM)のバーラ最高経営責任者(CEO)は同日、EVピックアップトラックを2021年秋に市場に投入すると発表した。

 また米フォードモーターは、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)と商用バンやEVピックアップトラック開発の提携を発表している。このように一気に激化してきたEVピックアップトラックの動向について考えてみたい。

 3つの理由

 なぜいまEVピックアップトラックなのであろうか。その理由は主に3つあると考える。1つ目は、米国自動車販売の低迷である。19年1~10月の累計では、全体で1.1%減となっている。内訳では乗用車は約10%減なのに対し、小型トラックは約3%増と堅調な伸びを示している。これは18年も同様の傾向である。つまり、環境が低迷している中で、今後収益を上げようとすれば、利幅の大きい、かつ新規性の高いEVピックアップにシフトすべきだと考えたからであろう。

 2番目は、新規参入による競争激化である。テスラのように乗用車のみを生産していた自動車メーカーが参入するとともに、無名のEVメーカーも多数参入を表明している。その中で有力なのは、米新興EVメーカーのリヴィアンである。既にEVピックアップトラック「R1T」を発表しており、20年には生産・販売を行う計画である。

 生産工場は、三菱自動車から買い取ったイリノイ州ノーマルの工場とのこと。なんと、筆者が三菱自動車勤務時代に、エクリプスの生産などでよく出張した工場であり、それが売却されてEVピックアップ生産工場になるとは思ってもいなかった。

 米ネット通販大手アマゾン・コムはリヴィアンに7億ドル(約767億円)投資しており、これも話題となっている。

 3番目はゼロエミッション車(ZEV)規制への対応であろう。トランプ政権による規制撤廃の動きはあるものの、規制当局のカリフォルニア州大気資源局は法廷闘争も辞さないと表明している。つまりZEV規制に対して簡単に結論が出ることはなく、自動車各社は打ち手に迫られてきたのではないだろうか。これまで手つかずであったピックアップトラック分野への対応が必要になったのであろう。

 アジアにも影響

 北米のEVピックアップ開発競争激化の動きは他にも波及するのであろうか。2つの地域で大きな影響が出てくると予想される。一つは中国である。昨年新エネルギー車が126万台販売され、今年もガソリン車低迷の中で、対前年比を上回る状況である。EV乗用車、EVバスと来て、その次はEVトラックと考えている企業も多く、またプラグインハイブリッド車(PHV)に比べ開発の難易度も高くないことから、北米の動きに啓発されるのではないだろうか。

 もう一つはアジア諸国である。タイ、ベトナム、インドネシアなど販売台数の中でピックアップの比率が高い地域が多い。多くのアジア諸国もCO2削減を掲げており、乗用車でのゼロエミッション化を推進するものの、海外にてEVピックアップトラック開発の波が出てくると、これに同調する動きもあるのではないだろうか

 一方、日系各社への影響はどうであろうか。北米やアジア諸国にてピックアップトラックを販売している自動車メーカーも多く、ひとごととは思えないのであろう。しかし、まだ様子見だと思って、ぼうっとしていると、あっという間に市場を奪われる可能性も出てくる。この動きは決して見過ごすことはできないように思われる。

 ところで、テスラはEVピックアップ「サイバートラック」発表時、このクルマは堅牢(けんろう)性が高いとアピールしていた。しかし、サイドドアガラスに鉄球をぶつけたところ、ガラスにヒビが入り、メディアから失笑を買った。筆者としては、別にEVピックアップに防弾ガラスのような装備は必要なく、あえて話題作りか、新たなマーケティング手法かなと思ってしまう。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。