【プロジェクト最前線】朝焼け・夕焼けも再現 三菱電機の「青空照明技術」

 
自然界に近い青色を表現できた三菱電機のLED照明(同社提供)
「青空を模擬するライティング技術」について説明する開発メンバー=神奈川県鎌倉市
三菱電機照明の掛川北工場における電源製造工程(同社提供)
静岡県掛川市にある三菱電機照明の工場(同社提供)

 自然光を表現、薄型化で商品化めど 

 三菱電機は、「青空を模擬するライティング技術」を開発し、2020年秋をめどにLED照明の商品化を目指している。フレームの厚さを10センチ以下に抑える薄型構造を実現したほか、奥行き感のある青空を表現。開放感のある室内空間を提供することで、労働者の意欲や能力を向上できる快適なオフィス環境につながると期待している。

 「照明を青空に」というユニークな発想に取り組んだのは、三菱電機先端技術総合研究所(兵庫県尼崎市)の若手研究員だ。同研究所オプトメカニズム技術部の岡垣覚主席研究員は「自然な光は人を快適にする」という思いを形にしようと、17年11月から開発を始めた。

 空が青く見えるのは、「レイリー散乱」という原理で説明できる。大気圏に太陽光が入射した際、波長の短い青い光は、長い赤い光よりも強く散乱されるため、地上から見上げると青く見える。光にむらがなく、奥行き感がある空を照明で再現するのが開発チームのミッションだった。

 生きた液晶テレビ技術

 LED照明で、大気圏に相当するのがパネル内にある散乱体だ。ここにLED光源をむらなく照射できれば、自然界に近い青色を表現できる。従来の技術では、散乱体と光源との距離がある程度必要で、照明全体の厚さは30~70センチとなり、オフィスなどの天井、壁に埋め込むには不便だった。これでは本来、薄さが特長であるはずのLEDのメリットが生かせない。開発チームは、通常の照明器具と同程度の10センチ以下に厚さを抑えることに目標を定めた。

 目標達成に貢献したのは、三菱電機の強みである液晶テレビのバックライトに関する薄型化技術「エッジライト方式」だ。この技術を応用して光源をパネルの両脇に置くことで、むらがない薄型化に成功したのだ。

 散乱の強弱を調整するのも難しかった。強ければ赤や白になり、弱すぎれば薄い青になってしまい、本物の空のように見えない。開発部署が当時、京都府長岡京市にあり、「京都の秋の爽やかな空」の光の配合を目指した。

 青空を模擬するために欠かせなかったもう一つの工夫は、「実際に太陽の光が差し込んでいるように見える」(岡垣氏)ことだった。そこで、LEDを囲む白いフレーム内部から白い光を出すことで、太陽光が差し込んでいる様子を再現した。

 朝焼け・夕焼けも再現

 また、白やオレンジ色など異なるLED光源の発光量を調整することで、朝焼けや夕焼け時の空を再現することも可能にした。岡垣氏は「ずっと青空の下で生活するのは、何らかの影響があるのではないか」と考えており、こうした時の移ろいを感じさせる機能が実現できたことに満足している。

 開発チームの一人、山崎はるか研究員は「みんなで役割分担がしっかりとできた」と振り返った。

 新技術への顧客の反応は上々だ。この技術をさまざまな展示会に出展する中で、「お客さまの反応が良く、われわれがこれまで考えていなかったような領域にも可能性があることが分かった」(三菱電機照明の高野俊仁商品企画課長)。

 当初は、窓のないオフィスや地下街、病院、保育園などでの活用を想定していた。これに、オフィス環境において、植栽とともに青空照明の活用が快適な空間になるとして期待されている。現在、商品化に向けて、量産品質を確保するための開発が進められている。

 三菱電機は、LED照明の商品開発において照明の配光や省エネ性、器具の長寿命化などに注力してきた。しかし、青空照明には今までの照明になかった価値の可能性が考えられる。高野氏は「青空照明にどんな将来があるのか、フラットな気持ちで模索していきたい」と意気込んでいる。(鈴木正行)

 ≪焦点≫70周年 メード・イン・ジャパンにこだわり

 昨年、三菱電機の照明事業は70周年を迎えた。静岡県掛川市にある2つの工場と、神奈川県鎌倉市の設計開発の研究施設の3拠点を軸に、メード・イン・ジャパンにこだわったものづくりを行ってきた。

 1949年、三菱電機大船製作所(神奈川県鎌倉市)で、直管蛍光ランプと照明器具の生産・販売が開始された。

 85年には国内初のコンパクト形蛍光ランプ(BB2)を発売。当時、欧米では、細い管の蛍光ランプを曲げ加工して小型化したコンパクト形蛍光ランプが開発されていた。三菱電機はガラス加工技術を駆使し、4本チューブのコンパクト形蛍光ランプを開発した。

 2000年に国内初のLED誘導灯生産を始め、本格的なLED時代が到来した12年には、自社のLEDブランドを「MILIE(ミライエ)」と命名した。

 一般の照明器具の無償修理保証期間が1年のところ、LED光源、電源ユニットに関して無償提供(2年)と合わせて計5年の無償修理保証期間を実現した。

 複数の工程において全数検査を実施し、さらに、独自の耐用年数試験を行うなど、出荷される製品への徹底した検査を実施している。

 三菱電機は、今回の青空照明の技術について、注力製品だとして技術を紹介する広告を作成。昨年10月には、優れた新聞広告を表彰する「第58回ビジネス広告大賞」(主催・フジサンケイビジネスアイ)で大賞に選ばれた。

 ■三菱電機

 【設立】1921年1月

 【本社】東京都千代田区丸の内2-7-3

 【資本金】1758億2000万円

 【売上高】4兆5100億円(連結、2019年3月期)

 【従業員】14万5817人(連結、19年3月期)

 【主な事業】車両用機器、ビル管理システム、産業用ロボット、タービン発電機、家電製品などの製造・販売