【ビジネスアイコラム】ロシア・アエロフロートが17年ぶり関空便を復活、懸念は

 
関西国際空港

 インバウンド弾み、懸念は政局

 ロシアの航空会社「アエロフロート」が6月、モスクワ-関西国際空港間の路線を復活させる。同路線はかつてアエロフロートと全日本空輸(ANA)が運航していたが、2003年を最後に途絶えており、実に17年ぶりの復活となる。モスクワを経由して欧州諸国と関西を結ぶ乗り継ぎ便としての利用が主要ターゲットとみられるが、増加率が高いロシア人訪日客の関西への取り込みにも貢献しそうだ。

 アエロフロートの発表によれば、新路線はモスクワ・シェレメチェボ空港と関空の間で週4便が運航される。これはモスクワ-関空間では、過去最大の便数とみられている。またアエロフロートは、最新鋭のエアバスA350-900型を初めて利用するといい、その期待の高さが伺える。

 新路線の最大の狙いは、「関空と欧州間のトランジット(乗り継ぎ)客の獲得」(ロシア旅行専門会社JIC旅行センターの神保泰興営業課長)とみられている。

 アエロフロートは「欧州・米国からアジアに向かうトランジットルートの提供」を重要戦略として位置付けており、同社の便はこれまでも、日本からモスクワ経由で欧州に向かう安価な渡航手段として利用されてきた。関空は「現時点では欧州向けの便数が少ない」(神保氏)のが現状で、今後増大が見込まれる関西と欧州諸地域間のビジネス、観光需要を取り込む狙いがある。

 新路線の就航にはまた、今後増加が期待される日本・ロシア間の輸送需要を獲得する思惑もある。

 日本政府観光局(JNTO)によれば、18年にロシアから日本を訪れたインバウンド数は前年比22.7%増の9万4810人だった。30万人を超える英国やフランスからの旅行者数には及ばないものの、伸び率では欧州地域ではトップだ。日本からロシアを訪問した客数も増加した。

 日露間では既に、関空以外での航空路線拡充が決まっている。日露では今春、成田と極東ウラジオストクを結ぶ直行便を日本航空(JAL)、ANAが相次ぎ就航させる予定で、年内にはANAが東京-モスクワ便を就航させるとの観測もある。

 ロシアは14年にウクライナ南部クリミア半島を併合して以降、国際的な経済制裁下にあり、経済成長率も低迷が続いている。しかし、日露間においては「16年に安倍晋三首相が打ち出した8項目の対露経済協力プランが進んでおり、ビジネス面でも人の往来は増加傾向にある」(日露貿易関係者)と指摘されている。ウラジオストクは日露の経済協力の対象地域で、新たな路線就航の呼び水となっているようだ。

 さらなる追い風もある。露政府は来年1月から、これまで極東やサンクトペテルブルクなど一部都市で施行されていた日本人訪露客向けの「電子査証(ビザ)」制度を全土で導入する計画だ。これは、事前にインターネットで登録し、承認を受ければ、そのままロシア全土に渡航が可能になるというものだ。ビザ取得の煩雑さが、日本からの訪露客増加を妨げていることは長年指摘されてきたが、大幅に簡素化される。

 関西では、インバウンド需要は「経済の柱の一つ」(財界幹部)と位置付けられ、そのエンジン役として重視されている。しかし、その約8割は中国や台湾、韓国からの旅客で占められ、“東アジア依存”が高いのが実情だ。そのため、欧米や東南アジアなど訪日客の多様化が急務で、規模は小さいとはいえロシアからの訪日客増や、欧州を結ぶ路線増は歓迎されている。

 ただ、日露間の旅行者の往来はこれまでも両国間の政治動向や経済状況に大きく影響され、伸び悩んできたのが実態だ。関西では25年の大阪・関西万博や、その後に見込まれる統合型リゾート施設(IR)の誘致など、インバウンド増につなげる施策が計画されているが、一時的な政治状況に左右されない交流の強化を図る必要がありそうだ。(産経新聞大阪経済部 黒川信雄)