【終活の経済学】墓じまい(4)経験者の声を聞く 子孫に負担残さずすっきり
■千葉県 砥上信廣さん(70)
◆長男ゆえの葛藤のすえ
□墓じまいした場所:福岡県みやま市内の納骨堂
□遺骨の安置先:千葉市内の納骨堂
□かかった費用
・墓じまい 5万円(地域で管理している納骨堂だったため、そこへの寄付金として)
・菩提(ぼだい)寺への布施(離檀料) 10万円
・新しい納骨堂 約90万円
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実家は福岡県みやま市にあり、明治時代から続く旧家。千葉市に生活拠点を移して長くなるが、旧宅、山、田んぼ、両親や先祖の墓は、長男の私がずっと管理していた。
しかし、実家の固定資産税や福岡への交通費など、管理費は毎年80万円以上。「これを息子に“負の遺産”として継がすわけにはいかない」と思った。
そこで、旧宅、山や田んぼの整理と、墓じまいを決意した。
長く続く家を自分の代で終わらせるわけですから葛藤はあった。しかし、誰も管理できなくなれば土地は荒れ、先祖や両親の顔に泥を塗ることになる。長男として無縁墓地となることだけは避けたいという思いがあった。
もとの墓は地元の自治組合が管理する納骨堂だ。
両親の十三回忌と七回忌を終えたところで、区切りとすることにした。菩提寺との関係も解消した。
次のお墓として選んだのは、千葉市にある「稲毛陵苑」という納骨堂だ。担当者が親身になって教えてくれましたし福岡から親戚が墓参りに来ることを思うと駅近くがいいと考えた。私の家からも、息子の家からも近いということが決め手になった。施設では法要や会食、ゆくゆくは自分たちの葬儀もできるというので、便利さも感じている。
墓じまいについては5年ほど前から菩提寺をはじめ、田舎の自治会や地元に残る弟、高齢となった叔母にも意向を伝えていた。寺には率直に、誠実に状況を相談しつつ、これまでの感謝の気持ちとして布施も渡した。
両親それぞれの法要で5万円ずつ納めた上で、さらに10万円。大きな金額でしたが、これまでの感謝の気持ちと、今後も地元と気持ちのよい関係でいるために必要だろうと判断した。
墓の引っ越しも終え、僕の終活もひと段落。あとは死ぬだけ(笑)。なんて思えるほど、いまはとてもスッキリした気持ちだ。
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■東京都 山口永寿さん(80)
◆墓参しやすい自宅近くに
□墓じまいした場所:新潟県内(34年前)、東京都の奥多摩(今回)
□遺骨の安置先:東京都内の自宅近くの寺院墓地
□かかった費用
・墓じまい 30万円
・新しいお墓:約260万円 (墓石<庵治石>、工事費、永代供養費などの計)
※別石材で建てた場合、同区画で165万円~
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実は34年前に1度、故郷の新潟県内から奥多摩(東京都)へと、両親、兄弟の眠る墓を引っ越ししている。奥多摩のお墓は、いまの住まいから車で約2時間弱。若い頃はドライブがてら夫婦で月に1回程度お墓参りに行き、草取りや掃除を行っていた。しかし、年を重ねると車の運転も心配に。昨年に免許を返納し、交通の不便さもあり自宅近くのお墓を探すようになった。
最初は、嫁いだ娘の相手方のご両親が既に他界されていることもあり、私たちと娘夫婦たちとの2つの墓を建てるつもりでいた。しかし、お墓は建てるのにも管理するのにも、そして解体するのにもお金がかかる。話し合いのすえ、両家(自分夫婦、娘夫婦)で1つの墓を持つことにした。
今回の墓は「メモリアルアートの大野屋」さんにお願いした。自宅から近いので、バスや徒歩でも簡単に行けるので、頻繁にお墓参りをすることができるようになる。またこのお墓は、「20年の有期限契約」か「永代使用」にするかをあらかじめ選ぶことができる。私たちが選んだのは永代使用ですが、万一この先、孫やその先の代になって、管理できない状況になっても追加費用なしで管理者側が墓を解体し、合祀墓(合葬墓)へと移してくれる仕組みになっているので、これであれば娘たちの代になってからも負担をかけずに済むし、安心だと思った。
区画は以前(奥多摩の墓地)よりコンパクトになったが、カロート(骨壺を入れる場所)のスペースを増やすことのできる墓だったので、奥多摩から移ってきた先祖のお骨も入り、さらに娘や孫の代まで大丈夫。当初2つ建てる予定だったところが1つで済んだ分、「庵治石」という質の良い墓石を選ぶこともできた。良い石であればメンテナンスもそれほど必要にならず、娘の負担にもならないと考えている。先々にわたって、経済的にも精神的にも娘に負担をかけなくて済むという点ではとても良い選択だったと思う。
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■終活ソーシャルワーカー・吉川美津子さん
◆成功させる「3つの心構え」
墓じまいは、墓石の撤去と遺骨をどのように扱うかがポイントになる。お墓に対する考え方は、家族・親戚間で異なる。墓じまいを成功させるための心構えを、著書『ゼロからわかる墓じまい』(双葉社)などの著作を持つ葬送・終活ソーシャルワーカーの吉川美津子さんにまとめてもらった。
(1)墓所の現状を把握する
現代のお墓の代表的な形状は、1つの石塔に複数の遺骨が納められている「家墓」といわれるタイプ。しかし、土葬で埋葬地点に自然石が置かれていたり、家型の大きな構造物が建っていたりするような墓所もある。そうなると形状だけでなく、お墓に対する意識や考え方も違う。
手続き面で厄介なのは、「みなし墓地」といわれる墓所だ。みなし墓地とは、1948年施行の「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」以前からあった墓地のこと。田畑の一角にあるような個人所有のお墓や、自治会で共同管理を行っているような村落共同墓地はみなし墓地である可能性が高い。みなし墓地は、行政の墓地台帳に登載されていない墓地が多数あり、改葬の手続きが煩雑になることもある。
(2)次世代への有縁を意識する
お墓は先祖との縁をつないでいくための装置であり、墓じまいは手段だ。お墓は墓守がいなくなって一定期間が過ぎると無縁墳墓と見なされる。無縁墳墓となったお墓は手続きを経て撤去され、遺骨は取り出されて合葬・供養されることもあるが、みなし墓地で手がつけられなかったり、墓石を撤去して再販売しても採算が取れない区画と判断されたりすれば、そのまま放置され続ける。墓じまいは先祖との縁を絶つのではなく有縁にするための手段として考えてみてはどうだろうか。
(3)墓じまいをしない、という選択も視野に
近年、墓じまいというキーワードが躍り、維持が困難な場合の選択肢として墓じまいが最も合理的な方法と捉えられがちだが、墓じまいをせず守っていくという考え方もある。
例えば、墓の掃除ができないという場合は「墓掃除代行サービス」を利用するのも一つの方法だろう。供養や管理についても、承継者が途絶えたときのことを考えて、数年分を一括で管理費や護持会費を納めておくことで、一定期間はそのまま供養・管理し続けられるシステムを取っている霊園・墓地も少しずつだが増えている。(『終活読本ソナエ』2019年秋号から随時掲載)
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【プロフィル】吉川美津子
きっかわ みつこ 社会福祉士。大手葬儀社や仏壇・墓石販売業者で現場経験を積み、専門学校で葬祭関連学科の運営などに関わる。著書に『死後離婚』『お墓の大問題』など。
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