あんなステマもこんなステマも…ステマとは何か、経緯と対策の現状で考える

 

 2019年、ステルスマーケティング(以下ステマ)という言葉をネット炎上事例で目にすることが増えました。ステマとは「消費者に広告であることを隠して、騙して広告を読ませるマーケティング手法」のことです。この言葉の意味や歴史を詳細にとらえている人は実は少ないのではないかと思います。

 筆者は広告業界の専門家ではなくネット炎上対策の専門家なので、主にインターネット利用者(以下読者)の立場とネット炎上に関わる視点から解説します。※私の会社や親しい人間の事例については、分析記事にはそぐわない弁護や反論になるのであえて記事では触れてません。

 ステマ紀元前

 ネットにおけるステマ以前にも、類似の手法として「サクラ」「やらせ」という表現がありました。サクラは江戸時代からある言葉で、お客ではない内部の人間が観客のふりをして繁盛しているように見せかける手法です。バンドワゴン効果という行動心理学の用語は、多数の他人が選択している物は自分も選択したくなるという現象があることを指します。やらせレビューや品切れ商法など、現代のネットのマーケティングにおいても利用されている心理現象です。

 バナー広告やポスターなどの従来からある広告手法は、読者が見ても効果が薄いという実情があります。それらは広告だと容易に判別できることで印象に残らず、読者が読み飛ばしてしまうからでしょう。(「バナー広告には誰も関心を払わない」という科学的証明 - 島田範正のIT徒然)

 しかし営利企業や商業ネットメディアおよびそれらに関わる芸能人、モデル、漫画家、プロライターなどは経済活動として記事を執筆して情報発信をしています。広告代理店や編集者などメディアの実作業を担う人たちも同様です。

 消費者の良い認知を上げることで商品を売りたいプロモーション活動は全て広告ビジネスが関わっています。有料記事やサブスクリプションや会員制モデルやゲームのガチャなど直接的な課金ビジネスであってもプロモーション活動とは無縁ではありません。

 経済と社会規範の対立

 読者側の視点では「無料で無限に面白い記事を読みたい」というのが偽らざる本音になります。

 「コストが掛かる有益な面白い情報は、金銭で報われることで維持できる」→経済的な現状

 「利益をもらってるので本音を書いていない情報なのではないか。本音が知りたい」→社会規範

 インターネットは始まってから普及する段階まで、ネットの情報発信だけではお金を儲けられない、本当に書きたいことだけを書くという社会規範のルールで発展してきたという歴史的経緯があります。

 例えばネット用語で「嫌儲」と呼ばれる表現があります。お金儲けのためにインターネットを使うべきではないという主張や、ネットでの活動が収入につながっている他人への嫉妬を意味する言葉です。社会規範だけを重視して経済的ルールを否定する読者心理が存在すると言えるでしょう。

 読者の持つ「無料で無限に記事を読みたい」という要望は経済活動的には叶えることは難しいと言えます。

 この経済的現状と社会規範が矛盾して対立していることを、メディア側は読者と向き合って解決することが求められています。GoogleやFacebookなどは、読者の個人情報を元に広告内容を調整したパーソナライズド広告を出すことで無料閲覧モデルであっても経済的に維持運営しています。しかし、EUでは個人情報保護の視点で問題視されており、完璧な解決策とは言い切れません。

 社会規範のフリをした経済活動

 例えば商品レビュー記事は読者からすると、記事執筆者が自腹で購入した場合と、金銭提供や商品提供された場合では記事のニュアンスが変わり、「提供の場合は辛辣な本音が書かれていないだろう」という心理があります。前者の本音記事は社会規範に則っていて、後者記事は経済活動ということになります(実際には0か100で分類は出来ず、両者が混ざった状態になることが多いですが)。

 新聞・雑誌・テレビなどの旧来のメディアでは経済活動と社会規範の区別を明確にするべきという規制があります。例えばCMは番組と区別できるように放送しなければならないということが放送法第12条「広告放送の識別のための措置」にも明記されています。

 しかしネットメディアでは当初からその区別が曖昧なまま、メール、チャット、ネットラジオ、ニュースサイト、まとめサイト、ブログ、SNS、動画投稿……など新しいサービスが開発されて普及するたびに経済活動(マネタイズ)と社会規範(無料利用でユーザー数増加)がないまぜになりながら進化していきました。

 読者には「無料で無限に面白いものを」という性質があるので、社会規範に則って本音が書かれているフリをした提供記事を、そうであることを隠して読んでもらえれば、高い広告効果が得られます。

 これが広告を出す側がステマをやりたがる理由です。

 ステマの歴史経緯

 ステマ騒動は米国では2003年から存在します。

 日本では2005年あたりから2010年ごろまで「やらせ行為ブログ」やクチコミマーケティングやPay-Per-Post広告が炎上しました。

 2012年のネット炎上のときに「ステマ」という言葉が定着します。

 食べログレビューやペニーオークション詐欺事件などが報道で扱われることで、消費者を騙す欺瞞的な広告行為が存在することに注目が集まりました。この年は主にサイバーエージェントのアメブロ芸能人ブログにおいて本音のフリをした提供記事が大量に掲載されていることが発覚し、多くの読者たちが失望します(記事マッチ騒動)。

 2015年にはネイティブアドという言葉で、記事のような体裁の広告手法が流行ったり、ノンクレジット広告と呼ばれる広告主と記事筆者の関係性を明示しない広告手法が話題になりました(当然、読者視点では騙されたと感じる手法だが、広告業界は認知効果を上げるために行っていた)。

 この年には週刊ダイヤモンドがステマ批判特集を出版し、PR会社ベクトルが謝罪対応する事態になったり、Yahoo!ニュースが消費者保護のためにノンクレジット記事広告の掲載を停止することになります。

 またAOL、AppBank、ソシオコーポレーション(ロケットニュース)などが記事広告掲載について謝罪をしました。

 つまり2015年は第二次ステマ炎上の年と言えるでしょう。

 2016年にはテレビ局IBC岩手放送でR-1ヨーグルトのステマ騒動。2017年はタレントが浅草メンチ屋のオーナーであることを伏せてグルメ番組で絶賛したことが判明し炎上。

 青汁ランキングサイトにて自社社員が身分を隠して青汁ダイエット企画を投稿。謝罪対応に。

 クラウドワークスにおいて「政治系ブログ記事作成案件」騒動。

 そして2019年にはアナ雪2漫画騒動が起こりました。

 ステマの法規制

 ステマは米国では連邦取引委員会(FTC)が2009年12月に違法化をしており、広告主が法的責任を負うことになりました。英国も2008年にCPUTR2008「不公正取引からの消費者保護に関する規制」で違法化をしています。

 日本において消費者庁は景表法と特商法の「有利誤認」など不当表示や誇大広告に関してだけ規制をしており、ステマ行為に関しては「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」ガイドラインで警告をしているのに留まっています。つまり日本ではステマは法規制はされていません。

 ただし、法規制ではないが広告業界の自主的な規制ルールは存在します。

 JIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)やWOMJ(WOMマーケティング協議会)など広告業界団体が記事広告や商品提供記事における広告主と情報発信者との「関係性の明示」を義務化したガイドラインを2010年から2017年にかけて作成して公開しています。

 そして個人ブロガーに関わるJAO(日本アフィリエイト協議会)も現時点(2019年12月)では公開されていませんが、関係性の明示についてのガイドラインを来年1月中公開に向けて準備していると取材に対して返答がありました。

 日本アフィリエイト協議会(JAO)公式サイト上においても、アフィリエイト関係者の皆様向けに、ステマを防止するためのレビュー施策の取り組み方や、関係性の明示に取り組んで頂けない個人・法人に対する業界団体としての対応をまとめたページを近日中に掲載させて頂きます。

 読者の立場からすると、アメリカやイギリスのように日本もステマを法規制すればよいのではないかと考えると思います。

 2018年9月の消費者庁「第30回インターネット消費者取引連絡会」においてWOMJは「動きの速いWOMマーケティング業界では法規制はかえって消費者保護の足かせになる恐れ」「ここまでならOKという発想を生み出しやすい」と、ステマ違法化のデメリットについて主張しています。

 筆者もその意見には同感で、仮に違法化することによって厳密にステマ行為が定義されると、そのルールの穴をついてグレーゾーン業者が「お墨付き」を得ることが予想できます。同時にステマを使わずまっとうにメディア運営をしようと考えていた優良企業が、規制リスクを嫌がって撤退する選択をしてしまいかねません。つまり、ステマや広告の現状が、読者にとっても経済活動にとってもより悪化する事態を招きかねないと考えられます。

 特にインターネットは進化のスピードが非常に早く、法整備が次から次に出現する新システムに追いつくのは困難ではないかと思います。

 ステマではない行為がステマ呼ばわり

 2012年、2015年そして2019年とステマはたびたび大きなネット炎上を起こしている話題です。

 JIAA、WOMJ、JAOなどのガイドラインではPRタグなど明確に広告であることの表示のルールが決められていますが、解釈に幅があり悪く言うと脱法的に使われている項目もあります。

 「広告主体者の明示」「マーケティング主体の名称表記」がそれで、広告主が誰であるのかを明確に表示すればPRやADなどタグがなくても広告だと読者はわかるだろうという理屈です。

 ネットではバナー広告の効果が薄いという話が有りましたが、同じようにPRタグやADタグがついた投稿は広告効果の認知が下がるという実情が存在するようです。

 ゆえに広告業界側には「ガイドラインには従っているように解釈できるが、可能であればPRやADと書かずに広告を見せたい」というインセンティブが存在します。

 つまり読者と広告の騙し合いとも言える現状があります。

 そうなると読者側にも「これはステマではないのか?」とあらゆる投稿にステマ疑惑を持つようになる流れが出来てきました。

 企業のオウンドメディアに掲載されている自社製品の紹介記事なのに、「PRとついてないからステマだ」と苦言をSNS投稿されてしまう。もちろん会社の宣伝を自社のWebサイトに載せるのは誰が見ても宣伝と明確なのでステマではありません。

 作品に出演した俳優や声優が、レギュラー番組で作品について宣伝をすると「ステマだ」と批判される。これも演者という関係者からのただの「告知」であって、定義的にもステマではありません。

 自社オウンドメディア記事広告は、例えば「ブラウザのURL欄を見て、会社名とドメイン名の一致が判断できる」というデジタルリテラシーを要求しますし、レギュラー番組での出演作品告知も「情報発信者が作品当事者である」という知識による判断力が要求されます。

 リテラシーをあまり要求せず広告であることを伝えられる万能表記としてPRタグが使われていますが、伝わるがゆえにバナー広告のように広告効果が下がるため、業界側からはできれば避けたい手法になっています。

 ネット炎上の視点でも「ステマ私設警察」という状態になり、例えば自腹購入した食品や商品を勝手レビューしている個人の投稿や記事に「PRや提供の表示がないからステマだ」などと疑惑を向ける現象が発生していたりします。もちろん濡れ衣ですが、企業やブランドイメージは悪化します。

 ステマを指示していることの証明は、PRと書くな指示書や記事執筆者の告発証言で原理的には可能ですが、逆にステマを指示していないことの証明は不可能です。世に存在しないことを示すことは「悪魔の証明」となりますので。

 ステマ疑惑リスク

 約2カ月の範囲で色々なユーザーから投稿されていたチョコレート商品を勧めるクチコミ投稿が、スクリーンショットでひとまとめにされて「ステマなのでは?」と疑惑を持たれたことがありました。

 ねとらぼの取材に対して企業はステマではないと具体的に否定したことと、投稿日のばらつきや細かい内容からの推測ではステマとしては不自然で、単なる自主的な投稿ではないかという感想を持つ人も多く、疑惑は単なる疑惑でそれ以上の確定情報はないように見えました。

 しかし読者によってはその後の否定記事を読んでおらず、自ら細かく投稿内容まで精査せずに、なんとなくステマをしてる企業なんだろうなと疑惑を信じてしまっている人もいます。これはステマをしていない企業にとっては濡れ衣によるブランドのイメージダウンになり、非常に問題になると思います。

 経済活動と社会規範のすり合わせ

 「記事広告ではあるが、内容が面白いので読んでいて楽しめるから騙された気がしない」「商品提供記事だが、執筆者の過去の行動からレビューは本音で書かれているはずだ」「広告費で描かれているが、とても手間がかかって丁寧で分かりやすい体験漫画なので共感できた」--など、内容の品質面で読者を納得させて、読者との騙し合いを止める方針を取っている広告関係者も少なからず存在します。

 才能や手間暇をかけた記事を執筆するには、経済活動も必要だと思います。

 そして読者の「無限に無料で面白い記事が読みたい」という経済活動に反する要望にどう対処するのかという解決策の開発も求められています。ただ記事広告タイトルにPRとつければ良いというのは経済活動を無視した読者の社会規範だけの手法で、解決策や到達点だとはとても思えません。

 多くの読者のリテラシーと、自主規制ガイドラインのギャップを利用した騙し合いではない前向きな手法が望まれていると思います。(ITmedia)