ほぐし身がたっぷり “おばちゃん”手作りの駅弁大将軍「さけめし」の秘訣
JR東日本管内で購入できる駅弁の頂点を競う「駅弁味の陣2019」(同社主催)で、最高賞の「駅弁大将軍」にホテルハイマート(新潟県上越市)の「さけめし」が選ばれた。同ホテルは7年前にも「鱈めし」で大将軍に選ばれている。なぜここまで人気の弁当をつくり続けられるのか。その秘訣(ひけつ)を探った。
“幻の弁当”から誕生
地元産のコシヒカリの上に肉厚のサケのほぐし身がたっぷり乗ったさけめしは、平成3年の販売開始時から内容を変えていない。同ホテルの男性調理人(69)によると、それまで販売していた幻の弁当「鮭ずし」に代わる商品として考案された。
塩昆布の炊き込みご飯にするか、混ぜご飯にするか。錦糸卵を盛り付ける場所はどこにするか。山崎邦夫社長(70)自ら開発に参画し、試行錯誤を経て完成したという。
1月10日の表彰式に合わせて公開された厨房(ちゅうぼう)では、重さ5キロ前後の冷凍ザケが何本もシンクに置かれていた。これを自然解凍した後、塩を振って寝かせる。切り身にし、しょうゆの味を引き立てる秘伝のタレを塗って染み込ませてから焼くのだ。男性調理人「タレは継ぎ足しで、昔の味を守っています」と誇らしげに話した。
女性従業員の手作業
厨房の奥にある調製室では、白い帽子にマスクをした女性従業員たちが黙々と具材を駅弁の箱に詰めていた。焼きあがったサケの切り身を冷まして味を落ち着かせ、風味をよくしてからダイナミックにほぐし、骨を丁寧に抜いていく。
「繊細で丁寧な手作業は女性にしかできない」と山崎社長。サケ漁の写真が印刷された包装紙で箱を覆い、ひもで結ぶまですべて手作業だ。駅弁味の陣の評価基準は、味だけでなく盛り付けや掛け紙も含まれるので、女性たちの仕事は重要なのだ。
ホテルハイマートには「弁当部」と呼ばれる部署があり、製造から販売・配達までを手掛ける従業員が計約20人いる。盛りつけなどに当たるのは、40~50代を中心に女性ばかり計11人。中には、78歳の大ベテランもいるという。
ローテーション勤務だが、朝一番の出勤時間は午前5時。駅弁大将軍を受賞し、東京駅でも販売するようになってからは午前4時に繰り上がった。一日につくる弁当は通常500~600個。このうち、さけめしは一日150~200個。今回の受賞は、彼女たちが夜明け前から起きだして弁当づくりに勤しんできた苦労のたまものだ。
勤続10年の岩崎玲子さんは「毎日コツコツつくってきたことが認められてうれしいです。お客さまにおいしく食べていただけるように頑張っています」と笑顔で話した。
真心が伝わる
駅弁味の陣は、鉄道の旅に欠かせない駅弁の魅力を発信し、観光や地域産業の活性化を図るため、JR東日本が24年から毎年開催している。栄えある第1回に選ばれたのが同ホテルの「鱈めし」だ。
棒鱈の煮つけをメインに焼きたらこ、わさび漬けなどが満載され、どのおかずも絶品。ホテルハイマートの駅弁で売り上げナンバーワンだったが、最近はさけめしが上回っているという。
8年目となる今回は過去最多の66点が21都道県から出品。昨年10~11月、購入者らから計約2万7000票が集まった。この激戦を勝ち抜いたさけめしに対し、JR東日本事業創造本部経営戦略部門の白田義彰部長は、表彰式でこう賛辞を贈った。
「ふたを開けた瞬間につくり手の真心が伝わるお弁当。真心の精神を大事にして、さらに心温まるお弁当をつくっていってほしい」
「やめないで」
ホテルハイマートは元々、明治時代に創業した「旅館山崎屋支店」として上越市の直江津駅前で旅館を経営していた。明治34年に駅弁の製造・販売を開始。4代目の山崎社長も子供のころから立ち売り箱を肩から提げて、駅のホームに立っていたという。
「駅弁をやめた旅館は多いが、うちは細く長くやってきた。駅弁だけでは正直、採算が合わないのですが、長年働いてもらっている“おばちゃん”たちがいる。彼女たちからも『やめないでほしい』『頑張りましょう』との声があり続けてきた」と継続の力を改めて確信する山崎社長。
その上で、2度目の受賞の理由を、「お客さま一人ひとりの顔を思い出しながら、朝早くから弁当づくりをしている現場の女性たちのおかげ」と語り、「彼女たちも感動し、感謝している。これを励みに、お客さまのためにおいしいものをつくっていきたい」と誓った。
さけめしはJR、えちごトキめき鉄道の直江津駅構内とJR上越妙高駅の売店で販売。3月末までは東京駅構内の駅弁店「祭」(まつり)でも購入できる。ホテルハイマートは予約販売のみ。税込み2000円。問い合わせは同ホテル(025・543・3151)。
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