話題・その他

あまりに韓国的な映画「パラサイト」ヒット 極貧「半地下」生活は無縁でない

波溝康三

 今、日本で公開中の1本の韓国映画が、世界中で注目の的となっている。韓国の鬼才、ポン・ジュノ監督の新作「パラサイト 半地下の家族」。仏のカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを獲得し、来月発表される米アカデミー賞の作品賞に、アジア映画として初めてノミネートされるなど話題は尽きない。映画のテーマは、「半地下」と呼ばれる低家賃のアパートで暮らす貧困家庭と高級住宅街で暮らす裕福な家族とを対比した格差社会だ。「韓国の経済格差問題を描いたので、この映画は海外では理解されないと思っていたのですが…」。来日したポン・ジュノ監督は戸惑いの表情でこう語るが、仏や米国など世界の先進国にとっても、経済格差問題は見過ごせない課題であることを、今作のヒットが証明する。先進諸国は経済格差問題を克服することができるのだろうか? 来日したポン・ジュノ監督に聞いた。

映画「パラサイト 半地下の家族」のワンシーン。父役をソン・ガンホ(左から2人目)が熱演する=(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
ソウルの「半地下」での生活を赤裸々に描く映画「パラサイト 半地下の家族」のワンシーン=(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 コメディー要素もあるエンターテインメント大作だが、映画の根底に流れるテーマは重厚だ。サブタイトルにもあるように、韓国の低所得者層が暮らすソウルの「半地下」の住居の家族と、丘の上の豪邸で暮らす高所得層の家族とを対比させ、現在の韓国国民が直面している格差社会に真正面から斬り込んでいく。

 韓国を代表する国民的スター俳優、ソン・ガンホが極貧家族の家長を演じていることも話題となった。

 失業中のギテク(ソン・ガンホ)は内職をする妻と浪人中の長男、美大を目指す長女との4人暮らし。路上を歩く市民から部屋の中をのぞきこまれるような半地下に建てられたボロボロの狭い住居で極貧の生活を送っていた。ある日、長男が友人の紹介で、学歴を偽り、豪邸で暮らす女子高生の家庭教師を引き受けたことをきっかけに、ギテク一家の人生は変わり始めるが…。

 元々、ギテク一家は中産階級だった。ところが、脱サラしたギテクの商売が失敗し、長男は名門ソウル大に落ち続け、家計は傾き、半地下でしか暮らせない状況に陥っていく。物語はフィクションだが、経済の危機的状況から抜け出せないでいる文在寅政権が抱える現代韓国社会の暗部の一端を赤裸々に伝える。

 韓国の全人口の約半数が首都ソウルに住むが、最高学府のソウル大学を卒業しても就職先がないほど今の韓国経済は低迷している。

 ソウルには、地上と地下の中間の「半地下」に建てられた貧困層用の住居が実際にあり、近年、林立する高層マンションなどの高所得者層の住民との経済格差が健在化。その格差は広まる一方だという。

 「私が学生時代にも半地下で暮らしている友人がいましたよ」とポン・ジュノ監督は苦笑し、こう続けた。「今もソウルには5~10パーセントの人たちが半地下で暮らしているといわれています。彼らの生活は映画でも描きましたが、外から家の中が丸見えでプライバシーもなく、洪水になれば、家の中は泥水であふれ、不衛生で極悪の環境です。そんな恐怖の中で日々暮らしている人たちがいることを、この映画で伝えたかった」

 ハリウッドスターを起用し、壮大な地球温暖化というテーマを描いたSF大作「スノーピアサー」(2013年)で世界進出したポン・ジュノ監督だが、「パラサイト」では、あえて今の韓国の社会問題に目を向けたかったという。

 経済格差問題は世界的課題

 「パラサイト」は、今年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門にノミネートされ、パルムドールを受賞したことで俄然、世界から注目を浴びることになる。これは韓国映画として初の快挙だった。

 カンヌの発表前、ソウルで行われた記者会見で、ポン・ジュノ監督は、「おそらく海外の観客はこの作品を100%理解することはできないでしょう。この作品はあまりにも韓国的で、韓国の観客が見てようやく理解できるディテールが散りばめられているから」と語っていた。

 だが、この心配は杞憂に終わる。カンヌでは審査員が満場一致でパルムドール賞に選定。

 さらに、来月9日、ロサンゼルスで受賞式が開催される米アカデミー賞で作品、監督賞など6部門にノミネートされたのだ。最高賞である作品賞へのノミネートは韓国だけでなくアジア映画として史上初の快挙だ。

 「パラサイト」を始め、近年、格差社会をテーマにした秀作映画が世界各国で相次いで製作されている。

 昨年、世界で話題を呼んだ、米の気鋭、ジョーダン・ピール監督の新作「アス」(2019年)は、米国の裕福な家族と、底辺の社会で生きる家族との対比をホラーで描いた。アプローチこそ違うが、現代米国の格差社会の問題に斬り込んだ力作で、「パラサイト」との類似点は多い。

 また、一昨年のカンヌでパルムドールを獲得した日本の是枝裕和監督の「万引き家族」も、「パラサイト」と同様、日本の極貧家族の視点から現代社会を描き、世界各国の映画関係者から絶賛された。

 なぜ、同時期に世界の映画監督が、経済格差社会をテーマに新作を描くのか?

 「同じテーマでの映画化はまったくの偶然ですね。ただ、世界の国々で、同じような状況に置かれ、苦しんでいる人たちが少なくない事実を示しているのでしょう。監督たちは、その問題が避けられない現代社会の重要な課題であると自覚している。むしろ、この問題をテーマに描かない方が、映画監督の生き方としておかしいと思っているはずです」

 誰もが直面している不安と恐怖

 「パラサイト」で、半地下家族と対比されるのが、ソウルの丘の上にある高級住宅街の豪邸で4人で暮らす裕福な家族だ。

 「片や半地下。片や二階建ての豪邸…。映画では、“希望(豪邸)”と“恐怖(半地下)”を対比しているのですが、誰もが、どちら側で生きていくのかは、実は紙一重だと思います。現代社会では、今、どちら側にいても安心はできません。誰もが、真っ逆さまに落ちていく可能性があるのです」

 長引く不況、リストラ…。日本も経済格差問題と無縁ではない。 「私が尊敬する監督の一人が日本の黒澤明監督です。今回の映画でも黒澤監督の『天国と地獄』などを参考にしているんですよ。日本の映画ファンに、『パラサイト』が、どう映るかは興味津々ですね」

 米アカデミー賞の発表が近づくほどに、「パラサイト」は一層、世界から注目されそうだ。

 格差社会に問題提起した一本の映画が、今後、世界の先進諸国に、どんな影響をもたらすのか、興味は尽きない。 

波溝康三(なみみぞ・こうぞう) ライター
 大阪府堺市出身。大学卒業後、日本IBMを経て新聞記者に。専門分野は映画、放送、文芸、漫画、アニメなどメディア全般。2018年からフリーランスの記者として複数メディアに記事を寄稿している。