タピオカブームに青天の霹靂(へきれき)か--。
SNSで大きな話題を呼んだのが、国内大手タピオカ飲料店の「ゴンチャジャパン」社長人事だ。同社は12月1日付で原田泳幸氏を新たな社長に任命した。
原田氏は、これまでに日本マクドナルドやベネッセ社長などを歴任する、いわゆるプロ経営者として有名だ。彼に対する経営者としての評価はさまざまで、批判的な意見も少なくない。
かつての原田氏には、消費者にとってキャッチーな失敗例が多くみられた。2015年まで社長を務めたマクドナルドでは、12年にカウンターからメニューを撤去して消費者の反発を招き、ベネッセ時代には14年6月の就任から半月あまりで個人情報漏洩(ろうえい)事故が発生した。
消費者にとって何となくネガティブなイメージのある原田氏が、ゴンチャ社長に就任したことで、「タピオカブームもいよいよ終わりか」と憂慮する声も少なくない。
タピオカ人気の“頭打ち“の就任
現に、「タピオカ」の人気度はすでにピークアウトを示唆している。図は、タピオカ関連銘柄として値上がりした神戸物産の株価とGoogleにおける「タピオカ」キーワード検索量を比較したグラフだ。
神戸物産の株価は一時的に押し目をつけたものの、再び最高値を更新した。これは本決算期待もある。神戸物産は12月13日に本決算の発表を予定している。会社予想は増収増益で、期待が先行しているかたちだ。
一方で、グーグルの「タピオカ」検索回数が、夏のピーク時と比較して半分以下に落ち込んでいるのが気掛かりだ。仮にこの冬にタピオカ目当ての顧客が減少していたとしても、その影響が明らかになるのは、20年3月頃に発表される第一四半期決算のタイミングとなるだろう。
他にも、冷たい飲み物というイメージが強いタピオカの「冬越え」問題や、大手カフェチェーンなどのタピオカ参入という競争激化も業界全体の課題になりつつある。
そのようなタイミングで原田氏の社長就任が重なった。ベネッセのジンクスと同じく、「就任そのものがタピオカブームの終わりを決定的にするのでは」と懸念する声が一部であがっているのはそんな理由だ。
それでは、本当に原田氏はタピオカブームを終わらせる存在となるのだろうか。
問題があるときに起用される「プロ経営者」
「プロ経営者」には明確な定義がないものの、一般的には多くの企業を渡り歩く経営者を指す。プロ経営者は、米国では一般的な経営者像で、日本で多数を占める創業家の同族社長や、会社で出世したサラリーマン社長と対比されることが多い。
そして同族社長やサラリーマン社長がプロ経営者に経営の座を譲るのは、おおよそ似たタイミングである。それは、同族社長やサラリーマン社長が経営に行き詰まりを感じたり、改革がうまくいかなかったりしたときだ。会社に問題があるときこそ、会社にしがらみがないプロ経営者による改革が求められる。
KDDIや京セラの創業者である稲盛和夫氏のように、2010年からわずか2年でJALを劇的に再建させたプロ経営者の成功例もある。しかし、プロ経営者としてのキャリアを成功事例のみで終わらせられる例は非常に少ない。なぜならプロ経営者は、これまでの経営者が解決できなかった課題に取り組みながら事業を成長させるという、本質的に失敗リスクが高い職業だからだ。
カルビーやジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の業績を大幅に伸ばしたプロ経営者の松本晃氏は、RIZAPのCOO(最高執行責任者)として同社の経営再建を目指したが、積極買収した子会社の整理メドがたたず、わずか半年で退任となった。問題があるときにプロ経営者は起用されるが、問題の在り方によっては実力が発揮できないことも多いのだ。
原田氏に期待されている2つの課題
ここまで考えると、ゴンチャには、自社の抱える課題をプロ経営者の原田氏に解決してもらう狙いがあると思われる。ここで、ゴンチャが原田氏に解決してもらいたい課題は主に2つあるのではないかと筆者は考える。
それは、フランチャイズ戦略と、商品モデルの再構築だ。原田氏はこの2点について、マクドナルド時代に酸いも甘いも噛(か)み分けている。
まず、フランチャイズ戦略について原田氏の実績を振り返ってみよう。原田氏は、07年から13年にかけて、マクドナルドにおける直営店のフランチャイズ化を推進した。これにより、本部は管理機能と商品開発に注力させ、人件費のコスト削減にも成功した。しかし、フランチャイズ化によるサービス品質のばらつきにより顧客満足度の低下ももたらした。
ゴンチャもフランチャイズ経営を推進しているが、やはりフランチャイズ推進はコスト削減というメリットの裏に、ブランド価値の毀損リスクが伴う。原田氏はかつて店舗運営をフランチャイズオーナーに放任して失敗した。その経験をゴンチャでは各店舗への行き届いた教育・管理へ昇華させられるかが焦点となるだろう。
次に商品モデルについての見直しであるが、実はこれも原田氏の得意分野であった。原田氏は、「100円マック」を日本に導入。低価格商品で集客し、リピーターの獲得に成功した。そして、集めた顧客に「ビッグマック」や「クォーターパウンダー」といった高価格帯の商品を宣伝して客単価を上げた。その結果、既存店売上高を8年連続でプラスに導く業績の立て直しに成功し、一時は「原田マジック」などともてはやされた。しかし、コンビニの100円コーヒーなどによる顧客流出や、高価格帯商品の定着が振るわなかったことなどもあり、退任までの2年間で大きく売上高を下げてしまうこととなった。
ゴンチャのメニューは、新規参入したカフェ系チェーンなどが提供する安価なタピオカ飲料と比較して、高価格な部類に位置する。タピオカ飲料は原価が安く、作り方も簡単だ。そのため、タピオカ飲料は今後、熾烈(しれつ)な価格競争に陥る可能性が高く、ゴンチャもそのあおりを受けるかもしれない。そこで原田氏が推進した100円マックのように、廉価な商品をリリースし、高品質な茶葉を使用した主力商品との住み分け、ないしはブランドの分割という抜本的な改革を実施するなどといった戦略を実行するのではないかと予想する。
実は、失敗した経験のあるプロ経営者を起用することは理にかなった行動だ。自社の社長が失敗すると経営が傾くことすらあるが、他社で失敗した社長は、失敗で得た知見を自社の経営に生かせるだけでなく、失敗によるコストの清算をその会社で済ませているからだ。
ここまで考えると、原田氏はむしろタピオカブーム終焉(しゅうえん)の救世主といった見方もできるのかもしれない。(ITmedia)