「マジンガーZ」格納庫の総工費をはじく 常識破りのプロジェクト秘話

 
ゼネコン社員の奮闘を描く映画「前田建設ファンタジー営業部」 (C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション

 マジンガーZの格納庫の建設費は72億円 也…。2003年、大手建設会社「前田建設」は、人気ロボットアニメ「マジンガーZ」の格納庫の設計を実際に行い、その工期や建設費を公表して世間を驚かせた。映画「前田建設ファンタジー営業部」(1月31日公開)は、当時の前田建設の社員たちの奮闘の様子を詳細に描く。この奇想天外なプロジェクトは当初、社内でも奇異の目で見られていたというが、その後、同社の知名度を高めただけでなく、“地味で固い”という建設業のイメージまで一変させた。同営業部を創設した仕掛人に“プロジェクト秘話”を聞いた。

 「最初は上司や同僚にもあきれられ、社内に理解者はほとんどいませんでした。でも私にとっては、建設会社を知らない人たちにも、その魅力を広く知ってもらうための、真面目なプロジェクトだったのです」

 こう語るのは、ファンタジー営業部を企画した仕掛け人で、現在、同社の総合企画部広報グループ長の岩坂照之さん。当時は土木設計部にいた。

 「当時、日本の景気は低迷し、また、建設業界は談合問題などで世間のイメージが悪かった。どうすれば、建設業の魅力を世間に伝え、イメージを向上させ、多くの人に興味をもってもらうことができるか?」

 考え抜いた結果、岩坂さんは、とんでもないプロジェクトを上司に提案した。

 これまで同社が培ってきた技術を駆使し、マジンガーZの格納庫を設計し、建設の工程や工期、総工費の見積り書を作り、公開しようという、かつてどの大手ゼネコンも手掛けたことのない構想だった。

 突拍子もない提案に、上司たちにあきれられる中、岩坂さんの思いに賛同する仲間が各部署から集まり、「ファンタジー営業部」が創設された。

 同営業部は、社内組織の中には存在しない。「業務時間外の活動になってもやります」と声を上げた有志メンバーによって、同社のホームページ(HP)上で自主的に運営されていたのだ。

 だが、HP上で、マジンガーZの格納庫の設計方法や工期などが公開され始めると、次第にアクセス数が上がり、会社もその活動を認めざるを得ない状況になる。

 「当時はまだ今のようなSNSがありませんでしたが、話題が話題を呼び、会社のHPへのヒット数が凄い勢いで増えていったのです。それまでのアクセス数は本当に少なかったのですが…」と岩坂さんは苦笑した。

 設立当初は敵ばかり

 映画では、当時の広報グループメンバーを人気若手俳優の高杉真宙や上地雄輔、岸井ゆきのたちが演じている。熱血漢のリーダー、岩坂さんの役は、お笑いコンビ「おぎやはぎ」の小木博明が熱演している。

 「実際に建設費を見積もりして公開するのは取引先との関係上、やめてくれないか」

 「迷惑なので他の企業を巻き込まないでほしい!」

 営業部門など社内各部署から沸き起こる抵抗や圧力、クレームなどの実態も赤裸々に描かれる。

 「当初、ファンタジー営業部が受けた他部署からの非難や苦情などは、映画で描かれている通りですよ」。試写を見た岩崎さんは苦笑しながら打ち明け、こう続けた。

 「でも、我々は本気でした。遊び半分でないから、次第に社内の各部門の専門家たちが協力してくれ、実際の土木工事と同じ見積もり方法、工法などをできる限り詳細に公開していきました。その姿勢に、社内だけでなく他社など社外からも技術協力を名乗り出てくれるなど、このプロジェクトを応援してくれる支援者が集まり始めたのです」

 社内には敵ばかりではなかった。これまで、数々の高層ビルやダムなどを手掛けてきた建設会社のプロフェッショナルたちが立ち上がり、ファンタジー営業部の味方となってくれたのだ。

 企業イメージの向上

 「ファンタジー営業部」発足後、同社のHPのネットのヒット数は飛躍的に増大し、新聞や雑誌、テレビなどのメディアでも取り上げられ、2013年には、舞台化もされている。

 また、多くの学生たちの関心を呼び、リクルートの面でも大きな効果が現れ始めた。さらに、顧客にもファンタジー営業部のファンが増え、仕事の発注に結び付いたケースも少なくないという。

 マジンガーZの格納庫の設計を終えたファンタジー営業部の勢いは、そこで止まらなかった。

 「目標だった、これまで建設業界に興味のなかった層の関心を呼び起こすことができたんです。ならば、もっと夢を広げてみよう…」と岩坂さんは、さらにアイデアを募った。

 「銀河鉄道999」の地球発信用高架橋の建設費は37億円、「機動戦士ガンダム」のジャブロー基地の建設費は2532億円…。

 同営業部では、マジンガーZの格納庫の見積もりを出した後も、次々とSFアニメに登場する施設をテーマに選び、設計から開発までの見積書を手掛け、工期や総工費を算出していき、その活動は社内外で広く認知されていった。

 「建設会社の仕事は、ただビルなどを建設するだけではない…」。ファンタジー営業部を創設した岩坂さんの理念だ。現在、岩坂さんが力を入れて取り組んでいる仕事の一つが、建設業の枠を超えたインフラ作りだという。

 「既成概念にとらわれない自由な発想が、いつの時代も建設業界には求められていると思います」

 ファンタジー営業部の理念は、突拍子のない発想ではなく、現代の企業にこそ、求められている「仕事の理念」であることを証明しているのかもしれない。

【プロフィール】波溝康三(なみみぞ・こうぞう)

ライター

 大阪府堺市出身。大学卒業後、日本IBMを経て新聞記者に。専門分野は映画、放送、文芸、漫画、アニメなどメディア全般。2018年からフリーランスの記者として複数メディアに記事を寄稿している。