名古屋めしビジネスの強さを探る短期集中連載。今回は、名古屋めしシーンの新しい動きに注目していく。
江戸時代に誕生したきしめんを筆頭に、みそ煮込みうどんやひつまぶし、みそカツなど、歴史のある料理が多い名古屋めし。そんな古参メニューが群雄割拠する中で、一気に市民権を得た最新の名古屋めしが「台湾まぜそば」だ。
誕生から10年余りで一気に全国区に成長
誕生は2008年。オープン間もなかった新興ラーメン店「麺屋はなび」が開発した。名前の通り、名古屋めしの一つである台湾ラーメンのアレンジメニュー。これが“激辛だがクセになる”と評判になり、決して好立地とは言えない同店を大繁盛店に押し上げた。同店がフランチャイズチェーン(FC)展開したことに加えて、これにならったメニューを出す店も続出。名古屋を飛び出し、今や全国1000店以上で提供されているとすら言われる。
台湾まぜそばの急速な広がりには、やはり「名古屋めし」というキーワードの後押しがあった。
「『名古屋めし』のフレーズが有利に働いたことは間違いありません。インパクトがある食のジャンルとして全国的に認知されているし、他の名古屋めしと合わせてメディアに取り上げられる機会も広がりました」と、麺屋はなびオーナーの新山直人さんは話す。
台湾まぜそばの大ヒットは、名古屋めしのカテゴリーを広げる役割も果たしている。台湾ミンチ(豚肉をトウガラシやニンニクで炒め煮したもの)をトッピングした“台湾系・新名古屋めし”ともいうべき料理がさまざまなジャンルで次々に登場しているのだ。台湾○○とネーミングされた創作メニューは、うどん、きしめん、もつ鍋、串焼き、ピザ、サンドイッチなどまさに百花繚乱となっている。
「ここ数年で“食べたい”メニューから“作りたい”メニューになった。台湾ミンチは意外なほど何にでも合うし、トッピングすれば何でもおいしくなる。魔法の具材です(笑)」と新山さん。
「麺屋はなび」は現在、直営、FC合わせて約40店舗を展開。韓国、マレーシア、米国・ロサンゼルスと海外にも進出し、国外では「名古屋まぜそば」とネーミングされて、名古屋のPRにも一役買っている。
コラボ商品で客層広げる「あんかけスパゲティ」
多彩なコラボによってビジネスチャンスの拡大を図っているのが「スパゲッティ・ハウス ヨコイ」だ。同店は1963年創業のあんかけスパゲティの元祖。ピリ辛でこってりしたソースが極太麺にからむ通称“あんかけスパ”は、名古屋市内にいくつもローカルチェーンがあるほど地域限定で浸透している。ちなみに「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋も、あんかけスパの専門店チェーン「パスタ・デ・ココ」約30店舗を展開している。
ヨコイは名古屋市内に3店舗と、店舗数は限られるが、ここ数年、コラボ商品の開発に力を入れている。2018年夏には石川県金沢発祥のカレーチェーン「ゴ-ゴーカレー」とタッグを組んで、「ヨコイのソース ゴーゴーカレー風味」と「ゴーゴーカレー ヨコイのソース風味」の2種類のレトルトソースを発売。19年春にはスナックメーカー・おやつカンパニーと共同で「ベビースタードデカイラーメン ヨコイあんかけスパゲッティ味」を発売した(いずれも現在は販売終了)。
この他にもホテルチェーンの朝食、ハンバーグ専門店のメニュー、物販商品にも同店のソースが近く採用される予定。さらに、名古屋の豆腐店と共同で、同店のソースを用いた「名古屋麻婆」なる商品も売り出す計画だ。
「飲食店とは異なる販路の商品によって、あんかけスパゲッティを食べたことがない人にも知ってもらう機会が広がる。スナック菓子ならお子さんにも食べてもらうことができる。こうして少しずつあんかけスパゲッティを浸透させていきたいと考えています」と、横井慎也副社長は話す。
あんかけスパゲッティは、個性的と言われる名古屋めしの中でも特に個性が強く、根強いファンがいる一方で、名古屋以外にはなかなか広まりにくい。ココイチの企業力をもってしても「パスタ・デ・ココ」の店舗数は頭打ち。ヨコイも15年に同じ愛知県の外食グループ・甲羅と共同でFC展開を図ったが、オリジナルの味を再現しきれず3店舗を出店しただけで結局撤退している。店舗展開のハードルが高い業態ゆえに、物販を主とした商品展開に新たな活路を見いだすという試みは、他の名古屋めし企業にとっても参考になりそうだ。
“名古屋めしのデパート”で観光客をつかむ、絶好調の外食企業
名古屋めしは、当連載でも取り上げた「矢場とん」=みそカツ、「あつた蓬莱軒」=ひつまぶし、「山本屋本店」=みそ煮込みうどんなど、専門店がトップブランドとして君臨しているものが多い。それに対して、主要なメニューを網羅した「名古屋めしのデパート」として人気沸騰しているのが、かぶらやグループの「名古屋大酒場 だるま」だ。19年4月のリニューアルで名古屋めし系メニューをより強化し、前年対比で何と140%、3000万円超の売り上げをたたき出している。
「当社の店舗はもともと地元のお客さま中心だったのですが、10年ほど前にのれんなどで『名古屋めし』を打ち出すようにしたところ、観光客が気軽に立ち寄ってくれるようになりました」と、岡田憲征社長。近年は特にインバウンドを中心に名古屋を訪れる観光客が増え、それが客数の増加に直結していると分析。加えて、観光客に対するインフラが未整備であることが、逆に飲食店にとってビジネスチャンスになっているという。
「名古屋に来る外国人観光客にとっては、名古屋めしを食べることが1つのイベント。京都で金閣寺へ行くのと同じようなコンテンツになっています。名古屋は大都市の割にシティホテルが少ないので、多くの観光客が食事が付いていないビジネスホテルを利用することになる。そこでわれわれのような飲食店が受け皿になるのです。観光客はファミリーも多いので、『だるま』は居酒屋でありながら主食にもなる鉄板ナポリタン、ひつまぶし、きしめんなども用意している。土日は特にこれらのメニューのニーズが高くなります」(岡田社長)
また、多彩な名古屋めしメニューを扱うことで観光客の期待に応えられると岡田社長は言う。
「名古屋めしには各ジャンルに横綱級の名店がある。しかし、旅行客や団体客らの“一度にいろんな名古屋めしを体験したい”というニーズは確実にある。各メニューの調理スキルを総合的に上げていき、このニーズに応えていけば、名古屋めしの楽しみ方ももっと広げていけると考えています」
名古屋めしは、種類が非常にバラエティに富んでいるのが特徴。それだけにそれぞれの企業の展開も多種多彩だ。全国展開、地元密着、コラボ商品の開発、インバウンドの獲得……。ローカルの食文化への注目の高まり、外国人観光客の増加といった世の中の流れは今後も続くことが予想される。その中で、ご当地グルメの代表格ともいえる名古屋めしが、観光都市を目指す名古屋において、いっそう存在感を高めていくことは間違いなさそうだ。(ITmedia)