電力使用量をビッグデータに 次世代電力計「スマートメーター」がビジネス創出

 

 スマートメーター 生活パターン把握、他業種活用も

 電気の利用者と電力会社との間での双方向の通信ができる次世代電力計「スマートメーター」。ここに集まったさまざまな情報をビッグデータとして企業や自治体が活用し、新規ビジネスや防災などに役立てる取り組みが動こうとしている。特に家庭における電気の利用状況が詳細に得られることで、家庭での生活パターンなどを把握でき、新しいサービスや事業の開拓につながる可能性がある。

東京電力グループでは2014年4月からスマートメーターの設置が始まった(同社提供)

 利用価値高いデータ

 スマートメーターはデジタル式で、30分ごとの電気使用量を計測する機能を備えている。従来のアナログ式のメーターでは月に1度、検針員が直接電力使用量を読み取る必要があったが、データを通信で収集できるため、検針作業を不要にし、人手不足対策にもつながる。電気だけでなく、ガス、水道の利用データを、スマートメーターを介してやり取りする実証実験や取り組みも始まっている。

 2019年度末時点では、家庭向けなどの約6割がスマートメーターに切り替わる。24年度末までには大手電力10社すべてで、スマートメーターの導入が完了する予定だ。

 ここで得られるデータは有用だ。センサーを追加すれば、周波数などから、使用している家電製品の種類まで分かる。家電やガス、水道の使用状況を通じて、生活パターンを把握できるようになるわけだ。

 このデータを利用して、電力会社が提供できるサービスとしては、時間ごとの電気の使用状況に応じて、お得になる料金メニューの提案だ。機器が正常に動いているかや、消耗度合いを測定し、故障発生のタイミングを予測することも可能だ。9月の台風15号などの際には、高圧線は復旧しているが、低圧線や家庭への引き込み線に障害があるため、停電が続いていることを電力会社が認識できない「隠れ停電」の検出にスマートメーターが役立った。

 今後、注目を集めるのが、電力会社以外の業界がこのデータを活用することだ。現在の電気事業法では、電力会社以外の利用は認められていないが、政府はビッグデータの活用を成長戦略に盛り込んでおり、規制緩和に向けて経済産業省の有識者による議論が進んでいる。

 データの活用では、さまざまな事例が想定されている。

 夕方、一般家庭の電力消費量が急に増える時間があるとすれば、昼間不在だった住人の帰宅時間が浮かび上がる。地域全体でそういった時間を把握できれば、帰宅時間のピークが推測でき、地元のスーパーがその時間に合わせてレジ要員を増やしたり、時間帯別のセールを実施したりできる。

 見守りや在宅時配達

 個人を特定する契約が可能な場合は、電気や水道などの利用状況から、遠隔による高齢者の見守りサービスも可能になる。人手不足が問題となっている運送事業でも、在宅かどうかが分かれば、効率よく配達ができるようになる。

 問題はセキュリティーやプライバシーの保護だ。仮に電気を使っていないことが第三者に漏れれば、外部に留守であることを知らせることにもなる。不法侵入、空き巣を呼び込む懸念もあり、高度な情報管理が欠かせない。

 対策として浮上しているのが、個人からデータを預かり、企業に提供する「情報銀行」を介する仕組みだ。これによって、セキュリティーやプライバシー保護の問題の解消を図る考えだ。個人を特定させないケースや、利用者の了解を得て個人を特定する代わりに、高度なサービスが受けられるようにするなど、情報銀行は個人の希望に応じてデータを企業に提供する。

 経産省の有識者会合では、すでにおおむね合意が取り付けられており、政府は来年の通常国会に電気事業法改正案を提出する方針だ。普段の生活が有益なビッグデータとなり、社会課題の解決に向けた取り組みや新たなサービスを生む。そんな時代が間近に迫っている。(平尾孝)