【スポーツi.】隆盛極める女子ゴルフに潜む「2021年問題」

 
日立3ツアーズ選手権の後、石川遼(右)とのツーショット写真におさまる渋野日向子=15日、千葉県成田市のグリッサンドゴルフクラブ 

 前週開催「日立3ツアーズ選手権」(千葉・グリッサンドGC)は、男子、女子、シニアの3つのツアー対抗戦が行われ、今季の全ての大会を終えた。結果は8月に「AIG全英女子オープン」を制した“スマイリング・シンデレラ”渋野日向子、“賞金女王”鈴木愛らを擁して隆盛を極める女子ツアーが4年ぶり5度目の優勝をした。

 ギャラリーは昨年の約1.5倍の6567人。3組しかないので渋野、鈴木組に集中。同組で回った男子の堀川未来夢、シニアの谷口徹は驚かされた。

 「普段と全然人数が違う」と堀川。谷口徹は「やっと“生”日向子に対面できて、生で見られて、生でプレーできた。やっぱりうまい」と絶賛。女子ツアーには勢いがあるが、渋野の存在が大きいのがわかる。

 絶大な「渋野効果」

 数字も示している。今季女子ツアーの最終日平均視聴率は6.4%。昨年比1.3ポイント上昇したが、全英制覇以降の渋野出場の13試合平均は8.3%と全体を上回った。渋野が女王争いした最終戦は13.6%で前年の同大会比プラス9ポイント。まさに“しぶ子効果”である。

 男子はどうか。平均は4.7%で昨年比0.5ポイントアップしたが、女子の後塵(こうじん)である。最高視聴率は最終戦「日本シリーズJTカップ」の8.8%。唯一のスター、石川遼が逆転優勝を果たした大会だった(数字はいずれも日本ゴルフトーナメント振興協会調べ、関東地区)。

 会場に足を運ぶギャラリーも女子が圧勝。昨年比約12万5000人増の68万2868人。60万人越えは10年ぶりである。男子は約9000人減の32万7801人…。試合数(女子39、男子23)の違いこそあれ“格差”は歴然だった。

 ホスピタリティーの差がある。“おもてなし”やファンへ喜びを与えるような行動…。女子は前日本女子プロ協会会長の樋口久子さんの下、ファンサービスなど“おもてなし”を徹底し、いまの繁栄の礎を築いた。

 男子は昨年、プロアマ大会でゲストに不適切な行動をとったプロもいた。ギャラリーにサインするのに憮然(ぶぜん)としているプロも…。「俺たちはゴルフを見せている」という態度がある。これではファンは離れてしまう。選手会長の石川も頭を痛めていた。しかもここ数年、スターはその石川遼ひとり頼み。孤軍奮闘では限界がある。

 女子は毎年“新鮮力”が台頭する。今季、渋野日向子を筆頭に勝みなみ、原英莉花ら“黄金世代”が脚光を浴び、今季プロテストに合格した安田祐から2000年生まれの“ミレニアム世代”の存在もある。かつて宮里藍さんの出現でブレークした05年当時のシード選手(賞金上位50選手に付与される優先出場権)の平均年齢は31.6歳だったが、来季は26.3歳。若い資質があふれている。

 人材流出と放映権

 とはいえ、女子にも栄華の裏側に潜む問題もある。資質の海外流出である。渋野は言った。

 「来年は日本ツアーを中心にして東京オリンピックを目指しますが、2021年に米ツアーにいけるような準備をします」

 既に、今季優勝者の一人である河本結は最終予選会を通過して来季からの米ツアー出場権を得た。渋野も再来年に海外を意識した。賞金女王・鈴木愛、ビジュアル系“飛ばし屋”原英莉花ら多くの若手も海外を視野に入れ、準備している。

 それだけではない。女子プロ協会と大会主催者(主にテレビ局)にある放映権帰属問題である。現在は主催者側にあるが、協会側が帰属を主張して、話し合いは、いまだ平行線のままである。

 今季も協会側の主張に納得できない主催者側が一時、数試合の撤退を表明する事態に発展した。幸い現状維持を条件に、ファン感情を憂慮し、大会開催を優先した経緯がある。協会側は21年以降のツアーに関して、再び放映権帰属を主張する構えでいるが、主催者側も一歩も引き下がる様子はない。ある主催者は「問題は深刻…。一気に3分の1近くの撤退もあるかもしれない」。現在の39試合から大幅な試合減…も示唆していた。

 繁栄の陰で抱える人材流出と放映権…。いずれも21年以降ににやってくる。決して看過できない問題である。(産経新聞特別記者 清水満)