新型肺炎 訪日客減少で消費に打撃 ホテルのキャンセルなど相次ぐ

 
大阪の観光名所、黒門市場でもマスクを着用して歩く訪日外国人観光客の姿が目立つ=1月28日、大阪市中央区(渡辺恭晃撮影)

 新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、中国人訪日客によるインバウンド消費に影響が出始めている。本来は書き入れ時の春節(旧正月)でありながら、高級ホテルのキャンセルが相次いでいるほか、拡大してきた医薬品などの販売にも冷や水を浴びせた。今後は中国企業と取引する日本の中小企業の経営問題にも波及しかねない状況だ。

 大阪市北区のリーガロイヤルホテルでは1月25日~2月末で、中国からの団体客のキャンセルが計144室となった。広報担当者は「これ以上、影響が長引いてほしくない」と話す。

 帝国ホテル大阪(北区)では、中国人の海外団体旅行が禁止となって以来、1日当たり20室程度のキャンセルがある。

 中国人消費の減少による影響は、医薬品販売にも広がる。冷却シートの「熱さまシート」など、中国では日本に行ったら買うべき“神薬”に位置づけられる商品を数多くそろえる小林製薬の小林章浩社長は1月31日、今年の販売動向について「マイナスのインパクトはあるだろう」と強調。好調だった昨シーズンの実績から大きく落ち込むとの見通しを示した。

 一方、中国行きのツアー中止も出ている。JTBは2~3月に催行する中国・湖北省行きツアーを中止。さらに北京や上海など一部の中国行きツアーも当面の間、中止するとしている。「北京の故宮博物院や万里の長城、上海ディズニーランドなどが休業・閉鎖され、ツアーの目的が満たせないため」(広報担当者)。阪急交通社も同様の理由で、2月17日出発分まで中国全土のツアーを中止した。

 SMBC日興証券は、中国からの団体旅行の停止が半年間続いた場合、中国人客による日本での旅行支出は約2950億円減少すると試算。牧野潤一チーフエコノミストは、新型肺炎の世界的な拡大が進むと、7月以降に開幕する東京五輪・パラリンピックを機に訪日を計画する外国人が訪日を手控える可能性が出てくると予測する。さらに旅行支出の試算を鑑み、「これ以上の影響がでてくるかもしれない」と指摘した。

 一方、中国企業を取引先とする日本企業や日本経済全体に及ぼす影響も軽視できない。牧野氏は、中国での生産や出荷が停滞する現状を踏まえ、「(企業の)キャッシュフローが滞る」と指摘。企業の手元資金が減少したとしても、原材料費や従業員の給料は支払わなければならない。中国企業が支払いの滞納、営業停止などを余儀なくされれば、取引先となっている日本企業にも影響が及びかねない。中国企業から代金の徴収ができず、金融面での問題が生じる可能性が考えられる。

 米アップルは中国で、春節(旧正月)休暇明けの生産再開を1月末から2月10日に先送りすると決めた。長期化した場合には下請け会社に影響が広がる可能性があり、関連会社の経営が悪化し、銀行によるつなぎ融資の見合わせが相次げば、資金調達が滞って破綻に追い込まれる企業が続出しかねない。「中国の政府や金融当局の対策がないと、どんどん悲観的になっていく」(牧野氏)と懸念が強まっている。