散らばったIT企業が渋谷に再集結のワケ 「ビットバレーの活況」よ再び

 
ミクシィやサイバーエージェントが入居する渋谷スクランブルスクエア=東京都渋谷区渋谷

 【Shibuya進化論(中)】

 かつて渋谷に集結し、「渋谷ビットバレー」と呼ばれたIT企業群は、企業の規模が拡大したことにより、他の地域に移転してしまっていた。しかし再開発により、散らばったIT企業が集結。再びビットバレーとして業界の向上や後進育成に力を注ぎ、渋谷から世界を追い越すIT産業の流れを作り出そうとしている。

 集まりやすい街

 「渋谷」を英語に直訳した「ビターバレー」から名付けられたビットバレー。近年開業した渋谷ストリームにはグーグル日本法人、渋谷スクランブルスクエアにはサイバーエージェントとミクシィ、渋谷ヒカリエにはディー・エヌ・エーが入居している。なぜ今、再集結なのか。渋谷フクラスに第2本社を構えるGMOインターネットのチーフクリエイター、稲守貴久さん(40)は「渋谷は交通の便がいいのと、これまでの歴史があるから」と説明する。

 平成11年ごろのITバブルの際に、第1期の渋谷ビットバレーが始まった。IT企業が急成長を遂げるなか、スペースの不足などから転出が相次ぎ、動きは下火になったが、それでも起業家にとっては渋谷は「ITの街」という印象があるのだという。

 「開発作業などで一人で突っ走ってしまわないためにも、アナログのコミュニケーションを大切にする傾向がIT企業にはある」と稲守さん。ターミナル駅で、さまざまな場所から人が集まりやすい渋谷は魅力的な場所だ。また、成長に伴う各企業の規模拡大と、渋谷の再開発とのタイミングが合ったとも考えられる。

 もう一つは、「高度IT人材が必要といわれているのに、日本は育てる土壌が弱い」という課題意識だ。第1期に参加したサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィ、GMOインターネットの4社が再び手を取り合った。

 社の垣根超え向上

 4社は昨年から「ビットバレー」と題したワークショップや懇親会を開催し、学生や若手人材への普及や新しいサービスを作り出していくためのきっかけ作りを目指している。社内だけでなく他社とも情報を共有することがあり、「もう個社でやる時代ではない。業界全体で向上しなければ」と稲守さん。

 今年6月には、4社と東急は渋谷区と「キッズバレー 未来の学びプロジェクト」として、来年度から必修化されるプログラミング教育についてカリキュラム開発の助言やIT教育ノウハウ提供などの協定を結んだ。区教育委員会の担当者は「教員向けの研修も始まっており、とてもありがたい。これからの時代は情報活用能力が必須となるので子供たちの生きる力を育むベースとなれば」と話す。

 こうした取り組みの背景には、米国や中国の後塵(こうじん)を拝している日本のIT事情がある。稲守さんは「日本では米国や中国に比べて新しい企業が生まれる数が少なく、失敗しても再挑戦できる環境が弱い」と指摘。渋谷区が掲げる「ちがいをちからに変える街」を引き合いに出し、「多様性を推していく姿勢はITと親和性が高い。ITはまだ分からない、難しいという部分があるが、渋谷区はそれを受け入れてくれていて、結果的に企業の集積効果が生まれやすくなっている」と渋谷の魅力を説く。(吉沢智美)((下)は明日12月26日に掲載します)